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the pillows山中さわお氏が書く歌詞の「自分」の表現がすごい

私が最も好きなロックバンド、the pillows。2019年で30周年を迎えた超老舗バンドだ。

30年という長い月日の中で、世に出した楽曲数は200を軽く超えている。有名どころだと「Funny Bunny」とか「ストレンジカメレオン」とか。

まあpillowsの魅力を語ると、あと30年くらいはかかると思うので割愛するが、今回書きたいのはこれ。

pillowsの歌詞に出てくる「自分」の表現がすごい。

これだけだ。

pillowsはほぼすべての詞を、ボーカルである山中さわお氏が書いている。

もちろん歌詞の内容はラブソングや応援ソングなど様々だ。
が、中でも「自分(さわお氏)やバンドについて」書かれている曲は圧倒的に多い。

自分たちのことが好きすぎるからか、30周年記念で公開された映画の内容は「pillowsを聴いて憧れを持った主人公が夢に向かって走り出す」だった。自分で自分に憧れた主人公の映画を作るの、メンタルすごくない?

それはさておき、pillowsは自己について歌う曲が多いので、その分「自分」に対する表現力もかなり高い。

あまりにも多いので、この記事でいくつか紹介したいとおもう。

※個人的な主観も入っているので、ガチファンの方には暖かい目で見てほしい。

pillowsの「自分」の表現一覧

とりあえず、the pillowsが出している楽曲の歌詞をすべてチェックして「これ自分のこと歌ってるのでは?」という部分をピックアップした。

以下がそのすべてだ。

【the pillows 自分の表現一覧】

I
オレ
自分
飛べないカゲロウ
ロボットじゃない
遺物
千年後の雨
臆病な男
変わり果てた姿

小さなレジスター
ドラゴンと保安官と小人と魔法
平凡なシーラカンス
サリエリ
スケアクロウ
ストレンジカメレオン
ただの笑い者
snap
満たされないモンスター
救われないロッカー
死にそこねたロッカー
世界遺産に落ちぶれちゃいそうな年輪だけの知名度
人混みの一部分
皆が温かいシチューを食べてる時もギターに嚙りつくしかなかった少年
バンドマン
三日月
fighter
野良猫
王様
キミ
映画
プラスチックフラワー
ストレンジャー

クライマー
痩せた枯木
汚れたストーカー
気取ったストーカー
怯えるストーカー
最後のストーカー

めちゃくちゃ多い。軽く調べただけで42表現もあった。

もちろん解釈によって「これは自己表現とは違うだろ」とかあるかもしれないが、たぶんそれを差し引いても多い。

「僕」とか「I」「自分」とかはまあ普通として、その後に降り注ぐ自己表現のオンパレード。

しかもパッと見でもわかるように、ポジティブな表現が少ない。

いくつか掘り下げて紹介していこう。

【遺物】

時代も背景もそぐわない 遺物なんだと思い知った

遺物。前の時代から残されたもの。

自分のことを、自分の曲で「遺物」というバンドが他にあるのだろうか。

これの歌詞は、バンド20周年記念で作られた楽曲である『雨上がりに見た幻』から。

pillowsは売れない期間が長く、自分たちを「音楽業界の端っこにいた存在」と揶揄している。

それでもコツコツと20年間活動を続けてきて、記念として書いた楽曲での自己表現が「遺物」。

この2文字がどのような心境で浮かんできたのかは、若輩者の私には推し量れない。(ちょっと病んでいたのだろうか)

