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意識の進化 × 幸せ経営|幸福学研究と幸せ経営の先駆者が語る「幸せ経営」の本質

「宇宙視点からの意識の進化プロジェクト」では、「意識の進化×○○」シリーズと題して、いま問われている人の意識の在り方、そのアップデートについて様々な角度から探求し、対話をお届けしています。
今回は「意識の進化×幸せ経営」をテーマに、慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授前野隆司氏、三菱鉛筆株式会社常勤監査役都丸淳氏をゲストにお迎えし、(株)ウエイクアップ代表取締役社長島村仗志と、三者での対話を行いました。

※本記事内に登場する人物の所属・役職等は動画撮影当時のものです。

~本日のテーマとゲスト紹介~

島村:今日は「意識の進化×幸せ経営」をテーマに、皆さんとお話ししていきたいと思います。本日のゲストは、慶応義塾大学大学院教授前野隆司先生と、三菱鉛筆株式会社常勤監査役都丸淳さんです。


私たちは、今から5年ほど前に、一緒に企画を進めて「みんなで幸せでい続ける経営研究会」(略称:「幸せ研」)を立ち上げた3人です。今日も幸せに進めていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

~はじめに~

島村:対話を始めるにあたって、まずは一言ずついただけたらと思いますが、いかがでしょうか。

都丸:そうですね、この3人きりで、ゆっくり話をするのは5年ぶりなんですよね。5年前に前野先生の研究室へお邪魔して、幸せ経営についてお話しして盛り上がり、いっそのこと研究会を作るか、となったのが2015年10月だったなと懐かしく思い出しますね。

前野:確かに。本当にあっという間でしたね。あれから「幸せ研」をスタートして、「幸せ研」自体も、最初から幸せだと思っていましたけど、さらにどんどん幸せになってきて、月日が経ったなあと。幸せな気分になりますね。

島村:それと、私たちは、「幸せ研」の活動ではいつもニックネームで呼び合っているんですよね。心からのリスペクトと親愛の気持ちを込めて、前野先生はムーミン、都丸さんは親方、私はジョージと。今日の対話の中でもニックネームで呼び合う可能性がありますので、そのことだけ予めお伝えさせてください。

~「幸せ研」の活動~

島村:「幸せ研」の最新情報としては、先日たくさんの方にお集まりいただいてシンポジウムを開催したばかりで、非常に充実した内容になったなあというのが記憶に新しいのですが、お二人は、シンポジウムについてはいかがでしたでしょうか。

都丸:今回のシンポジウムは初めてオンライン開催でしたよね。これまで、各期のまとめとして、発表の場を兼ねて毎年やっていたものが、今回初めてオンラインでやるとどうなるかなと思っていましたが、とても盛り上がって、いろんな形の幸せがあるんだなあと思いました。

前野:「幸せ研」は最初から幸せだったと思いますが、幸せの条件の一つに「主体性」があって、受動的にやらされていると幸せではないんですよね。「幸せ研」も、最初の頃は私たちも張り切って「今日は幸福学を教えるぞ」とか、教えるモードになり、そうすると皆さんも学ぶモードになっているので、発表も先生と生徒というかそんな感じもありました。

それを次第に僕らも手放して、一緒に幸せになる、というのを目指して、今期、本当にそういう形になったなと思いましたね。今期は、本当に何も、僕らからは言ってないじゃないですか。何も言わなかったのに、サークルのように分科会ができて、主体的に楽しそうに会合を重ねて。その発表も、発表者が多かったのでぎゅうぎゅうで、けれども時間も守り、みんなで本当に作り上げたという点が嬉しかったですね。

島村:そうですね、学生時代の学園祭のように、大人たちが無邪気に、目を輝かせて1つのお祭りを作ったというような感覚が残っていますね。

前野:会社の経営層・役員層と、若い人とが一緒になって学園祭をやったというような、不思議なことができちゃいましたよね。

~幸せと主体性~

島村:そういう意味では、今、ムーミンのお話の中に、「幸せと主体性」というのが1つキーワードとして出ましたけど、意識のあり方として、常に主体的であることにどういうふうに意識をもっていくかということは、すごく重要だなと感じました。逆に言うと、受け身の幸せっていうのはあまり考えにくい、と理解しておけばいいですかね?

