絶対的メンヘラと相対的メンヘラ
ワカジツです。
今日は『絶対的メンヘラ』と『相対的メンヘラ』の話をします。
この2つの言葉は、ぼくがさっき考えたのでピンとこないかもしれませんが、以下のように定義しました。
■絶対的メンヘラ=人類の中で群を抜いてメンヘラ。誰がなんと言おうとメンヘラを貫くメンヘラ。
■相対的メンヘラ=周りから見て、相対的にメンヘラと言われたいタイプのメンヘラ。わりと元気。
相対的メンヘラはわりといるのですが、絶対的メンヘラはほとんど見かけないイメージです。ぼくもまじまじと見たことはありません。
ただむかし、ニアミスしたことがあります。絶対的メンヘラに。
(※あまりにノンフィクションすぎるとアレなので、一部ぼやかしてます)
出会いは、大学のときにアルバイトをしていたコンビニです。
道行く人の服装が徐々に軽くなる、4月の終わり。
ぼくは就活中ということもあり、朝6時〜9時というシフトで週4回働いていました。
ペアは夜勤で前日の22時から働いている、ロン毛の茶髪がトレードマークのフリーター。ロン毛さんとします。
ロン毛さんは気さくな人で、3時間しかないバイト中もよく話しかけてくれていたので、朝の眠い時間でも楽しく働けていました。
9時になると業務が終わり、シフトを交代します。
次のシフトは、普通の名をほしいがままにしている普通な雰囲気の主婦おばさんと、長い黒髪が特徴的な若い女の子でした。
主婦おばさんはアルバイト歴3年のベテランで、女の子は最近入ったばかりの初心者です。
ちなみに若い女の子は『好きな人は好きなんだろうな』という顔立ち。ぼくは好きでした。
とは言ってもシフトの交代時に話すことなんかほとんどないので、軽く会釈をして「お疲れ様です」と言って終わり。何かあるわけでもなく、ぼくは制服を脱いで家に帰ります。
そんな日々が3ヶ月ほど続いたときに、ちょっとした事件が起きました。梅雨が開け、夏が本格化し始める7月の半ばです。
女の子がシフトを飛ばしました。
9時になっても来なかったのです。
当然その後も連絡はつかないので、代わりにぼくが15時まで働くことに。
普通のおばさんいわく「バイトが飛ぶのはよくある」とのこと。女の子ともあまりコミュニケーションは無かったようです。
「女の子は声も小さいし、結構飛びそうな気がしてたのよ」と、ちょっとした愚痴を的確に挟むところも普通のおばさんだな、と思いました。
当然その後も女の子には連絡がつかず、その子は自然消滅的な形でクビとなります。
その1週間後。
いつものように眠い目をこすってアルバイトに行くと、ペアのロン毛さんが少し興奮したような口調で話しかけてきました。
「なあ、これ見てよ」
渡されたのは、1冊の小さな手帳でした。
「なんですか、これ?」
「店長いわく、先週飛んだ子が忘れていったらしい」
飛んだ子のものとはいえ、女の子の手帳を開けるのは……とも思ったのですが、あまりにロン毛さんがキラキラした目で見てくるので、パラリとページを開きます。
『6月29日 手首を切った。死ねない。』
週めくりの予定欄に、どこか弱々しい文体で書かれていました。
ぼくは「あっ……」と小さな声を漏らし、手帳を閉じます。これは見ちゃいけないやつだと、直感でわかったのです。
ロン毛さんは手帳をぼくから取ると、まるで自分の物かのようにペラペラとめくり、1枚のページをぼくに見せました。
そこは手帳の自由記入欄で、綺麗に印字されたインクのラインをまたぐように、赤黒い文字が書かれていました。
『死にたい』
体が芯から冷えていく感覚が、ぼくを包みました。
慌てて手帳を閉じて、事務所のデスクの上に置きます。
「血……だよなあ」
「たぶん、そうですね……」
夏場にもかかわらず少しひんやりとした事務所内で、2人は息を飲みました。
ぼくはいままでメンヘラとは無縁の生活を送っていたのですが、これからも無縁でいいや、と心の底から思いました。
彼女がどういう悩みを抱えていたのか、なぜ手帳を忘れていったのかはわかりません。
ただ「絶対的メンヘラは存在しているんだ」とハッキリわかった瞬間でした。
そしてその後
「いや……俺もいままで辛いことばっかりでさ。何度も死のうと思ったよ」
と、3時間にわたって過去の死にたいエピソードを話してきたロン毛の彼は、間違いなく相対的メンヘラでした。
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