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都市対抗野球1次予選のススメ~クラブチームの野球を「窓」として~

みなさんこんにちは、こんばんは、おはようございます。

矮人@シャルトル学派です。

久しぶりの投稿になります。

ようやく暖かくなってきて、野球が観やすい季節になってきましたね。
少しばかり、アマチュア野球について書きます。

都市対抗野球大会のイメージ(?)

突然ですが、皆さん、「都市対抗野球大会」という大会をご存知でしょうか。多分、この記事を読まれている方のなかには、ご存知の方が多いと思います。

では、その大会にはどんなイメージがありますか?
7月に東京ドームで行われて、全国の地方予選を勝ち抜いた、それぞれの地区の社会人野球チームが覇を競う大会。優勝旗は黒獅子旗で、各チームの応援合戦も魅力…そんなイメージがあるかもしれません。

さて、じゃあ、その代表を決める「地方予選」ってどんなイメージがあるでしょう?

それは、例えば東海地区ならば岡崎市民球場で行われて、企業チーム同士が各チームの沽券をかけて代表枠を争う場。特に代表決定戦は勝ったら天国、負けたら地獄で、言い様もない緊張感につつまれる。
で、その地方予選は、大体5月の中旬以降や、6月に行われる。
そんなイメージではないでしょうか。
5月中旬以降になると、(予選も含めた)今年の都市対抗が始まったなあ、って思う方も多いかと思います。

ただ、予選も含めた「都市対抗野球大会」って、実はもう始まっているんです。
上記の5月中旬以降の予選は、「2次予選」です。実は、その前段階として「1次予選」という予選があり、3月半ばの静岡県1次予選を皮切りに、既にいくつかの1次予選が行われています。

前置きが長くなりました。
本稿では、すこしばかり、この「都市対抗野球1次予選」の魅力についてお話したいと思います。

そもそも都市対抗野球1次予選って?

都市対抗野球1次予選とは何か。
カンタンに言うと、「都市対抗野球2次予選に進出するチームを決める予選」です。当たり前っちゃ当たり前ですけど。

3月から5月の間に開催され、多くは、各県ごとに開催されます。(九州のように複数県にまたがって開催する場合もあり)

一次予選の組合せの例を挙げてみましょう。
例えば、東京都はこんな感じ。

日本野球連盟公式サイト | 【東京都:大会情報】第94回都市対抗野球大会東京都一次予選 (jaba.or.jp)

上記の組合せに出てくる16チームのなかで、企業チーム登録はJR東日本と、日本ウェルネススポーツ大学東京だけ。
その他の14チームは、クラブチームです。

もう1つ、千葉県はこんな感じ。今年のがまだ確認できていないので昨年の組合せですが。

【社会人野球】組み合わせ-【千葉県】第93回都市対抗野球千葉県大会 : 一球速報.com | OmyuTech

11チームのなかで企業チームはJFE東日本、日本製鉄かずさマジック、JR千葉だけ。
なかには、企業チームが出てこず、クラブチームだけで1次予選を行う県もあります。

都市対抗野球1次予選は、クラブチームが主役なのです。

クラブ野球の魅力

じゃあその主役となるクラブチームってどんな野球をするの、って話ですが。
クラブチームといっても、一概に語れない面があります。
例えば、奈良県の大和高田クラブや千葉県のハナマウイのように、企業チームを倒すような実力を持つチームもあります。
ただ、ここでは、「都市対抗1次予選でよく観られる」ようなクラブチームの姿を少しお話したいと思います。

クラブチームの選手たち

クラブチームの多く(特に企業等のバックアップを受けていないチーム)の選手たちは、基本的に「社会人野球選手」としての顔以外の、優先すべき本業を持っておられます。
普段は学校の先生をやっていたり、家業を継承していたり。なかには大学教授なんていう方も。
あるいは大学生だけど所属大学の野球部に所属しなかったり、そもそも硬式野球部がないから、クラブチームに籍を置いていたり。
同じような理由で、高校生の選手もおられます。

他の方も言っておられましたけど、こう聞くと、WBCで話題になったチェコの選手たちを思い出しますよね? 単純比較はできないにしても、通ずる面はあるかと思います。

日によってがらっと変わるスタメン?DH不採用?DH解除?大谷ルール?