前野:(受け身でも)小っちゃな幸せはあると思うんですよ。例えば子どもって、乳児なんかは、親がいないと生きていけなくて。それが幼児になると少し独立するんですけど。でも、守られた範囲での幸せじゃないですか。そういう子どものように守られた幸せもあると思いますが、大人の本当の幸せというのは、乳児や幼児ではなくて大人ですから、やっぱり自分の力でいろんなことをやることですよね。

そういう意味では、今日の「幸せ経営」というところで言うと、僕ね、本当に企業って放っておくと不幸になる仕組みだと思うんですよ。上の人がいて、下の人は命令されたことをやるというふうになったとすると、まさに受動的になっちゃうじゃないですか。言われたことをきちんとやるという人を、もし量産してしまうと、不幸せになるんですよね。だから幸せ経営って、それぞれがやる気になる方法を創るっていうことだと思っています。
それがまさに都丸さんのやられたことで、まさに「幸せ経営」ですよね。

島村:そうですよね。実はこの「幸せ研」のネーミングも、10年前になるのかな、親方が社長に就任なさる時に立ち上げられた経営理念から来ているんですけれど。ぜひそのあたりを親方に語っていただけたらと思いますけど、いかがですか?

~「幸せ」から始まる経営~

都丸:当時、私は販売子会社にいて、その子会社の社長就任の打診を受けたことが発端です。その当時はまだ、コーチングが今ほど馴染みのあるものではなかった時代なんです。社長を引き受けるにあたって、ジョージから「コーチングしようか?」と言われたのですが、僕は最初、コーチングがどんなものかわからなかったんだけど、自分が社長を引き受けるに当たってどういう気持ちでやったらいいのか迷っていたところをジョージが拾って、声をかけてくれて。

それでコーチングを3ヶ月くらい受けてみたら、さっき前野先生のおっしゃった主体性ということとつながると思うんですけど、自分自身として、みんなが同じ方向に、やらせられるのではなく、楽しくやりがいを持って、向かっていける会社にしたいなというふうに思ったんですね。販売会社なので、本来は売上が最大目標と言われていたんですが、どうも僕はコーチングを受けていて、それが目標なのかなあ?という想いがあって。
それを自分の中で考えたときに、そうやってみんなで同じ方向に向かって、結果として、もっというと手段として売り上げがあれば良くて、向かっている先を言葉にするとどんな言葉になるんだろうと探したら、それが「幸せ」という言葉になったんですね。

今は、世の中にWell-beingという言葉も当たり前になり、それが近い言葉だったなと思いますけど、当時はその言葉自体、僕は知りませんでしたし、自分の気持ちから出てきた言葉が「幸せ」だったんです。
幸せという言葉もちょっと、当時は何となく色眼鏡で見られるようなところもありました。企業は「幸せ」なんて論ずる場ではない、という雰囲気もあったので、なかなか最初は思い切りが大変だったんですが。でも、その話を毎月、半年くらい全社員にしていくと、「そういうことが言いたかったのか」とみんながわかってくれました。それで自信を持って、前野先生にも話ができた、という記憶があります。

島村:親方の社長就任によって、販売子会社の業績が劇的に回復されたんですよね。厳しい経営状態だったものが、「みんなで幸せにいよう」という経営理念によって売り上げも回復したということに、私たちもすごく勇気づけられて、研究会立ち上げの確信につながりました。これをぜひ、世の中に広めよう!というのが、3人で研究会立ち上げに意気投合したきっかけとなるエピソードですよね。

ムーミン、「幸せな人の方が、生産性や創造性が高い」っていう研究結果が、実際にあるんですよね。

前野:たくさんありますね。幸せな人は、そうでない人よりも生産性は1.3倍、創造性は3倍アップするというアメリカの研究があります。創造性が3倍も上がるわけですから、みんな工夫して働いて、結果、売り上げも伸びるんですよね。もし、売り上げを伸ばせ!と言われてやったのなら、やらされ感やイヤイヤ感がありますから、幸福度が下がる、つまり創造性が3分の1になるってことですよね、それで売上を伸ばせるわけがない、苦しくなっちゃいますよね。だから目的は幸せであるべきだと、本当に思いますね。

島村:その着眼を経営者として知っているかどうかって、とても大きなことだと思っています。それを知っていれば、みんなが幸せに活躍できる環境を整えるのが経営者の仕事だよね、とごく自然に得心できるように思うんですが。
自分の体験として、5年前に経営の文脈で「幸せ」という言葉を言ったときの、アウェイ感というかアゲインスト感は、今でも何か身体の感覚として残っているんですが、ムーミンは幸福学の最前線にいらして、この5年、もしくはもう少しロングレンジで、時代の流れの変化というのは、どう感じていらっしゃいますか?

