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地方演劇を真面目に考える会 特別編 その2 【モチベーションの差問題について考える編】

概要

2021年に和歌山市のクラブゲートと、オンラインで開催した「地方演劇を真面目に考える会」の記録です。以下のHPにて、開催した動画のアーカイブ、アンケートデータや、インタビュー動画をご覧になれます。ぜひご覧ください。

役者のモチベーションの差問題について考える

自分自身、劇団を15年程やって、他の団体を見てきたりして、劇団のトラブルになる原因の三大要素は、恋愛・金、そしてこのモチベーション問題だと思います。恋愛とお金は、演劇うんぬんじゃなくて、社会人として解決すべき問題なので今回は触れませんが、このモチベーションの差問題については、一度きちんと考えておいた方がいいかと思い、今回少し寄り道して特別編としてこの問題をじっくり考えてみたいと思います。

なにが問題となっているのか?

まずモチベーションの差とは何かをはっきりしておきたいと思います。色々な状況やパターンがあるでしょうが、とりあえず考えられるパターンを分類してみました。
モチベーションの意味
モチベーションという言葉には、主に次の二つの要素を含んでいると思います。
1 作品制作に対する積極性
2 技術面・知識面の差

これが軋轢を生んでいるのですが、そもそもこれが同じぐらいならば、問題が起きないという事になります。(ほかの問題はおきそうですが、今回はモチベーションのみに焦点を当てていきます)
原因
1・役者間 ・役者間で稽古に対する姿勢に差が生まれている。
2・制作側と役者間 ・制作側(主に演出)と役者の間で、考え方で差が生まれている。
3 技術面問題
 ・役者間や制作側との技術的な差が生まれている。
の三つに分かれていると思います。
そして、結果として、
1 作品制作が進まない。
2 人間関係が悪くなる。

のこの2つが起きることが問題になっているのだと思います。
では、この根本の原因がモチベーションの差があるからだとするのは、すこし怪しいと思います。そもそもなぜモチベーションの差が発生するのか?について考えていきます。

モチベーションの差はなぜ発生するのか?

簡単に原因と要因と関係性を抜き出してみましたが、ではなぜこういった状況が発生しているのかを、細かく検証していきたいと思います。
ここで、先ほど抜き出した、原因と要因を合わせて考えていきたいと思います。

1 役者間でモチベーションの差問題が発生する理由

1-1積極性について
●スケジュールなどの稽古参加率に関する不満が発生する
演劇は、一人芝居以外は数人以上集まって練習・稽古をすることになります。そうすると、参加できない人が出てくると稽古が進まなかったり、最悪中止になってしまいます。そうすると参加している側の役者は、時間的にや交通費などの損をこうむることになります。これは不満がでて当然な状況だと思います。

1-2技術面・知識面の差
●技術・知識を集団内で比較的持っていない役者によって稽古が進まないことにより、不満が発生する
演技については、身体的な物から心情的な物まで様々な技術が存在します。経験値によってもその技術の熟練度や知識の量は変わってきます。後述しますが、どちらがいいとはいいがたいのですが、問題が起きる場面では、熟練度の高い役者が「足を引っ張られている」と感じることによる不満が発生する事が多いと思われます。

2・制作側と役者間でモチベーションの差が発生する理由

2-1積極性について
●スケジュールなどの稽古の参加率が低い役者によって稽古が進まないことにより、制作側に不満が発生する
制作側が、役者の稽古の参加率や積極性が足りないと感じて、不満を持つという事が多く見受けられます。
また、逆に制作側がやる気がなくて、役者側に不満が発生するパターンも存在します。

2-2技術面・知識面の差
●技術・知識が集団内で統一されておらず、目指すべき方向性が不満が発生する
役者間でも発生しますが、制作・役者間でも発生します。演劇や演技の技術は一つの正解が存在せず、また同じ台本でも解釈や演出の方向性によって、全く違うものになります。それは人によって違うのは当たり前なのですが、一つの作品を作るうえでそれがずれてしまうと軋轢が生まれる事があります。
また、目的が違う場合も考えられます。目標を、やがて大都会へ出て、役者として生計を立てたい人と、純粋に演劇を楽しみたい人が混在する場合は、モチベーションの方向性が違うのに、同じ演劇、同じ方法論だと勘違いして、すれ違い、軋轢が生じることも考えられます。

3・技術面においてモチベーションの差が発生する理由

3-1積極性について
●日常的な技術・知識の習得に置いての、積極性の差に不満が生まれる。
モチベーションの本来の意味に近いかもしれませんが、最初は同じぐらいやる気があっても、様々な要因によって、やる気が失われていったり、高いやる気の人が技術・知識を蓄えて、まわりとの軋轢を感じてしまうことがよくあります。それが稽古での技術面・知識面の差が生まれる要因にもなると思われます。

4・パワーバランスが悪い

近年、問題になっているパワハラ・モラハラ問題も、モチベーション問題に関係あることだと思います。上記で書きましたが、本来、フォローすべき立場の人たちを、フォローできないというのはおかしな状況です。これらの問題が発生する背景の一つとして、団体内のパワーバランスの問題があると思われます。一つの団体はどうしても決定権などの権力がどこかに集中してしまいがちだったり、先輩後輩という上下関係なども関係してくるでしょう。

モチベーションの差を解決する方法は?

