史上初の電力需給ひっ迫警報、電力供給システムはいつも後手後手

今回は、先日史上初めて発報された電力需給ひっ迫警報について、私の見解を述べさせていただきたいと思います。エネルギーを事業とする者として、言いたいことが山ほどあります。

2022年3月、先日史上初めての電力需給ひっ迫警報が発報されました。その直接の理由は、直前に起きた福島沖の地震です。震度6強を観測するような地震が起きたわけで、しかも東日本大震災の被災地が揺れたのですから、現地の人はトラウマが蘇ったことでしょう。怖かったと思います。
地震は自然災害なので止めることはできませんし、あれだけの強い揺れが起きたにもかかわらずあれだけの被害で済んだことは、むしろ称賛に値することだと思います。

この地震では原発ではなく火力発電所にダメージが発生しました。東京電力や東北電力の管区では原発が実質的に稼働停止しているので、火力発電所がその分まで頑張っていたわけですが、その頼みの綱が地震で能力のダウンを余儀なくされました。
こうなると、さぁ大変です。しかもまだまだ冬の寒さが残る季節なので気温が下がる日が多く、暖房の需要増加によって電力供給がひっ迫するのではないかとの見通しになり、そこで出されたのが史上初の電力需給ひっ迫警報です。正直、私もこんな警報があることは初めて知りました。
この警報を受けて岸田総理が取った行動は、節電のお願いでした。またもや、電力ひっ迫のツケを利用者に回すということのようです。
しかもこの電力ひっ迫警報は発報まで2時間の遅れが生じたというオマケ付きです。警報というくらい緊急事態のはずですが、それが2時間遅れたという体たらくです。

この警報を受けて、多くの人が同じことを思ったはずです。一部の火力発電所がダメージを受けただけで電力がひっ迫するということは、そんなにカツカツの供給体制だったの?と。私も真っ先にそれを思いました。
それまで首都圏に大量の電力を供給していた福島第一原発が機能停止したことは自然災害なので止むを得ませんが、それ以外の原発については何度もストレステストをしてきたはずです。あのテストは、再び稼働させるためのものではなかったのでしょうか?もう使うつもりがないのであれば福島第一と同じように廃炉をして代替となる発電所を設置する必要があります。使うのか使わないのか中途半端な状態を続けて、10年以上。結局、この10年で電力供給システムは何も変わっておらず、脆弱なまま放置されていたということです。

その代わりに再生可能エネルギーがあるという議論は、太陽光発電の専門である私に言わせると幼稚であると言わざるを得ません。太陽光発電は夜間や悪天候の日には発電しませんし、大規模供給網を支えるだけの蓄電システムを設置したとしてもコストは莫大なものになるでしょう。それを電気料金に転嫁しても、おそらく誰も納得しません。
臭いものにふたをするかのように放置されてきた電力供給網の脆弱性が明らかになったのに、なぜかそれを安定化させる議論があまり出てきません。政治もそうですが、世論もです。もう、電力がひっ迫したら停電してもいいと考えている人が大多数なのでしょうか?

停電はその時間帯さえ我慢すれば良いと思っている人がいるかもしれませんが、そんなに簡単なことではありません。医療機関で停電が発生すれば人名に関わりますし、IT社会を支えるデータセンターで停電が起きると多大な損失につながります。突然のブラックアウトで東証が停電して株取引ができなくなったとしたら、世界はどう感じるでしょうか?
これまで放置されてきた電力供給の脆弱性は、そんなリスクと隣り合わせなのです。なのに、何もしてこなかった。いえ、しようとしたのに議論さえ許さない風潮や世論もありました。
今回のことで脆弱性の問題をしっかりと議論して、現実味のある対策にシフトしていくことを強く願います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?