前野:実は京セラの稲盛さんは、社員の物心両面の幸せを目指すことが理念だ、と何十年も前から言っている。(稲盛さんの)盛和塾の塾生たちもそれを言っているんですね。あるいは、坂本先生*1も「社員を幸せにする」という言葉を言っておられるし、もっと遡ると近江商人の「三方よし」ですね、自分たちもお客さんも社会も良し、つまりみんなが幸せになるということを言っているのです。

だから、日本には、実は昔からあったんですが、でも、株主資本主義というかアメリカ型の合理的な経営をするんだという風潮がここ数十年くらい強かったので、本当はあったものが、忘れ去られかけていたという感じになっていたと思うんですよ。それが、研究者から見るとアメリカで「幸福経営」というのが始まって、それがどんどん日本に入って来て、今やっとこの生産性1.3倍、創造性3倍とかいった言葉に飛びつく人がたくさん出てきたという感じに思います。

でも、親方は別に生産性や創造性がどうとか、そういうのを知らずとも、「幸せ(が大事)」とおっしゃった。だから、正しいのは、生産性が上がるから「幸せ」というのではなく、やっぱり最初にまず「幸せ」だというのが先だし、本当だと思うんですよね。

都丸:さっきも言いましたが、どういう言葉で表現したらいいんだろうというのは、すごく迷ったんですね。「幸せ」という1つの定義だとか概念があったわけではなくて、社員一人ひとりが前向きになれるとか、笑顔で仕事ができるとか、そういうことを目指して、それをまとめると「幸せ」という言葉なのかな、と。人それぞれの幸せがある、その幸せを経営者が与えるのではなく、個々の人たちが自分で、主体的に幸せを得られるような環境を作る。そういうイメージでした。

だから、まずは企業として売上や利益を上げて、きちんと経済的なところをまずは支えた上で、一般的に言うと福利厚生ですけれど、つまりはそれぞれの興味に応じて、会社にいていろいろな楽しいことがあるんだなということも充実している、という環境を創っていきたいと思ったことが、「幸せ」という言葉に集約されていた気がしますね。

前野:「幸せ」っていう言葉で良かったと思いますよ。確かに今はWell-beingという言葉もありますけど、「幸せ」の方が日本人には、ずどーんと、しっくりきますよね。「幸せ」という言葉は宗教感があるから抵抗がある、という方もいるので、そういう方にはWell-beingの方がいいかもしれませんけど。
「みんなで幸せになろうよ」っていう経営者の言葉にみんなが響くような職場であれば、親方がされたように「幸せ」という言葉が、なんかしんみりきますよね、日本人には。

都丸:最近、新しく「幸せ研」に参加される企業は、トップがたいてい「幸せ」を大事に考えてくれている、言ってくれているところが多いですよね。それがものすごく嬉しいですね。

前野:いやあ、ほんと、ここ3、4年で変わりましたよね。最初は、「本当に『幸せ研』、『幸せ』って言葉使うんですか?」という感じだったけど、最近入会くださる企業は、「もちろん『幸せ』という言葉ですよ」、という感じなので。世の中が急激に「幸せ」という言葉を受け入れてくれたという印象がありますね。

島村:そうですよね。今となっては懐かしいエピソードですが、「幸せ研」のメンバーが、スケジューラーに予定を入れるときに、「幸せ研」と入れると周囲の同僚からいぶかしがられるので別の言葉にしたという、そんな話が出たこともありましたね(笑)。
これも、ムーミンのご活躍があってのことだと思いますが、「やっぱりそうだよね、『幸せ』だよね」、と本来の流れを取り戻しつつある、そんな時代の流れを感じます。

~コロナ禍と幸せ~

前野:まさに「意識の進化」ですかね。コロナも影響している気がするんですよね。ずっと家にいたり、満員電車に乗らなくなったり。そうしたときに、人間って何のために生きてるんだろうなあ、みたいな根源的なことを考えましたね。皆さんはどうでした?