1-1積極性について ●スケジュールなどの稽古参加率に関する不満が発生する

これは役者の問題というよりも、制作面でまずは解決できるかとおもいます。
・スケジュール管理をしっかりする。
・スケジュールに合わせた作品作りをする。

まずは、この二つが考えられます。稽古の参加率などはスケジュールの管理ができていれば起きない問題かと思います。
ただ、それでも解決できない場合。例えば、そもそもスケジュールが空いていない人が参加している。やむを得ない状況により、参加率が下がってしまった。等が考えられます。
そういった場合は、それを踏まえた作品制作に切り替える必要があると思います。出演者のスケジュールは、劇団の方針によってどこまで負担してもらうかが決まりますが、その条件が作品制作上の前提条件で考えれば、起きない問題かと思います。
また、それを踏まえての、コミュニケーションを制作側と出演者側でとれているか?も大事です。
・そもそもスケジュールが合わない出演者を呼ばない/出ない
まず、これが一番大事かなと思います。スケジュールが合わない出演者がいるから、問題が起きているわけで、お互い損をしている状態です。これは制作側のミスだと思います。どうしてもこのスケジュールの出演者に出てほしい、出てもらわないといけないのなら、やはり上記の対策をとるべきであって、この問題については、制作面がしっかりと管理し、コミュニケーションを取ればいい事だと思います。
また、逆に参加する側すれば、スケジュールがあまり取れないので参加できない、演劇ができないという状況が生まれてしまうかもしれません。そういった場合は、無理に参加すればお互い嫌な気持ちで稽古期間を過ごすことになりかねません。まず、きちんと稽古スケジュールについて、参加を決める前に確認を取る必要があります。また、非大都市圏で、参加する選択肢が少なく、どうしてもスケジュールが合わないという事も考えられます。その場合は思い切って、自分で公演を立ち上げるのもいいかと思います。難しく考えてしまうかもしれませんが、 演劇をやりたい気持ちあれば、さほど難しい事ではありません。できる事に制約はできるでしょうが、それとの兼ね合いを考えて、行動する事も必要です。どのような理由であれ、演劇をやりたい人が出来ない状況というのは、一番良くないことだと思います。

1-2技術面・知識面の差 ●技術・知識を集団内で比較的持っていない役者によって稽古が進まないことにより、不満が発生する

これは、各方面からのアプローチができそうです。

・経験者がフォローをする。
これが一番いい解決方法だと思うのですが、そもそも技術差等がある場合、それを責めてもしょうがないと思います。そんな誰の得にもならないことをするよりも、その人をフォローする事が必要かと思います。それがうまくいかないのであれば、フォローする側の問題がないのか?をまず疑ってみるべきです。自分の事だけでなく、相手の事を考えるのも、演技の内ですし、フォローするスキルがない自分の技量を反省すべきではないでしょうか?

・技術・知識差のある人がいることを前提に作品作りする。
上記でフォローすべきだと書きましたが、実際の稽古場では、なかなか時間や制約がそれを許さない状況があるのも確かです。その場合は、それを踏まえた作品作りをする事を考えたほうが良いのではないでしょうか。演技力の高さだけが、演劇の魅力ではないので、その人がどうやったら、この芝居で輝けるのか?を考えるほうが、建設的な時間の使い方だと思います。

・技術・知識差のある人を呼ばない。
技術などの差がある人がいる場合、それを踏まえた作品作りは案外難しいものがあるでしょう。演出なり、団体側がそれを理解する事がまず先決です。そうすれば、そういった人をよんで、お互いに嫌な気持ちになることもないでしょう。こういった状況に陥った場合、技術等がない人を責めるのではなく、そういった状況にしてしまった、団体なり公演責任者が一番責任を持つべきであり、問題があるのではないでしょうか。そして、呼ばないのは技術などが低い人ではなく、高い人の場合も当てはまるという事は付け加えておきます。技術・知識では、演劇の面白さが決まるものではないからです。