クラブチームの選手たちは、フルタイムの本職を持っている選手も多く、大会の日に出席できるとも限りません。
そのため、試合では、集まったメンバーを勘案して、スタメンが組まれます。集まった選手たちのなかで最善のメンバーを組むので、この前の試合では外野をやっていた選手が登板したり、捕手で出てた選手が外野で出たり、なんてことはしばしばです。野手が救援登板に走ったり、頻繁なシフト変更も見られます。

また、選手の集まりが悪い場合や、そもそも所属選手の絶対数が少ないチームの場合は、あえてDH制を採用しないこともよく見かけます。投手をしている選手に打力があることも多く、上位打線を打つこともあります。
また、同じような理由で、試合途中でDH制を解除し、交代投手を打順に組み入れることもしばしばです。
「大谷ルール」って話題になりましたよね。あれはJABAでも本年(2023年)より採用されていますが、実はクラブチームに親和性が高いルールなんです。
都市対抗一次予選ではないですが、先日のクラブ選手権東京都一次予選では、西多摩倶楽部の二刀流・片居木謙太選手(創価大)が、「大谷ルール」による先発出場を果たしています。

東京好球倶楽部 vs 西多摩倶楽部 ボックススコア-2023年JABA東京都クラブ春季大会 兼 第47回全日本クラブ野球選手権大会 東京都予選 : 一球速報.com | OmyuTech

このように、限られた選手層をいかに運用して戦っていくか、その日集まったメンバーでどう最適解を出すか、がクラブ野球の醍醐味とも言えると思います。前の試合とがらっと変わったシフトやスタメンをみると、今日はどんな野球を見せてくれるのだろう、と心が沸き立ちます。

個性豊かな選手たち

クラブチームの選手たちは、他に本業を持っているということを既に書きましたが、プレースタイルも独特です。
チームで長年プレーを続けてきた40代の選手がサードを守り、ゴロを処理してベンチから歓声が起こったり。
イキのいい現役高校生が先発して堂々と投げたり。
30代後半のショートストップが溌溂とプレーしていたり。
サイドスローから110キロ台の球を駆使して抑える投手がいたり。
女子選手が出場したり。
企業チームや独立リーグで鳴らした選手が、クラブチームでプレーを続けていたり。

出身校もかなり多様です。
私は大学野球でしたら東都大学野球リーグが好きなのですが、極端なことをいえば東都一部の学校出身の選手と東都四部の学校出身の選手が、バッテリーを組んでいるチームがあります(山梨県のGOOD・JOB硬式野球部の藤本鈴也投手(日大)-松下渓大捕手(東京都市大)のバッテリー)。
地域に根差したチームなら、その地域の高校や大学の出身選手が多くなります。また、硬式野球部がない大学の出身の選手もちらほらいます。
「多摩美術大」出身の選手がいるチームも、あります。
ベテランだったら、もう名前が存在しない大学の出身だったりもします。
「浜松大」とか「東農大生産学部」とか。「富士常葉大」とか。
選手名の後にコールされる出身校の多様性は、企業チームの比ではないです。

経歴にしろ、本業にしろ、年齢にしろ、プレースタイルにしろ、
いろんなバックグラウンドをもった選手たちがグラウンドでぶつかり合う、そんなクラブ野球の姿は個人的には「人間交差点」だと思っています。

柔らかな雰囲気、独特の空気感

クラブチームの選手たちは、本当に楽しそうにプレーしています。
もちろん真剣勝負ですが、選手たちは休日に野球ができることを楽しんでいます。
選手たちの声掛けは本当に面白くて、クスっと笑ってしまうことが体感で2イニングに1回くらいあります笑
真剣勝負のなかに内在する「柔らかな」雰囲気。これがどんなものかは、どこまで私が言葉を尽くそうが、実際に球場に行かないことにはわからないことかと思います。それほどまでに、独特の空気感があります。

クラブvs企業!!~まさに「都市対抗」?~

上につらつら書いたことは、「クラブチームの野球」の魅力ですね。
だったらクラブチームだけが出る、クラブ選手権の予選なり本選を観ればいいのでは、という話になります。
もちろんクラブ選手権はそれはそれで面白いですし、その魅力は語りつくせません。