ちなみに曲はめちゃくちゃカッコいい。一番好き。

【世界遺産に落ちぶれちゃいそうな年輪だけの知名度】

「Dance with God」という楽曲の一節。

単純に言うと「成功せず、ただ年数だけを重ねたバンド」である自分たちを表現する言葉だと考えられる年齢をあえて年輪とするのは、さわお氏の巧みな作詞能力の賜物だろう。

また「世界遺産に落ちぶれちゃいそう」という部分にも注目してほしい。

世界遺産と聞くと、優れたものだと感じるのではないだろうか。それをさわお氏は「落ちぶれる」と言っている。

これは恐らく「世界遺産はあとから評価されているもの」だと考えているからだろう。

法隆寺も、姫路城も、アンコールワットも、当時はただの建造物で、普通に利用されていたものだ。

利用者は間違いなく、将来的に世界遺産に認定されるとは思っていなかっただろう。

つまり「世界遺産」というのは、現世で評価されていない自分たちを卑下する表現なのではないだろうか。と私は推測している。

私は文章を書いて生活しているが「世界遺産に落ちぶれちゃいそうな年輪だけの知名度」という言葉を一生ひねり出せないだろう。さわお氏はすごい。

【サリエリ】

キミは堕ちたモーツァルト 僕はサリエリさ

That's a wonderful world (song for Hermit)という楽曲から。

「サリエリ?なんのことだろう」と思う方がほとんどだと思う。

サリエリは中世の作曲家で、現役時代は高い名声を獲得していた。

それにも関わらず、最も有名なエピソードは「モーツァルトとの対立」

誰もが知っている作曲家との確執により、盗作や毒殺疑惑などをかけられまくっていたのだ。音楽面よりも、謎のスキャンダルがよく語られる人物だった。

「キミ」が誰を指すのかはわからないが、自分を「サリエリ」と呼んでいるのは、自らの音楽が世間に認められないことに対しての風刺だろう。

なんにせよ、中世の作曲家を歌詞に出したさわお氏の、造詣の深さには感嘆を覚える。

【キミ】

キミは僕だよ

前述の疑問が解決した。

キミは僕だったのか。

先ほどの「キミは堕ちたモーツァルト 僕はサリエリさ」という一節に照らし合わせると、僕も堕ちたモーツァルトになる。どういうことだ。

というのはいささか強引ではあるが、pillowsの歌詞には「キミ」という言葉が頻出しており、その内容を読み解くのは一筋縄ではない。

というか同じ歌詞の中にも、2つの意味の「キミ」が登場することもあって、非常にややこしい。

今回の「キミは僕だよ」は、BOON BOON ROCKという曲の一節だ。

厳密には『ローファイボーイ、ファイターガール キミは僕だよ』なのだが、ローファイボーイもファイターガールも造語なので、理解には時間がかかった。ある程度の考察は完成しているが、説明するだけの文章力がない。

ちなみに「キミは僕」だが「僕はキミ」かどうかはわからない。こういう話は数学の授業でさんざんやった気がするが、何一つ覚えてないので割愛する。

皆が温かいシチューを食べてる時もギターに嚙りつくしかなかった少年

皆が温かいシチューを食べてる時もギターに噛りつくしかなかった少年のバイオグラフィー

長い。

とてつもなく長い。

「少年」の修飾語にしては長すぎる。

この曲のタイトルはbiography(バイオグラフィー)。つまり自伝だ。

自分のことを山ほど歌いまくっているpillowsが「これは自伝ですよ」といって出した曲だ。

だからこの曲では、ただの「少年」という表現ではダメなのだ。

「ギターに噛りつく少年」でもダメだし「シチューを食べていない少年」でもダメ。

この曲での少年はあくまでも「皆が温かいシチューを食べてる時もギターに噛りつくしかなかった少年」だ。

自伝の中に出てくる「少年」は、普遍的な「少年」であってはいけない。

この楽曲は素晴らしいのでもっと紹介したいのだが、書いていると「少年」がゲシュタルト崩壊しそうなので、ここらへんでやめておく。

余談だが、biographyの最後には「バンドマンのバイオグラフィー」という一節がある。

ここで出る「バンドマン」には一切の修飾が無いので、ただの「バンドマン」で問題ない。ただ少年は「皆が温かいシチューを食べてる時もギターに噛りつくしかなかった少年」じゃないとダメだ。

なぜ。

なぜ、シチューなのだろうか。

P.S.
「バンドマン」には修飾が無いと思っていたが、解釈によってはめちゃくちゃ長い修飾がある気もしてきた。一節を掲載するので、もしこの記事をご覧になっている文学部教授がいたら教えていただきたい。

僕の前に初めて道が出来た日の事死ぬまで忘れたりしないバンドマンのバイオグラフィー

「バンドマン」なのか「僕の前に初めて道が出来た日の事死ぬまで忘れたりしないバンドマン」なのか。

「僕」の修飾もすごい

ここまでは、the pillowsの「自分」に対する表現を紹介した。

全部は解説しきれなかったが、さわお氏の表現能力の高さがいくばくか伝わったのではないだろうか。

また、この記事を書くためにpillowsの歌詞を読みまくっていたのだが、そこであることに気がついた。

「僕」の修飾もすごい

ここまで「僕」という言葉を巧みに操れる人物は、さわお氏くらいだろう。

説明するとまた2倍近く記事が長くなってしまうので、一覧だけ載せておく。

正直すべて拾いきれてはいないが、最後にそれを見ていただいてお別れとしよう。

【the pillows 「僕」の修飾一覧】
バカな僕
新しい僕
似合わない服の僕
ふてくされてる僕
不機嫌な僕(ら)
嘘をついて擦り減った僕
カレンダーを捲らなかった僕
燃やし続けて灰になった僕(の心)
頼りない僕
孤独を理解し始めてる僕(ら)
アラームが鳴ってても目覚めないこの国に生まれてきた僕(ら)
砕けた僕
昨日まで選ばれなかった僕(ら)
はりきってる僕
気が狂いそうで泣き出した僕
半端に狂っちゃった僕ら
世界中を愛想尽かせた僕
進化しなかった僕
ネクタイしたまま眠る僕
本から全てを学ぶ僕
抜け目のない僕


以上だ。


末筆ではあるが、the pillowsの楽曲は素晴らしいものばかりだし、何回も私の心の拠り所になってくれた。

少しでも興味が出たら、ぜひ楽曲を聴いてみてほしい。

楽曲の大半は、Amazon Musicなどのサブスクリプション系サービスで配信されている。

おすすめ曲をまとめた記事も作っているので、よかったらどうぞ。(2018年から更新してないが)

ではまた、ライブ会場でお会いしよう。

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