都丸:私は幸せのベースとして、コミュニケーションがすごく大事だなあと思っていたので、より良いコミュニケーションとは何か、ということを、「幸せ経営」を謳っているときに考えたり試したりしていました。コロナ禍でリアルなコミュニケーションがなくなって、改めてコミュニケーションって何なんだろう、と思いました。自分はコミュニケーションをベースに幸せを考えていたけれど、こうなったときの幸せって何なんだろう、と。もう一つ深いところの幸せというのを考えさせられましたね。

島村:そうですよね、ちょっとした話なんかを、わざわざリモートで言うのかな、みたいな距離感は確実に生まれましたよね。でも、さっきの「主体性」の話を今も思い出していたんですけど、結局、この一個人としては如何ともしがたい状況の中で、どれだけ主体的でいられるかというのは、けっこう大きなポイントだったような気がするんですよね。
僕の場合は、逆境の方が成長できるという視点をいつも選択しているので、コロナ禍においても、これはチャレンジだ、また成長しちゃうぞ!という視点でいられたことは、僕にとっては何というか、幸せなことだったなあと思っていますけど…。

前野:「幸せ研」で5月に緊急アンケートを実施したじゃないですか。そうしたら、コロナ禍で幸福度が下がった人が2割、変わらない人は4割、上がった人が4割だったんですよね。下がった人2割に対して、上がった人が4割と、ちょっと意外な結果だったんです。

下がった人は、例えば管理職だったら、社員が何しているかわからないから管理できないじゃないか、と。サボってるんじゃないか、とか、ピリピリしているし、若い社員も、中にはサボって寝ながら仕事しているなんていう人もいるんですよ(笑)。
一方で、コミュニケーションが取れている人は、別に管理しなくても、そもそも自分たちは見守るだけなんだから、ちょっと話して、「頑張っているか」と声を掛けられればO.K.と思ってる。

だから、コロナで分断されたのに心は分断されていない、という組織の人たちは、上手くやってるんですよね。こういう言い方はあれですけど、不幸な人はより不幸になり、幸せな職場はより幸せになったという、そういう格差が生まれたなあという感じがしますね。

~管理と幸せ~

島村:そういう意味では、幸せ経営には、そもそも「管理」という概念がなじまないですよね。

前野:そもそも、マネジャ―のことをなんで「管理職」という和訳にしたんでしょうね。管理するっていうのは仕事じゃないですよね。

島村:そうですよね、管理する/されるという形で、管理された瞬間に、主体性というのが少なくともフルパーミッションではないというか、言われたとおりに何かをやるということになる。本当に一人のビジネスパーソンとして仕事をする、ということに対しての意識を、コロナによって良い意味で問われたという感じがします。この際、この状況を、それぞれが主体性を発揮するきっかけにしてしまえばいいんですよ。誰かが書き換えてくれるというより、自分でやってしまえばいいんだと、今のお話を伺っていて感じますね。

都丸:管理という言葉の中に、サポートという意味合いも入っているべきだなと思うんです。(「幸せ研」の)8月のシンポジウムで、いろんな人が登壇して、たくさんの分科会が活動していたというのは、まさに主体的ですよね。

以前の「幸せ研」と違うのは、自分たちのこととして「幸せ研」を考える世代というんですかね、30代、40代の参加者が今は多くなってきた。最初のころは、会社としてのコミットが大事だということで、経営層、つまり執行役員などが参加するというところから「幸せ研」を始めたんですが、だんだんと、実際に手を動かすミドルクラスや部長クラスがたくさん参加するようになったので、自分ごととして分科会もやってくれている。もちろん、会社がそれを認めている、ということがあってですが。

私は「ミドルを元気にする」という分科会に入って、皆さんと一緒にやっているんです。そこで、ああ、と思ったのは、上司が自分の活動を認めてくれているだけでも、力になっている。会社内でアンケートを取る時に一緒に推進してくれる、という会社もある。そうなると、もっとやりたくなってくる。そんな声を聞いて、管理職、マネジャーのあり方によって、そういった関わりがあることだけでも、人はもっと気持ちよく働くこともできるんだなあと思いましたね。

~「幸せ研」自体の進化~

島村:そうですねえ、「幸せ研」を0期からやっていて、当時の思い込みとしては、僕は親方のケースのイメージがあったので、まずは経営者に「幸せ経営だ」と腹を決めていただいて、そこからその理念がカスケードで降りてくる、というふうに思い込んでいたかもしれないですね。
でも実は、それもあってもいいけど、さらに大切なのは、そこに集う一人ひとりのビジネスパーソンが主体性を発揮して幸せを体現していく、ということの方が本質なんだなと。きっかけは何でもいいじゃないですか。でも、まずはその人が幸せであるということが大切なんだなあと。そういう意味では、「幸せ研」の活動を通じて、私たちも、意識が進化できてきたのかもしれないなと思いますね。パターンがいろいろあるという意味でね。