2-1積極性について ●技術・知識を集団内で比較的持っていない役者によって稽古が進まないことにより、制作側に不満が発生する
上記でも書きましたが、そもそも制作側が不満を持つ方がおかしいと思います。そういう状況を作ってしまった責任があるからです。
ただ、解決策としては、必ずしも、制作側のみで解決するものではなく、出演者を含めたチームの仕事だと考えられます。
・経験者がフォローをする。
・技術・知識差のある人がいることを前提に作品作りする。
・技術・知識差のある人を呼ばない。
特に出演者が多い場合は、演出や、演出補佐など制作チームだけではそこまでフォローする余裕がないかもしれません。その場合でも、他の出演者にお願いをするなどは出来るはずです。まず、そういった問題が起きてしまったのならば、それを解決できない制作チーム側の技術力のなさを反省すべきだと思います。

2-2技術面・知識面の差 ●技術・知識が集団内で統一されておらず、目指すべき方向性が不満が発生する

これはそもそものコミュニケーション不全が起きている状況の場合が多いと思います。こういった状況が起きやすいのは、演出側が、あまり慣れていないことが多い集団の事が多く、出演者たちが、演出に答えを求めている状況ともいえます。
・きちんと問題について話し合える環境・状況を作る。
これは、演出側からもありますし、役者がからもいえることです。分からないことを分からないままで不満をためるのは、お互いにとって良くない状況かと思います。しかし、そういった気軽に質問ができない環境の稽古場があることもあります。
・自分に合わない団体に出演しない/呼ばない
これに尽きるかと思うのですが、演劇観が合う、合わないはあると思います。そして、コミュニケーションが取れないような団体なら、そこにいてもあまり意味がないと思います。ただ、どうしてもこの団体の作品に出たかったから。とうい状況があるとは思います。ですが、コミュニケーションもとれないのであれば、その団体は開かれていない残念な状況だったと諦めるほうがいいと思います。普通の劇団は、育成やコミュニケーションを大事にしています。

また、都会進出を目標にもつ人と、純粋に演劇を楽しみたい人の軋轢が生じる場合は、単純に「都会進出が偉い」とか、上手い方が偉いという間違った認識がある場合と、お互いを尊重でできていない可能性があります。大きくは演出が方向性を考える必要があるのですが、演出家として経験が浅いうちはただただ戸惑うと思います。
ただ、その人がやりたい、その人がやれば面白い演技を、バラバラでもいいので、突き詰めていけば何か見えるかもしれません。そもそも、そういう段階のコミュニケーション不全が起きている段階で、団結力もあったものではないので、一回の公演でまとまりのある作品を作るのは難しいと思います。どういう作風がやりたいのか、できるのかを焦らず見つけていく作業が必要かと思います。

3 積極性について ●日常的な技術・知識の習得に置いての、積極性の差に不満が生まれる。

それぞれにやる気(モチベーション)に差が生まれてしまうのは、どうしようもない問題だと思います。そこにやる気が高い側が不満を持つのも分かります。しかしそのままだと、低い方はより低くなって、団体の崩壊を招きかねません。
・稽古以外にコミュニケーションをする時間をとる。
昔は稽古終わりに飲みに行ったりといったコミュニケーションをとる劇団が多かったようですが、現在はそういったこともへり、稽古だけして、後はすぐ解散といったことも増えています。さらに、上の立場の人から、稽古後にそういった場を設けるのを、下の立場の人からすれば拒否しづらいという声もあがってきています。それはそれでいい事だと思うのですが、そうするとコミュニケーションが薄くなってしまい、知らぬ間にモチベーションの差が生まれていることに気づけず、お互いを理解できなくなっていってしまいます。公演の稽古も大事ですが、それだけではなく、公演以外の練習をする、稽古前後に、コミュニケーションを図る時間を作る事でも、長期的に考えれば団体として有益なことかもしれません。また、お花見や忘年会的なものでもいいので、親睦を図る時を作るのは意外と重要な事だと思います。
・技術・知識よりも、その人の良さを重視した作品作りをする。
後述しますが、そもそも技術・知識は演技の唯一の方法ではなく、あくまで一つの要素であり、その人本来の魅力には勝てません。技術があればよりいいのかもしれませんが、それよりも、その人が輝く作品作りを考えれば、そもそも技術などの差は気にならないと思います。
・合わないなら、団体から抜ける・呼ばない。
結局、合わないならやめるのが早いかなと思います。

