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エッセイ 懺悔

 懺悔する。

 京都駅近くのホテルを出て、一休寺に向かうために近鉄の新田辺駅で降りた。電車もホームもぜんぜん混んでいない。

 キャリーバックを引きずっていたので、階段ではなく、エレベーターを利用した。

 私が乗り込んだエレベーターに、あとから、若い……ちょっとヲタクっぽい、ニートの匂いがする30歳くらいの男性が乗り込んできた。

 すると、私の頭から足元を、露骨に、ジロジロと、それこそ舐めるように何往復もして見るのである。

 こちらは、サングラスをかけて白いブレザーを羽織った白髪が混じっている怪しいオッさんをである。

 ちょっと……神経と常識を疑わざるをえない。
 そもそも、普通の人間に対してでも、あまりに失礼きわまりない。一般社会ではありえない行為だと思う。

 長年の山口暮らしで、そんな非常識な体験とは全く無縁だったのだが、やはり関西である。たとえ京都の南でも、すさんだ都会のエキスはたっぷり、人々に染み込んでいるのだろう。

 少なからぬ時間が経過し、完全に許せない瞬間がエレベーターの中に膨張して充満した。
 関西人なら、絶対に理解してもらえるはずである。
 時は満ちた。神の国は近づいたのである。

 私は、突然、山口人を放棄した。
 そして思考をふっ飛ばして、反射的に叫んでしまった。エレベーターという密室空間で……。

「ワレ なめてんのんか!」と、一喝。

 舐めるように見られたわけであるから。「なめてるのか?」と、聞くのがスジである。

 そうしたらその若い男が、急にひるんで、こう言った。

「なめてません」

 顔がちゃんと反省してたので、それで終了した。

 少しでも反抗的な態度が匂えば、

「なめてたやないかい?」と、追加で追い込む必要があるが、私はこの時、被疑者の、
「なめてない」という供述を、頭から信用したのである。

 本人もこの先、そういうことをしていい相手とそうでない相手を見極めなければならない、という点において、きっと貴重な勉強になったはずである。

 それでもそのあと、私がひとしきり自己嫌悪に苛まされ、良い子から外れた自分を責めたのは言うまでもない。

 何より、このあと一休寺の一休さんをお参りするというのに……。

 ああなんたる失態……。覆水盆に返らずとは、まさにこのことを言うのであろう。……合掌。

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