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蟲戰【第二話】

「こうなったら、虫医者に頼るしかないわ。」

メリメは虫医者の回線につなぎ、通話を試みた。しかし回線は遅延しており、なかなかつながらない様子だった。

「回線が遅延しているな。虫医者は、核オーバーハウザーの機械とやらで、虫の治療が必要な蟲を見つけてくれると聞いているが、どういうことだろうか。いったいいつになったら、虫医者と連絡が取れるんだ!」とメリメが叫ぶと、その音波が機械を直したのか、計ったように、虫医者との連絡が取れた。

虫医者は、霧祓治虫きりばらいおさむと名乗った。

「寄生から二日以内にベノミル水和剤を口から供給すれば、寄生蜂の成長を阻害して除去に成功するだろう。」

端末が読み取ったその情報に安堵したその次の刹那、章一郎からボイスメッセージが来た。

「今、豊饒の海を出発した。1週間以内に日本海に到達する。そうすれば、また会えるよ。虫は今どうなっているか知りたいけど、きっと生かしてくれると信じているよ。寄生蜂にだけは気をつけてね。」

虫医者は治療のため、空飛ぶ車で飛び回り、ようやくやってきた。

「治療を開始する。」

「お代は?」

「この一帯を統括する興亜ノ日帝国こうあのにっていこくの昆虫憲法は、保険により無償で虫の治療を提供することを保証している。だから、不要なのだ。」

寄生された幼体に、殺菌剤であるベノミル水和剤を経口投与した。液体の殺菌剤で湿らせた葉っぱを、幼虫の口に持っていって食べさせたのである。

こうすることで幼虫の体液性免疫が働き、血球に包囲化されて寄生蜂の成長が阻害され、除去に成功した。

無事蛹になった青虫たちを見守りながら、「ありがとう。」と、メリメは言った。そんなメリメに、霧祓は勾玉を手渡した。

「これを持っておくといい。この勾玉は虫の力を高めてくれる、お守りみたいなものだ。」

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