僕は、「ちょっと幸せを考える」というワークショップをお届けする分科会に入っています。本当に「ちょっと」でいいから、働くということと自分の幸せが重なっていることに気がついて、そこに言葉を与える、というシンプルなワークショップなんですけど。一人でも多くの方に、そういうことのできる機会をお届けできればと思って、分科会メンバー一同で楽しく、幸せにやっています。この間のシンポジウムで、「うちの会社でもやってほしい」というリクエストも頂いて、来月、ワークショップお届けの出張予定です。そんなことも起きていますね。

前野:あの「ちょっと幸せ」というネーミングに、僕はびっくりしました。僕はやっぱり幸福学の研究者なので、僕だったら「ちょっと」じゃなくて4つの幸せ因子*2を満たして、完全に幸せになって欲しいと思うから、僕だったらそんな分科会名は作らない(笑)。

でも、僕がそう言ったら、やっぱり幸福学のトップダウンじゃないですか。そうではなくて、僕が手放したら、「ちょっと幸せ」というのが出てきて。
4年前だったら、いや「ちょっと」じゃダメだよ、もっと4つの幸せ因子をすべて満たさないと、とか言ってたかもしれないけど(笑)。ただ「面白いですねえ」と言っていたら、やっぱり、自分たちの考えたことだから、みんなイキイキしているんですよね。だからやっぱり、「幸せ研」自体が幸せな経営の事例というか。
だって常務とか役員レベルの方と20代の方とが、仲良く話し合っているじゃないですか。これがもし1つの会社だったら、もちろん本当に幸せな会社だったらできるかもしれないけど、なかなかないような組み合わせで、何か家族みたいな感じで話し合っていますね。この感じはいいですよね。

島村:「ちょっと」というワードはごく自然に出てきて。私を含めた分科会メンバーの控えめな性格の表れでもあるんですが…ここ笑うところですよ(笑)。けれど、同時に、大上段にいくよりは、ハードル低く気軽に参加していただきたいという願いが、たまたま「ちょっと」という言葉に凝縮されたのかもしれないなと思います。ムーミンがそういうふうに見て下さっているというのは、今うかがって、とても新鮮ですね。そうだったんですねえ。

前野:そうですね。まあ、「ミドル」もそうですよね。「ミドル」と言われると「経営者」と「若手」も作らなきゃとか、やっぱり僕は全体を見ようとするから、こっちもそっちもと思うんだけど。でも、「ミドル」の分科会もすごく盛り上がってるじゃないですか。やっぱり必要な分科会が、みんなの声から湧き上がってきているんだなあと思いましたね。

都丸:研究会自体がステップアップしているということと、今の話はつながってるなと思います。最初はやっぱり、トップに「幸せが大事」と思ってもらわないとどうしようもないよね、ということで、できるだけトップを集めてこようということだったんです。だんだんトップがそう思ってくれる企業が増えてきたので、じゃあ今度は、トップだけが思っていても、実際に実行するミドルが理解していないと、なかなかそれって実現しないよね、という次の段階へ来て。

この間取ったアンケートでもそうだったんですけど、ミドルの人たちって、「幸せは大事」と皆さんほとんど思っているんですが、じゃあ具体的な方策は、というと、一気に、答えられる方の数が少なくなるんですね。どうやったらいいのかが、まだわからない。
だから今は、具体的にどういうやり方をしたらいいのかというところまで、1,2,3期を経て、ステップアップしてきている状態なんだな、というふうに思っています。

前野:確かに、そうですね。トップダウンからミドルにおりてきている。「ちょっと」っていうのも同じですね。大きなところから、個人それぞれの問題にちゃんとおりてきている。

成人発達理論の話と似ていますよね。あんまり発達していない組織って、レッドという、軍隊型で、統治によって、それこそやらされ感で働く組織。それからオレンジという、少し合理的な組織になって、もうちょっとみんな考えるようになる。次が家族のようなグリーン組織。そしてティールという組織では、本当にみんな自由にやって、その中で自然の森のように大きな木もあるし、小さな花もあるし、蝶々も虫もいるけど、それが調和しているという世界になる。なんか「幸せ研」も、最初は「トップから行くぞ」から始まって、だんだんだんだん、森みたいな感じになってきた感じがしますね。

島村:その比喩、いいですね。経営の目標は幸せだよね、というあり方を大企業経営者の方の選択肢にしていただきたいという願いで始まった研究会ですけど、5年経って振り返ると、研究会自体が実はトップダウンだったという…。ちょっと複雑ですねえ(笑)。わかっていたようで、わかっていなかったなあというか、力が入っていましたよね、何とかするんだ!という、いい意味で青っぽい感じで。悪い意味ではないんだけど、やっぱり力が入っていたなと思いますね。

