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おばあちゃんの秘密

ズーーーーっと同じ曲を聴いている。自転車のサドルについたサビみたいに、音がこびりついてしまった。
ベットに大の字にねると天井が何周もする。目が回るとはこのこと?
一つの曲ばかり聞いていると、何年経ってからこの曲を聴いたときに思い出すんだろうな。

そろそろ、ある曲を聞くと特定の時期を思い出す現象に名前つけて欲しいな。


いつか聴きもしなくなる曲、飽きてしまう漫画、いずれ思い出しもしなくなる人。忘れるってことはいなくなる事と等しいと何処かで読んだ。本当にそうなのかな、そうだとしたら忘れられた人は存在した意味がなかったの?悲し過ぎないかな


おばあちゃんに一つの秘密を教えてもらった。彼女目線で書きます。



お母はんの家を掃除していると、縞模様の風呂敷に大切に大切に包まれた本みたいなもんがあった。五年前に亡くならはるまで母はんは90近くなっても背筋が「ぴん、」としてた女の人やった。中之島らへんに住んではったお嬢さんやったのにこんな田舎にお嫁に来て。お父さんが病気のとき、田んぼを通ってお見舞いに行かなあかんくて、カエルが「ゲコゲコ」鳴いてるのを聴いて、なんていう田舎に来てしまったんやろうか思うたらしいなあ。中之島もう一回連れて行ってあげたら良かった。

ほんであれはちょうど8月の暑い日。三姉妹の長女やのに死に目にも会えんかった。病院にいるっちゅう事も知らせてもらわれへんかった。こんなに近くに住んでるのに、家族仲悪いのはホンマに嫌な事やわ。



そんなことを思ってな、本をみることにした。えらい大きな本。開けたら写真がきれいにおさまってやった。

誰やあ思て、よおく眺めたら私の小さい頃や。大通りの写真館があったとこで撮ってもろたんやわ。自分でも感心してため息漏れるぐらいえらい可愛くとれてるん。綺麗なおべべ着さしてもろてなあ。良え写真やねえ、


こんなんしてもろてたんやなあ。こんなとこに隠して置いてたんやね。


ふと、違うことが頭をよぎった。お母はんが机のおくに隠してたメモ。10年前にどうしてもお金足りんくて借りたのん。返すって言うたのに、『もうええから気にせんとき』って言うたのに。わざわざ金額書き置きして、それを妹に見つけられて!なんちゅう恥晒しい怒鳴られて。

こんな思いするくらいやったら死んだ方がマシや思うたわ。


それもずうっと恨みに思うてる。でも、お母はん、私のちっちゃいときをこんな綺麗な風に置いてくれてたんやでなあ。私は自分が情けないって言う気持ち溢れて止まらん。

私は自分の娘に何っにもこんなんしてない。ああ、不幸になっていくばかりや。こんなんあの子が見たらなんて言うやろう。また、怒るに違いないわ。

『あんたはそんなんしてもろうて来たのに、娘には何もせえへんかってんなあ!』

もう嫌やわ。どうでもええわ。こんなん見られるくらいなら、無かった方がマシやわ。みんな知らんままやったら無いのと一緒や。私もこんなんあったって忘れてしもうたらええねん。捨ててしまお。




おばあちゃんは、これをズーーっと心にしまって来たそう。

でも、自分のしでかした事は許されないと思って孫に白状したくなったと言いながら教えてくれた。


私が忘れたら、この出来事も無かったこととおんなじなのかな?その答えが見つからないままです。



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