4・パワーバランスが悪い

こういった問題がある団体は、少なくないのではないかと思います。パワハラ・モラハラとまでもいわずとも、演劇は演出家が偉くて、役者はそれに従うという構造になりがちです。しかし、実際はそんなことがなく、役者も立派なチームの一員です。また、先輩後輩も同じチームの一員であるべきです。しかし、そういったものは悲しいかな理想論で、そういう環境を作り上げるのはなかなか難しいものがあります。
特にこの問題の難しいのは、加害者側に問題意識がなく、被害者側がパワーバランス的に弱く、意見ができないといった、改善しづらい状況にある事です。
・第三者の意見を聞く。
・コミュニケーションを図るようにする。
・パワハラ・モラハラのチェックサイトでチェックする。

もし、そういった状況にあるかもしれないという気づきがあれば、まずは第三者の意見を聞いてみるのが建設的です。同じ団体内では、気づけないことに気づいてもらえるかもしれません。
また、パワハラ・モラハラの加害者が気づいていない状況であれば、コミュニケーションを図ってみるのも、最初の一歩かもしれません。まだ、そういった問題については、考えられ始めたばかりで、どうしたらいいのか悩んでいれば、まずはネットで調べてみるのも大事です。そこから問題解決の糸口がみつかるかもしれません。(自分は専門家ではないので、専門家の意見を参照する事が大事だと思います)
・そういった団体に入らない・やめる。
もし、加害者に意識がなく、コミュニケーションも難しく、そういった状況から抜け出せないのなら、その団体からさっさと抜け出すのがよいでしょう。いやいや演劇をやってもしょうがありません。いくら作品が素晴らしくても、いつか無理が出て、団体自体が大きなトラブルに巻き込まれてなくなってしまうかもしれません。
実際、役者をロボットや奴隷のように考える演出家は存在しています。そういう環境が好きならばいいでしょうが、そうではないなら、演劇を嫌いになる前に、もっとよい環境を探した方がいいと思います。

人間関係の問題について

ここまでで、いろいろな解決方法について考えてきましたが、コミュニケーションの問題であったり、作品制作上の問題であったりは、解決できないものではないと思います。ただ、人間関係が悪くなる。というのが一番の問題だと思います。そもそも、モチベーションの差はあってしかるべきだと思います。おそらくプロの役者が集まっている現場でも起きる事態だと思います。人間関係が悪化して、作品制作にも影響を与えて、団体内の空気も悪くなってしまうという事も起きます。そして同じような問題が起きていると思います。しかし、そこで対処する事ができる技術を持っている人が多いのも事実だと思います。ここで書いたこともその一つではありますし、実際にはほかにも沢山の対処方法が存在すると思います。それには経験値が必要かもしれませんが、乗り越えられない問題ではないと思います。しかし、それは本当にモチベーションの差が原因なのか?とも思います。人間関係の悪化は、演劇に限らず様々な社会内で発生する事です。そして、モチベーションの差があっても、人間関係は良好な団体があります。むしろそちらの方が多いのではないでしょうか。つまり、モチベーションの差は、きっかけの一つであって、原因ではないという事です。人間関係悪化の原因は、おそらく別の所に存在していると思います。
まず、大事なのは、劇団の方針をしっかりするということです。
モチベーションの差を受け入れるのか、排除するのか?は、劇団の方針がはっきりしていれば、決まるはずです。そしてそれさえはっきりしていれば、モチベーションの差が問題になりづらいはずです。
人を大事にするのならば、モチベーションの差は受け入れるべきです。そして、それを克服する技術を学ぶべきです。
それよりも、作品を優先するのならば、モチベーションの差が起きる状況を予防する方法を学ぶべきです。その時に、人を選ぶことがあっても、それが作品のためだと堂々と言えればいいのだという事です。

そもそもモチベーションの差は是正すべき問題なのか?

やる気の問題や、技術の差というのは、案外、当人の問題というよりも、その状況が生まれてしまった原因が一番の問題だと思います。そして、それを解決するのは団体であり、その責任者だと思います。しかし、原因がそこにある場合もあります。そういった場合っは、そこの団体から離れるのが一番の解決策だと言えます。
残念ですが、一つの劇団にこだわる必要もないでしょうし、そもそも嫌な思いをしてまで演劇を選ぶ必要もありません。本当に演劇がやりたいなら、方法はいくらでもあります。
 そして、これが一番の核心かと思うのですが、「演技がうまい方が偉い」という間違った上下関係があるのではないでしょうか。これは是正すべき問題だと思います。独裁的な劇団がいい作品を作っているのも分かります。その方がやりやすいというのも分かります。ただ、モチベーションの差を是正したいと思うのならば、この考えをまず捨て去ればいいだけ。そういう事です。
 演劇はどういう形であっても演劇です。表現は自由です。そこに言い、悪いはありません。どうぞ、良き演劇との時間を。

つづきます。
番外編 その5はコチラ

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきはかりごと)

1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita


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