前野:まあいいんじゃないかな、と思いますが。3人で最初にやるぞ!と力が入ったんですよね。力が入って、広げる時に、やっぱり過去の癖が出たのかな(笑)。

島村:でも、本当に素晴らしい方々とのご縁に恵まれて、素晴らしい研究会なので、これからもますます幸せに、どう進化していくか、本当に楽しみですよね。

前野:また3年後に振返ってみると、今の時点のことはまだまだだったね、となるのかな(笑)。

島村:どうなんでしょうねえ。なるかもしれないですね。

都丸:でもまあ、今の話を聞いて、1,2,3期と成長出来ているんだなあという気がして、ものすごく嬉しいですね。この歳になってもまだ成長できているんだ、と。まだまだこれからも成長出来そうな気がして(笑)。

前野:いや、本当に。僕、今『老年的超越』という本を読んでいて、スウェーデンの学者が作った概念なんですけどね。90歳、100歳の人ってものすごく幸せなんですよ。自己感も宇宙とだんだん一体化してきて。欲も小さくなってくるし、寛容とか利他性も増す。だから順調にいくと、人間ってずーっと成長し続けて、100歳というもっと幸せなところに到達するんだと思うんですよね。そう思うとちょっとワクワクするじゃないですか。

島村:いいですねえ。結局、健康長寿の時代になってきて、身体は機能低下が避けられないけれど、心の幸せを感じる力は意識の進化と共に充実してくる、というのは非常に朗報ですね。すごく良いお話をありがとうございます。

~幸せは伝染する~

島村:それともう1つ、研究会の活動を通じて、ムーミンから本当に大切なことをシェアしていただいたなと思っているのは、「幸せは伝染する」ということです。一人のビジネスパーソンのあり方として、自分がまず幸せでいることが大切なんだということが、僕には大きな気づきだったんです。このあたりについて、ムーミンから、みなさんにもちょっとシェアをしていただいてもいいでしょうか。

前野:これはクリスタキス先生というイェール大学の先生の研究ですね。元々、肥満や喫煙もうつるとか、そういう研究をしていた公衆衛生の先生なんです。肥満もうつるんですよ。例えば「食べ放題行くか」とか、ついついみんなで食べすぎちゃったりとかするんだと思うんですけど、結局、習慣というのは、自分と近い習慣の人と共にいるから、うつっちゃうんですよね。

それで、実は、幸せもうつるし、不幸もうつるんですよ。例えば、心の病の状態の人がいると周りの人もちょっと元気がなくなってくる、ということが確認されているんですね。ということは、社会が元気かどうかは一人の問題ではなく、周りにうつっていくっていうことなんですね。だから心の病がうつらないようにするにはどうすればいいかという予防医学としては、自分がより元気になっていると、不幸がうつるより前に、自分が幸せをうつして、それこそ、心の病の人も出にくくなっていく、そういう組織とかコミュニティになる、ということなんですよね。

島村:そうなんですねえ。このことを知っているかどうかって、さっきの、年齢を重ねていけばいくほど幸せ度が上がったり意識が進化していくということをシェアしていただいのと同じか、それ以上に、大切なことだなと思っています。

前野:そうなんですよ。そこから推測すると、みんなが幸せになっていくと、どんどん勢いづいて皆が元気になる時代が来ると思います。今はまだ「幸せ研」の人数って、日本全国から見ると少ないけれど、それが広がっていって、大きなうねりになり、100歳になったら幸せだ、ということをみんなが知っている時代になる。となると、日本は超高齢幸福大国になるかもしれない。これはまさに意識の進化というか、人類全体がゴーっと幸せの方に行くっていうことが可能だと思いますね。

島村:それいいですね!超高齢幸福大国!

