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入江の変貌

画像は静岡県の朝霧高原にある田貫湖の西の入江だ。逆さ富士やダイヤモンド富士の撮影地としても知られている。しかし12/5のこの日は寒い月曜の夕だったこともあり、展望台には誰もいなかった。

すでに書いたことだが、かみさんと私はここでカワセミを見た。私はカワセミをはっきりと見たのは何十年かぶりで、かみさんは初めてだった。カワセミそのものが特別に珍しい鳥というわけではないのだけれど、鳥見を始めて以来ずっと双眼鏡に入れたくてたまらなかった鳥なので、それはもう感激だった。

最初カワセミは展望台の目の前を飛び、それから入江を横切って、画像の右側にある突端近くの枝に止まった。そこにかなり長い時間カワセミは止まっていた。ときどき背をこちらに向けると、翡翠色がきらめいた。

昔、30歳くらいだった頃、つまりは今から30年も前のことなのだが、この入江でよくフライフィッシングをやった。ラージマウスバスを釣っていたのだ。あの頃はこの湖にもラージマウスバスがたくさんいたのであった。今やその魚影を見ることは少なくなったし、アングラーも随分と減ったようだ。

当時は、この入江の岸辺の大半に人一人が通れるような道がついていて、多くのところでロッドを振ることができたのだが、現在では道はすっかり荒れ果て、灌木が茂って岸辺に寄れないようになってしまった。

だいぶ前からそういう風になっていて、この入江でフライフィッシングをするのが好きだった私は残念なことだと思っていた。せっかくのスポットにもはや以前のように近付くことができなくなったのだ。

しかし後になって気付いたのであるが、そのことは逆にカワセミにとっては好都合な変化であったろう。岸辺に営巣をするカワセミは、人の近付かない場所が多ければ多いほど安心して生活を営めることになる。

物事はうまくできている、というか、それも摂理かもしれないなとこの齢になって思うのである。以前に釣りに血道を上げていた頃には岸辺を征服するような気持ちで湖に入っていたが、今はただ鳥の営みを遠くから双眼鏡で眺めて満足しているだけである。

そう言えば、カワセミの英名は King Fisher だ。彼は岸辺の突端から突き出した枝の1本に止まって、獲物が近付くのを待っていた。

私は自分の過去を見ていたのかもしれない。

ひと気のない田貫湖の西の入江。かつてはここにたくさんのラージマウスバスが集っていた。今はカワセミや水鳥の楽園だ。


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