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ぶらんこ乗り


昔、好きな人と、わたしの好きな作家であるいしいしんじの「ぶらんこ乗り」の感想などを話し合った後、お互いに知らない街をあてもなく散歩した

知らない団地にたどり着き、中には人気のない小さな公園があった
公園にはブランコがあり、ブランコは“ギィーギィーキィー”と大きな音をあげていて、ブランコごと飛んできそうなくらいにぶんぶん漕いでる男の子がいた

男の子は団地に入ってきたわたしたちを見るなり駆け寄ってきた、障害を持っている子だと思う、年は中学生くらい見えた
いきなり大きな声で「桐谷美玲は知っていますか?」とわたしだけに問う、驚きながら「知ってます」と答える
矢継ぎ早に若い女性芸能人の名前を出し「知っていますか?」と問うてくるので、「知ってます」と答えていく
最後のひとりが全然わからなかった、「イイトヨマリエは知ってますか?」、「えっ?なに?知らないな」と答える
(わたしは3年後くらいにやっと飯豊まりえさんの名を知ることになる、彼には先見の名があったのだろう)

そして、公園を案内してくれた、「あの砂場にはこれを投げるんです」と水の入ったペットボトルを投げていた、公園の危険児じゃん!
どうぞ!!とペットボトルを渡してくれたが、丁重にお断りして返した
「ブランコ上手だね」と言うと、どうぞ!!使ってください!!とブランコを勧められたので、好きな人とふたりでしばらくブランコをぶんぶんと漕いだ、男の子ほど高くは漕げなかった
今度は、「何才ですか?」とまたわたしだけに問う
「30才だよ」って答えたら、「ごめんなさいッ!!あざしたァア!!」と声をあげ、グーとパーを胸の前でつき合わせたポーズを取った(軽く調べたら中国の武術?で挨拶?として使われるものらしい)
わたしたちが立ち去ろうとすると、男の子はわたしに握手を求めてきた
わたしは潔癖症なので「ありがとね、バイバイ!」と言ってごまかそうとしたが、「握手してください!」と離れないので仕方ないと思って手を出そうとしたら、好きな人が「はい、握手」と男の子の手を握ってくれていた

「30オーバーはNGなんだね」「本物のぶらんこ乗りだったね」と話しながら、また知らない街を歩いた、日が暮れかけていた
知らない博多ラーメン屋を見つけ、そこそこおいしい博多ラーメンを食べ、またしばらく歩いてから解散した


これは、わたしの人生で1番にきらきら光る水面のような思い出
奇跡の1日

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