魔法使いの研究室-01

インターネットの理想はIoTでこそ実現される? 落合陽一 meets DMM.make AKIBA(第1回ゲスト:小笠原治・後編)

 ネットでもリアル書店でも話題沸騰中の落合陽一さんの著書『魔法の世紀』。本の内容をさらにフォローアップすべく、PLANETSメルマガでは落合さん出演のイベントや記事を連続で無料公開していきます!
 本日お届けするのは、日本のメイカーズムーブメントの拠点「DMM.make AKIBA(以下make)」で行われた、makeの前プロデューサーで現在はエヴァンジェリストとして活動中の小笠原治さんとの対談イベントの後編です。
 この後編では、シンギュラリティ(技術的特異点)以後の人類社会の姿や、そういった大変革を促すための教育等の仕組みづくりについて語りました。
(前編はこちら)

▼プロフィール
落合陽一 (おちあい・よういち)
1987年生,巷では現代の魔法使いと呼ばれている。筑波大でメディア芸術を学んだ後,東京大学を短縮修了(飛び級)して博士号を取得。2015年5月より筑波大学助教,落合陽一研究室主宰.経産省より未踏スーパークリエータ,総務省より異能vationに選ばれた。研究論文はSIGGRAPHなどのCS分野の最難関会議・論文誌に採録された。作品はSIGGRAPH Art Galleryを始めとして様々な場所で展示され,Leonardo誌の表紙を飾った。応用物理,計算機科学,アートコンテクストを融合させた作品制作・研究に従事している。BBC,CNN,TEDxTokyoなどメディア出演多数,国内外の受賞歴多数.最近では執筆,コメンテーターなどバラエティやラジオ番組などにも出演し活動の幅を広げている。

小笠原治(おがさはら・おさむ)
1971年京都府京都市生まれ。株式会社nomad 代表取締役、株式会社ABBALab 代表取締役。awabar、breaq、NEWSBASE、fabbit等のオーナー、経済産業省新ものづくり研究会の委員等も。さくらインターネット株式会社の共同ファウンダーを経て、モバイルコンテンツ及び決済事業を行なう株式会社ネプロアイティにて代表取締役。2006年よりWiFiのアクセスポイントの設置・運営を行う株式会社クラスト代表。2011年に同社代表を退き、株式会社nomadを設立。シード投資やシェアスペースの運営などのスタートアップ支援事業を軸に活動。2013年より投資プログラムを法人化、株式会社ABBALabとしてプロトタイピングへの投資を開始。


■ ゲートをどうなくすか?

(ここで本誌編集長・宇野常寛が登場

宇野 一ついいですか。
 いまのゲートの話について質問したいんです。先日対談したときに、小笠原さんが最近インターネットが面白くないと言っていたのですが、それって今まさにお二人が話されているように現代のインターネット業者がみんな「自分たちこそが新しいゲートである」とドヤ顔し始めたことにあると思うんですよ。
 そこで特に小笠原さんに聞きたいですが、どうすればインターネットを本来の「“インター”なネット」に戻すことができるのでしょうか。

小笠原
 僕としては、人間のインターネットの限界をちょっと感じ始めたというのがあります。結局、人間が商業的な活動をする以上は前に出ざるを得ないし、これがゲートみたいなものを生むのだと思うんです。それに対して、逆に物事と物事をどう繋げ合っていくかの方が僕は楽しいですね。

宇野 つまり「人のインターネット」にこだわっている限り、どんどんゲートが生まれていくし、どんどんホワイトカラーを生んでいくし、どんどん中間搾取団体を生んでいく。そして、ついにはマスメディアの劣化コピーのようなものになっていく。そういう理解でいいですか?

小笠原 ええ、そういうふうに僕は思ってます。

落合 じゃあ、アフィリエイターのことは「インターネットホワイトカラー」とでも呼ぶといいですよね。インターネットが逆に作った高知に住んでる男とか、インターネットが逆に作ったホワイトカラーとしての秒速で稼ぐ男とか、いっぱいいるじゃないですか。やっとインターネットによって脱構築できたのに、なんで構築してるんだろう、という話ですよね。

小笠原 それ、落合さんの感情からの話じゃないですよね(笑)。

宇野 でも、インターネットが登場したときには、中間的なものをなくしていく存在として正しく機能していたはずなんですよね。それがどうして、この10、20年の間に中間的なものを再生産・再定義するものとして肥大してしまったのでしょうか。

