詩・散文3

檸檬

「あなたはあまい」
と貴方は言うわ
いいえ、あたしはすっぱい檸檬
「あなたは陽の色をしてる」
と貴方は言うわ
いいえ、そんなに温(ぬく)くはないの
「あなたを通った陽の光、
きっとあなたに染み込んで、
あなたを芯まできいろく染める」
と貴方は最後にそう言うわ
いいえ、芯まで一色(いっしき)しかない、
あたしはまったくつまらぬ女

それでも貴方はあたしを齧り、
その渋面を見せつけるのね。
あたしが酸いのに悪気はないの、
貴方が齧るのがいけないんじゃない。

タバコの合間にひといきついて、
口直しにと唇よせて、
口説けば甘くなろうだなんて、
あたしはそんなに器用じゃないの。
皮も剥かずにナイフを入れて、
垂れない果汁に舌打ちをして、
そんなふうにされたって、
あたしはつまらぬ檸檬ですもの。
芯まできいろい檸檬ですもの。
貴方のためにあまくはなれない。

もしそれでも、
もしそれでも、
さいごまで齧り尽くしていただけるなら。
あたしは、あまくなろうとするかしら。
さいごまですっぱいままかしら。
貴方、貴方よ、どうかこの身を、
どうか……

打ち捨てられた檸檬の皮に、
貴方はも一度渋面つくり、
そうして貴方はなに言うかしら。
そうして貴方はなに言うかしら……

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