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映像と追憶/オリンパスの小型カメラ

 画像のカメラは、オリンパスXA4。シリーズの中ではけっこう珍しいかもしれない。距離計付のがXAで、レンズは35mmF2.8。その廉価版のXA2は、ゾーンフォーカス機であり、同じ35mmレンズだが、口径はF3.5とやや暗い。しかし逆にレンズの光学設計に無理がないためか、写りはかなり良かった。
 XA3はXA2にDXコード機能(フィルムの感度を自動読み取りする機能)が付いたタイプらしい。中古で並んでいたのを一度だけ見たことがあるのを思い出した。コレクターではないので、さすがにこれは買わなかった。
 XA4は、1998年頃だろうか、たまたま中古カメラ店で当時としては安く出ているのを見つけて即買った。これは28mmF3.5で、スナップ向き。その頃やっていた仕事で、自転車のルート作りの取材のために何本ネガフィルムを通したかわからない。マップを作るときに、交差点とかに何があったか記録する必要があったからね。ま、今じゃ、ストリートビューでたいがい足りてしまう。

 オリンパスXAシリーズの設計者は米谷美久(まいたに・よしひさ)という方(故人)で、カメラ設計者として天才である。米谷氏の手になるカメラは、他に、ハーフサイズの一眼レフ、オリンパスペンFのほか、ハーフのEEカメラとして爆発的に普及したオリンパスペンがある。
 ペンFなどは、海外からも「世界で最も美しいカメラ」と評され、メカニズムもそのスタイリングも独創的と言える。
 XAは、パッケージング的にはペンに近いし、ペンと共通するデザインモチーフ(フィルムカウンター)や機構(巻き上げノブ)もあるが、レンズバリアを外観デザインと使い勝手の最大の特徴として、小型カメラの新しい使い方を提案したところが金字塔だった。
 テレフォトタイプという、光学系の物理的な全長がその焦点距離よりも短くなるレンズ設計技術を用い、光学系の繰り出しなどを必要とせずにコンパクトなカメラに仕立てたところは、歴史的傑作でもあったと言える。

 それまでのカメラは、どこか貴金属的な扱いがされていて、特にある程度の性能を持つものは、革の速写ケースなどに入れ、首から提げなさい、みたいな雰囲気だった。
 XAはそういうお宝的扱い方ではなく、カメラは道具だ、的な考え方を見事に具現して見せた。ボディ外皮が速写ケースみたいな感じで、片手でレンズバリアをずらせばすぐ撮れるじゃないか、みたいな主張があった。
 だから、カメラは大層なケースに入れるのじゃなく、ポケットにでも突っ込んでおけ、ということであったと思う。

 小さくてよく写るカメラが好きなのは、自転車やアウトドアで携行することが多かったからだ。重い一眼レフだと、撮影や取材が第一義のときはそれでいいのだが、行動の自由度を優先したいときにはNGなのである。
 そういうわけで、就職して最初のボーナスで買ったXA2のあと、XAシリーズにはまり込んで何台か、頂戴したりもした。CONTAX T2を先輩から借りて使ってみて、ZEISSレンズの諧調の豊かさに衝撃を受け、そのあと自分でT3を購入した。静岡から喜多方まで6泊7日で走ったときも、T3にリバーサルフィルムのプロビアを入れて携行していた。銀塩時代の話である。
 デジタル時代になってからも、オリンパスはレンズバリアのモチーフを活かしたコンパクトカメラを作っていたようだが、オリジナルのXAを凌ぐほどのものは現れなかったように思う。
 銀塩カメラの時代にXAのようなカメラに出会えたことは、素晴らしいことであった。この時代はカメラの作り手も、作品と呼べるようなものを残すことができたのだ。

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