前野:想像するだけで、いいですよね。みんなが幸せそうに、いろんな趣味を持っていて、身体は少しずつ悪くなっているかもしれないけれど、でもまあ、だましだまし楽しく生きてるんだよ、と言いながら(笑)。そんな感じでみんなでコミュニケーションを取っていたら。いいですよね。

島村:いいですよね。でもそうなったら、「幸せ研」ももう存在意義がなくなりますね。みんな幸せだから、そんなの当たり前じゃないか!と。そうなったら、もう研究会も卒業できるかも(笑)。

都丸:いや、いろんな「幸せ研」が日本中、世界中に一杯できるってことかも(笑)。

前野:みんな「幸せ研」に入ってるんですね、きっとね(笑)。

島村:なるほどね。そういう意味では、壮大な「幸せプロセス」の、私たちはまだまだ入り口に立ったばかりなのかもしれないですね、この5年。親方の幸せ経営が始まってから11年。さあここから、というところなのかもしれません、もしかしたら。

前野:間違いないですね、まだまだ幸せなんて関係ないよといって経営している人もいっぱいいますからね。8~9割はそうじゃないですか。そこまで伝えていかないといけないですよね。

島村:ちょうど今、スタンダードがシフトしている最中というか、それをニューノーマルという表現もありますけど。だから今はチャンスかもしれませんね。こういう新しい概念を試すにはもってこいの時代になっていますよね。

~日本から世界へ、幸せを広げる~

前野:来年のダボス会議のテーマは「グレートリセット」なんですよ。経済中心の社会から、人々の幸せ中心の世界へのグレートリセットだと、シュワブ会長が言っていたんですよね。だから世界的にこの流れ、本当に進化というかリセットというか、大きな変化の時が近づいていると思いますね。

島村:そうですね、ぜひ日本という国からその流れを加速して、事例を示すことができるように、1つの国のあり方として、さっきムーミンがおっしゃったような「幸せ大国」というのは、すごく素敵だなと思いました。

前野:日本は本当に集団主義というか、「和」の国ですよね。平和の和、調和の和。全員が仲良く、ということができる国だと思うんですよね。

幸せの研究をしているアメリカの有名な教授と話していたときに、「みんなが幸せになったら、世界が平和になりますね」と日本のある経営者が言ったんです。すると、そのアメリカの研究者は「いや、何を言っているのかわからない、幸せというのは、自分のモラルサークル、つまり仲の良い範囲の幸せは願えるけれど、それ以外の外部の人の幸せというのはよくわからない。敵だったり、よく知らない人の幸せは別なので、自分の仲間が幸せになることと世界平和はつながらないのでは?」とはっきり言ったんですよ。

これが、極論でいうと、西洋と東洋の違いだと思うんです。西洋というのはやっぱり、分けて、正しいものが勝つ、間違っているものは地獄に堕ちる。そういう正しいか間違っているかとか、敵と味方を分ける、という考え方で分析して、上手くいってきたわけです。
逆に、日本とか東洋っていうのは、良いも悪いも、たとえば武士だって、戦っていた人も死んだらみんな良い人になるんですよね。西洋は死んだら地獄に堕ちやがれと、最後のところがすごく違う。「すべての人の幸せを願う」ということを日本から発信することが、最後にやることだなと思うんです。

島村:そのエピソードで思い出したんですが、それこそ「幸せ研」を立ち上げる直前に、どうしても見に行きたくて、幸せの国と言われるブータンを訪問したんですね。いろんな方にインタビューをしに行ったんですけど、あるチベット仏教の寺院で、参拝されていた、本当に普通の、街のおじいさんに声を掛けたんです。そのお答えが本当に衝撃で、ノックアウトされたことがあって…。

「熱心に何をお祈りされていたのですか?」とご挨拶代わりにうかがったのですが、ほんの一瞬、ちょっとけげんな顔をされた後に、「すべての生きとし生きるものの幸せを願っています」と、普通に、自然体でおっしゃったんですよね。

前野:すごいですね。日本人は忘れかけていますね、それ。

島村:そうですよね。僕らは神社仏閣にお参りに行っても、普通に現世御利益を祈っちゃうじゃないですか(笑)。

前野:いや、僕は人類の幸せを祈ることにしていますよ(笑)。

島村:僕もね、それ以来、手を合わせる時はそういう風にお祈りするようにしていますけど。意識の進化の1つの局面として、どこまで当事者意識を持てるか、ということがあると思うんですが、僕がたまたま出逢ったそのおじいさんは、「すべての生きとし生きるもの」に対する当事者意識を持って日々祈っているんだなと思って、それは衝撃だったんですよね。同時に、自分もそのようにありたいなと思った体験でした。

前野:チベット仏教は大乗仏教だから日本と同じなんですよね。大乗というのは大きな乗り物ですから、地球という大きな乗り物に乗っている全員の幸せを祈りましょうってことなんですよね。本来は日本にある仏教はそれなんですよ。観音様は、全ての人が救われるまでは、あちらの世界に行かずにずっと見守って下さっている。だから観音様のように私たちもなりましょう、という国なんです。