落合 エントロピー(注1)が拡散し過ぎたんだと思いますよ。そして、そういう状況でエントロピーを集約させるのに人間が必要だったんだと思います。
最初は、インターネットは情報を発散するツールではなくて、エントロピーを減らすツールだったんですよ。情報をインデックス化して、どうやって拡散したエントロピーを減らすか、みたいなことをしていたのが、いつの間にか無制限に流れ込んできた情報をユーザーが拡散させていくものになった。その結果、高知男や秒速男みたいなのが登場してきたんだと思います。でも、逆に言えば今あるキュレーションメディアくらいのことが自動で出来るようになれば、高知男の年収はゼロ円になるはずですけどね。

(注1)エントロピー もともとは熱力学および統計力学において定義される示量性の状態量のことだが、転じて「情報の乱雑さや不確実性」という意味でも用いられる。


宇野 つまり情報が自律していないせいで、どうしても「イケダハヤト的」なゲートを必要としてしまったわけですよね。それに対して、情報同士が勝手に自律的に動いて、勝手にコミュニケーションして、擬似自然を作っていけばそれは解決するという理解でいいですかね。

落合 僕はそう思ってますね。ぶっちゃけ10年以内に人工知能は、高知男を1秒間に5人くらい作れるようになるので(笑)、そうなってきたらまた話は変わると思いますよ。

宇野 ちなみに、僕はイケダハヤトさんは普通に好きですけどね。ブログも毎日見てて、「俺、東京で消耗してる。ヤベェ、三浦半島とかに引っ越した方がいいんじゃないか」なんて、マジで思ってます(笑)。

落合 俺もブログずっと読んでるんですよね。インターネット構造に対する疑問と、彼本人のことが好きかとは別の話で(笑)。

宇野 だから、僕らはゲートにお金を発生させてる側の人間なんですけどね。本人に「高知遊びに行きたいです」とか言ったりしてますから(笑)。実際、マジで鰹(かつお)とか美味しそうですからね。


■ Q1 シンギュラリティについて

質問者A シンギュラリティ(注2)について語ってもらえないでしょうか。

(注2)シンギュラリティ 技術的特異点=科学技術が何らかの原因で予測不能なほど爆発的に発達し始めるタイミングのこと。様々な事態が予測されるが、代表的なのは「人工知能が人間の労働分野のすべてを代替し尽くし、人間が働く必要がなくなる」といったものである。


落合 いいっすね、骨のある話題ですね。とりあえず、僕はシンギュラリティ以降は「フランスの山奥でブドウを見ながら過ごしたい」と、ずっと言ってるんですけどね(笑)。
 とりあえず、Googleの社内方針の決定が人工知能で行われ始めたら、多分シンギュラリティ前夜だと思うな。どの会社を買収するか、どういうイノベーションをやっていくかの意思決定の補助に人工知能が使われだしたら、ほぼ人工知能が自分のイノベーション対象を発見することができるようになったということでしょう。
 結局、人間は五感や第六感、もしくは会計学の知識を使って投資対象を見極めてますけど、あの博打のようなプロセスがなくなってしまえば、ビジネスがイラストレーターのソフトのような行為になっていく。そのとき、ビジネスはいわばデザインのようになるんです。
 実際、デザインは何が良いデザインかがかなり分かりやすいけど、何が良いビジネスなのかはさほど自明ではないですよね。だから、現状ではデザインよりビジネスが上位にあるわけです。でも、その不確定性がビジネスから消えたら、大きく変わっていくと思う。
 それ以降は、俺たちは、フランスの山奥でワインを飲んで暮らせばいいと思いますよ。肝臓を痛めつける行為は人間にしかできないですからね(笑)。

小笠原 僕は、シンギュラリティとビジネスの話で言うと、ビジネスは人間のためのゲームとして残って、それを人工知能が観察するんじゃないかと思いますね。

落合 つまり、ビジネスを人工知能に入力する数値の発生源として残すわけですね。それはありますね。
 でも、僕は、神の死は信仰の終わりで、歴史の終わりは統治の終わりで、世界の終わりは人類的知性の終わりだと思うんですよ。シンギュラリティは人類が何もしなくて良くなる時代の到来ですから、世界の終わりですね。でも、それって人類が規則的な発展をする必要がなくなるわけで、穏やかで優しい世界なんだと思いますね。

小笠原 そういう人類の規則的な発展を許容するレベルでシンギュラリティが起こって、人類の歴史が箱庭化するんですね。

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