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踊るエミネム人形(前)

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「古着の仕事、イチから全部教えます!!」

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当時、22歳の僕はコンビニに置いてある求人広告のその一文に飛びついた。ブームは去ったとはいえ、まだ古着市場は繁盛していたし、何より薄暗い工場でバイトするよりよっぽど楽しそうだ。

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さっそく面接の電話をして日時を決めた。古着屋の店長かぁー。格好いいなぁ。(海外出張が多くて忙しいぜ)とか言っちゃったりして、アハハ夢が広がるぜー。

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後日、指定された面接場所は我孫子駅前のマクドナルド。マックかぁ、、マック?まぁ、細かい事はどこかに押し流して時間通りにマックに到着。

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そこには、スーツ姿のちょっと可愛い女性がいた。 「初めまして、私××の高田といいます。本日は面接を務めさせて頂きますのでよろしくお願いします」

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あれ、な、なんか変じゃない?おれ、確か古着屋の面接に来たんだよね。何かを延々と話しているんだけど、何を言ってるかよくわからなかったし、正直全く聞いてなかった。年に何回かハワイ研修があるとかそんな話をただ、ぼーっと聞いていた。常夏のハワイ、いいね。

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「はい、それでは最後に、あなたの夢をこの紙に書いて下さい」

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えっ、夢?じゃあ、やっぱり古着屋なんだし「古着屋の店長になりたい」と書いておくか。なんか恥ずかしいな。はい。

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それを読んだ高田さんは満足気な表情で頷いた。

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「はい。夢を持っている。それだけで充分あなたは合格です。それでは明日からスーツを着て会社の方に来て下さい。場所はわかりますか?」

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やった。見事、合格。いや、なにに??まぁ、何か色々よくわからないけど、とりあえず明日行ってみるか。

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慌ててコナカで買った一番安いヘロヘロな生地のスーツを着込み、いざ、出社。でも何故にスーツ?

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柏駅から少し離れた場所にある指定された建物の二階に上がると、そこにはスーツ姿の男女が15名くらい談笑していた。なんかやたらハイテンションで朝だというのに「オハヨー!!」と言いながらハイタッチ(!!)をしてくる。なんだ、コイツら。

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9時になり、始業時間になると別室からボスらしきサーファー風の人が出てきて開口一番

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「えー、今日ね。皆さんにね、売って頂く商品はね、これ!」

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そこには黒革の小さな手帳が詰まった大量の段ボール箱。嘘でしょ。まさかこれを売れと?

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「はい、ね、これはね、1個1500円。1500円で売ってきて下さい。はい、それでは今日も元気に頑張って行きましょう!!」

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「行って来まーす!!」

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「はーい、行ってらっしゃい!!」

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気持ちの悪いハイテンションなスーツ姿の男女が手帳の入った段ボールを何個もガラガラに載っけて勢いよく外に飛び出して行く。なんだ、ここ?

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「青木君。それじゃ、行こっか」

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「、、、」

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恐る恐る振り返ると、そこには先日、面接をした高田さん。えぇ!?えぇー!?

おれは一体どこに迷い込んでしまったんだ。

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電車に乗って駅を降りたのは茨城県南部にある小さな町。前を歩く高田さんの後ろから手帳が詰まった段ボールを載せたガラガラを引くおれ。

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「よし、まずはここに行こうか」

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高田さんは元気な挨拶で一件の町工場に入っていく。

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「すいませーん。今こんなの販売しているんですけどぉ、今手帳とかぁ、お探しじゃないですかぁ?」

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予想通り冷たくあしらわれたが、めげずに手当たり次第に声をかけている。いや、嫌だよ。おれ、こんなの絶対やりたくないよ!!!

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to be continued.


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