島村:まさに、みんなで幸せでい続ける、ですね。

前野:そうなんです。「みんな」というのがついに世界に広がるというね。

島村:親方の経営理念が世界に広がりますね。

都丸:いろいろ聴いていて思ったのですが、ジョージの言っていた「ちょっと幸せ」って、「ちょっと」なら誰でもできるんですよね。誰でもできると、面が広がって、それがずっと続くとサステナブルで、今度は体積もどんどん大きくなる。そういうイメージを持てたので、第一歩をどう広げていくか、ということが、きっとものすごく大事なんだなと思いました。
きっと、そのブータンのおじいさんも、大きなことではないけれども、まずは1つ、そう祈ることからと。きっとブータンでは、みんながそういうふうに思って、(幸せが)広がっているんじゃないかなあと思いましたね。

~終わりに~

島村:ありがとうございます。とても幸せな時間が広がっていますが、そろそろお時間も迫っているので、最後に一言ずついただけたらと思いますが。ここまで話されて、いかがでしたでしょうか?

前野:最近ね、どこか意識が進化したのか、本当に「地球は自分で、自分は地球」みたいな感じがしていて。やっぱりコロナの影響かな、地球人全員で、同じ痛みを分かち合っているから。ついに、同じことで苦しんだり喜んだりする時代が来たというか。コロナが来てから旧石器時代のことを考えるんですよ。旧石器時代ってみんな家がなくて、移動生活だったんですよね。それがアジアやヨーロッパ、いろんなところに行って。元をたどるとみんなアフリカから来て、全員、兄弟なんですよね、本当に。

何だか、そういうことをいつも考えながら生きています。ああ、みんな本当に友だちなんだから、いがみあったり憎しみあったり、勝ち負けとか、いやスポーツマンシップはいいんですけどね、そういうのはもうやめて、地球のみんなで幸せでい続ける人類、社会になっていくといいな、と本当に思うんです。
そうか、「幸せ研」の「ちょっと幸せ」はそこにつながっていたんだなあと、今日気づいて(笑)、また幸せ度がアップしました。ありがとうございました。

都丸:私は、コミュニケーションというか、いろんなことをお互いが共有することによって、幸せが増幅されて、一度増幅されると簡単には消えないようなイメージがあるんです。そういう意味では、このリモートの、不便さだけではなくて、良さを見直していくとおもしろいな、と。
今回、分科会のシンポジウムの準備もリモートで集まってコミュニケーションができたんですね。都合が合えば何時でもいいわけだし、場所も問わない。横から子どもが出てきて抱っこしながらとかもある。こういうふうにプライベートも一緒に共有しながら、1つの目的に向かうという場が作れるんだ、と。リモートの良い側面を活かすということを体験させてもらった場でしたね。リアルの良さもあるので、良いところ取りをして、もっともっといろんな形で、コミュニケーションを深められたらいいなと思っています。

島村:そうですね、お二人のお話をうかがって、1つはムーミンのおっしゃった宇宙とか地球の一部であるという自己認識と、同時に、親方が言ってくださったように、今のこの激変する環境を選んで生きている一人の存在として、今日のキーワードにもあった主体性を持って、目の前のことに正対していくというあり方を通じて、ちょっとの幸せを、本当にちょっとでもお伝えする源であれたら、なんて素敵だろうとしみじみと感じた時間でした。

本当に、今日は貴重なお時間とお話をありがとうございました。

ということで、今日の対話はここまでにしたいと思います。意識の進化プロジェクトでは、今後も「意識の進化×〇〇」シリーズをお届けする予定です。今まさに問われている、人の意識の在り方やそのアップデートについて、様々な角度から探求し、対話をお届けしたいと思います。よろしければぜひ、ウエイクアップのメールマガジンやFacebookページなどで最新情報もご確認ください。

ムーミン、親方、今日はありがとうございました。これからもぜひ幸せに、ご一緒させてください。

前野・都丸:ありがとうございました!

*1坂本先生:坂本光司法政大学大学院政策創造研究科教授「日本で一番大切にしたい会社」大賞審査委員長でもある。

* 2 4つの幸せ因子:前野先生の研究による、「幸せ」を構成する4つの因子。「やってみよう!(自己実現と成長)」因子、「ありがとう!(つながりと感謝)」因子、「なんとかなる!(前向きと楽観)」因子、「ありのままに!(独立と自分らしさ)」因子。

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