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すた丼の逆襲

学生時分には東京の国立(くにたち)に住んでいた。国立の中でも富士見通り側のほうだ。

そこには大盛りの「スタミナ丼」「しょうが丼」で有名な札幌ラーメンの店があり、当時は確か夜中の2時頃までやっていた。

詳しくはまた別の機会に書こうかと思っているが、当時私はその店に仲間と通いつめていて、いやというほど食べさせてもらった。

盛りの良いことで有名な店で、ここで「普通盛り」を頼むと、まず世間で言う「特大盛り」という感じなのである。

うっかり「大盛り」などを頼むと、札幌ラーメンの大きなどんぶりに山盛りのメシが1kgくらい盛られてくる。

カレーライスの大盛りなどは、リオ・デ・ジャネイロの有名な風景のように、メシが溶岩ドームのように屹立していた。驚異であった。

そして当時の値段は「スタミナ丼」も「しょうが丼」も450円だった。1980年頃の話である。

つまり、かなり過去の話である。だからこの店(ほかにも国立の旭通りと国分寺にのれん分けされた店があった)のことを知っている人々はけっこう限られるのである。

それが驚いたことに、現在ではその一派がチェーン店化され、(ひらがなの)「すた丼」となって関東一円を席巻しているのだ。

1980年頃のオリジナルのメニューとは味付けや分量が若干異なっているとはいえ、なかなか見事に再現されており、このチェーン店を知ったときには私は思わず狂喜したものだ。

それで早速食べに行ったのであるが、やはり量は少々常識的なものになっており、「普通盛り」は過去の店の「半丼」くらいの量であったが、まあそれはいい。私も学生の頃みたいに食べているわけではないから。

卵もかつては最初から割り入れられていた。今は衛生上の観点からか、自分で割って入れるようになっている。

メシの上に味付けのりを敷いて、その上にニンニク味の豚バラ肉ネギ炒め(すたみな丼)、しょうが味の豚バラ肉ネギ炒め(しょうが丼)を乗せ、さらにたくあんを添えてあるところは昔日と同じだ。

もっとも、ニンニクの味付けは過去のものよりだいぶマイルドになっている。オリジナルの店ではもっと匂いも強烈だったから、私はもっぱら「しょうが丼」ばかり食べていた。

いつのまにか40年もの歳月が流れ、あの頃のものはたいがい消え去ってしまった。名画座も、名曲喫茶も、通いつめたカフェも。

「スタミナ丼」は「すた丼」になったが、それでもオリジナルに近い形で生き残っていることがありがたい。

そんなこと言うのもいささか気恥ずかしいが、あれは青春の1ページであった。腹を減らした夜更けにアパートを抜け出し、夜道を歩いて何度食いに行ったことか。

懐かしく、そして、切ない。



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