井上明人『中心をもたない、現象としてのゲームについて』第22回リアル異世界物語と、ゲーム的想像力:九井諒子、橙乃ままれ、なろう小説 後編<番外編>【毎月第2木曜配信】

ゲーム研究者の井上明人さんが、〈遊び〉の原理の追求から〈ゲーム〉という概念の本質を問う「中心をもたない、現象としてのゲームについて」。これまでゲームについて語ってきた井上さんが、番外編としてゲームに強く影響を受けている近年の小説について、ジャンル別に分類/分析します。

(2)現代知識チート:現代知識を用いることで最強になる話。

「そろそろ転生しそうな予感がしている人必読。異世界に持っていきたいこれらの知識」という売り文句で、今年の春に現代知識チートマニュアル(山北篤、新紀元社)という本が発刊された。

▲『現代知識チートマニュアル』(山北篤、新紀元社)

ファンタジー異世界に転生してしまった人が参照するためのマニュアル本という体で作られており、原始的な火薬の製法から蒸気機関の作り方まで書かれた分厚い内容である。

筆者は、リリースされてすぐに「そう!これだよ!こういう本が読みたかった!」(というか、むしろこういう内容を自分で書きたかった!)と感じ、貪るように読み、たいへん勉強になった。

もちろん、異世界に転生する予定はないのだが、なぜこんな一人ウィキペディアのような本が面白く思えるのか。それは、「現代知識チート」作品群を読みまくっているからに他ならない。

橙乃ままれが2ちゃんねるに掲載した魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」(通称『まおゆう』)のヒットあたりから、なんちゃって中世ファンタジー世界に行って現代知識を駆使して、活躍するというフォーマットの物語が、鬼のように出てきた。これらの作品のなかでは軍オタ的な知識はもちろんのこと経済学、政治学、農学、化学、物理学など多彩な知識が動員されて、中世ファンタジー世界に革命を起こしていく。ある意味で、ナイーヴな開発経済学の夢みたいな小説群ともいえるのだが、割り切って読むことができれば技術科学史教養のための学習漫画の一種のようなものだという気分で、楽しく読める。こういう作品を大量に読んでいた人々にとっては、古代から現代における重要なイノベーションをなるべくコンパクトにまとめた『現代知識チートマニュアル』のような本は「そうそう、こういうまとめが欲しかったんだよね」という内容になっている。

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