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青い炎【小説】第十二話

 顔になにかが当たる感触でかつきは起きる。すると、みんな起きていた。最近こんなことばっかだ、と思い、かつきは立ちあがる。あまりの暑さに、めまいがした。まだ残っていたお茶をのんで、海で顔を洗う。そして、小雨が降っているのに気づく。
「お前らー! 不法侵入だ! 今すぐ取り押さえるぞ!」
 辰実ががなっている。横には高そうなスーツを着た男。なんとなくそのインテリな雰囲気に、かつきは嫌な感じを覚えた。参護がタバコを携帯灰皿に捨て、一歩近づく。
「この土地は島民のものでしょう?」
「今日から国のものだよ。参護くん」
 インテリ男が言う。広夢がかつきに耳打ちした。
「あれ、あや子の父ちゃんだって。感じ悪いよな」
「そうだね」
「かつき、戻ってこい。友だちを危険にさらしたくなければな!」
「それが親の言う言葉か? 恫喝じゃねえか!」
 参護の言っていることが、三人にはまっとうに聞こえた。
「参護。お前に令状が出てる。ここから立ち去ったら、なかったことにしてやる」
「きったねーやりかた」
 広夢がつぶやく。参護はみんなにふり返った。
「まあまあ、最初だし、穏便に行こうかね。ヨシさん含む本隊が到着するまで、ねばれるか?」
「ああ」
「うん」
「あと片づけだけよろしく」
 そう言うと参護は警察官に付き添われ、パトカーに乗りこんだ。一番の厄介者がいなくなって、行政の人間はほっと胸をなでおろした。
「広夢! うちのをそそのかせたのは、お前だろ! わかってるんだぞ!」
「でも、かつきはここを選んだんだ。本島にあるお前の豪邸じゃなくな」
 神経を逆なでするような言い回しだった。克鬼の父親は頭に血がのぼっている。
「お前の父親の代わりはいくらでもいるんだぞ!」
「はっ! 海の男はそんな言葉じゃ釣れませんね」
 それを聞いて、あっけにとられたような顔を一瞬みせた辰実だったが、急に冷静な顔つきになって、黙った。
「なんだろ?」
「ほっとけ」
「「お兄ちゃーん」」
 あや子は持っていたペットボトルを落とした。
「帰ろー」
「お母さんも心配してるよー」
 サヤとヤエだ。ここまでするのか、かつきはとさかにきた。高江のスラップ裁判も記憶に新しいふたりには、わかっていたことだったが。かつきが挑発に乗って出向かおうとする。しかし、手で、広夢が制した。
「かつき、お前はここにいろ」
「でも」
「いいから!」
 強い言葉にかつきは驚いて、立ち止まった。広夢がづかづかと歩いていく。その背中に、かつきは嫌な予感がした。
「そうだ。広夢お前には関係のないことだからな。海の男は賢くなけりゃ……」
「広夢!」
 かつきの金切り声が、海鳴りに消される。広夢は思いっきり、辰実を殴った。数名の警官に取り押さえられる。気がつくと、嵐だ。
「広夢!」
「だめ! かつき!」
 あや子に引っぱられて、かつきは顔を泣きじゃくらせながら、ゴムボートに転がりこんだ。あや子はめちゃくちゃにパドルをこいだ、沖にある離れ小島にむかって。
「あや子、やめなさい!」
――あ。
 そのときだった。海の呼吸が、変わった。大きい地鳴りのような音が響く。かつきは音のするほうを向いた。すべての風景がゆっくりとスローモーションになった。それは海の彼方からあらわれて、岩のような肌を露出させながら、弧をえがいた。一瞬の出来事なのに、かつきにはその全体から水の粒まで見えるようだった。そして、小声でつぶやいた。
「海が、こたえた」
 そこからは、激流にのまれて、海底に叩きつけられ、泳げるはずの自分が全くコントロールできなかった。遠くで、あや子が波打ち際に流されていくのが見えた。
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