ただ、「都市対抗野球大会」という大会は、三大大会で唯一、クラブチームも企業チームも含めた、JABAの全チームに出場権がある大会です。
企業チームは2次予選にシードされている地区も結構ありますが、1次予選に企業チームが出てくることもそれなりにあります。そう、都市対抗の1次予選では、普段は観られない、「クラブチーム対企業チーム」の試合を観るチャンスがあるのです。

東京の例を挙げましょう。
2022年のJR東日本は都市対抗東京1次予選に回り、最終的には2次予選にコマを進めますが、強打者揃いの打線がNbuyや全府中野球倶楽部といったクラブチームの投手の球に苦戦する場面もあったようです(全府中には永野将司投手(九州国際大、元ロッテ)がいるのもありますが)。
また、日本ウェルネススポーツ大学東京も企業チーム登録ですので、普段は公式戦でクラブチームと戦う機会がありません。大学生の彼らが、1次予選で老練なクラブチームのベテラン投手や打者とどう対峙していくかは、かなり見物です。

また、新興・中堅企業チームが1次予選でクラブチームと戦うのもまた大きな魅力です。
私も密かに注目している静岡県の1次予選は、現在ではクラブチームのみの大会となっていますが、最近まで企業チームのスクールパートナー(現在は休部)が参加していました。2020年の1次予選では、山岸ロジスターズや浜松ケイ・スポーツBC、静岡硬式野球倶楽部、焼津マリーンズなどのクラブチームが熱戦を繰り広げるなか、スクールパートナーが積極的な打撃を武器に見事1次予選優勝に輝いたのが印象深いです。
チームによって濃淡はあれど、野球が本業の一部といえる企業チームと、他に本業を持ちながら野球に並々ならぬ情熱を注ぐクラブチームの対決は本当に面白いです。両方のカテゴリの文化やプレースタイルの違いも垣間見えますし。企業チームのレベルにもよりますが、クラブが企業を倒すことも全くない訳ではありません。
また、その対決を観ることは何より、クラブも企業も関係なく、同じ「黒獅子旗」を争っているということを実感できる瞬間でもあります。JABA登録チームが純粋に「都市」を背負って戦う、「都市対抗=Intercity」の、最もプリミティブな姿と言っていいかと思います。
東京ドームで観るような、時には「企業対抗」に見える都市対抗の姿とは、かなり違う相貌が見えてくるのです。

鳴り物応援のない、プレー音の響く球場

1次予選には、多くの場合鳴り物応援がありません。
静寂のなか、打球音と、選手たちの声が響きます。
クラブチームの選手たちのクスっとさせられるような声出しも、そんな環境だから聞こえてきます。
これも、東京ドームの本選や2次予選の鳴り物応援付きの「都市対抗」とは、大きく違う姿といえるでしょう。
静かななかだと、選手たちの性格や、プレースタイル、雰囲気がよりはっきりと見えてきます。個人的には、これも魅力だと思います。

結論~都市対抗野球1次予選のススメ~

他にも、都市対抗1次予選の魅力だと思う点はたくさんあるのですが、ひとまずはこんなところで。

先日、山梨県の都市対抗1次予選を観に行きました。創部100年を超える、日本で2番目に古い社会人野球チームである都留市の桂倶楽部、伝統のある甲府市の山梨球友クラブ、最近力をつけている上野原市のGOOD・JOB硬式野球部、Arts International Clubなど、背負っている都市も、チームのバックグラウンドもそれぞれ違うクラブチームがぶつかり合う様は、観ていて非常に興味深かったです。
山梨県は昔から企業チームが根付かず、二大大会である都市対抗と日本選手権に県勢が出場したことがありません。しかし、クラブ選手権を含めた三大大会まで目を広げれば、県勢の出場チームは存在しますし、1979年には山梨球友クラブが同大会で優勝も果たしています。脈々と受け継がれている社会人野球の文化があることを、今回の都市対抗1次予選で感じました。

都市対抗野球の1次予選を観戦すると、クラブチームの野球を「窓」として見えてくる、都市対抗、さらには社会人野球の多様な裾野が見えてくるかもしれません。

少々筆が滑ったところで、今回は終わりにしたいと思います。長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!

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