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日記

 午後三時、ひとりの時間を過ごせるように、気兼ねなく読書ができるように、ネット環境の課題を相談しながらいっしょに取り組んでくれているサポーター(ヘルパー)のKくんから電話がかかってきた。
 いつも前日に待ち合わせ場所や時間を確認しているぼくは、明日のサポートが彼に変更になったのかと思った。

 いつものように、ちょっとぶっきらぼうに彼が話しはじめた。
「おとといの夜、電話もらってたでしょ。かけ直すの忘れてたんですよ。なんか用事だったっすか?」
 月曜日、揃ったばかりのワンキースイッチに手こずっているのかと、案じてくれているに違いなかった。
 たしかに、おとといの電話はその通りの内容で、まぎれもなくSOSだった。
 ただの接続の問題だけだったことと、ここ二日間の状況と当分の使い道を話すと、ほぼ同じ考えで話は落ち着いた。
 電話の最後に、彼はつけ加えた。
「毎週の月曜、ぼくサポートに入ると思うんで、よろしくっす」
「ほんな、またいっしょに相談しながらやろな。たのむでぇ」
「オッケーっす」
 こんなやり取りのあと、ハンズフリーのケータイから「プープープー」の通話終了の音が聞こえてきた。

 今日のサポートのTくんは、かぎりなく友人に近いふたりのやり取りがうらやましいみたいだった。
彼は自分自身がストイックに仕事に打ちこむタイプではなくて、一人ひとりとより身近なつながりを持とうとするスタイルをめざしている。
 でも、ついつい肩に力が入って硬い表情になったり、マニュアルチックな態度になっりすることを歯がゆく自分に返している。

 そのあと、知らないうちに音楽の話になり、一段落ついた。
「ぼくとはええ感じになってきてるし、すべての人と仲ようできたら、そら神さんやで。自分なりの相手と接するための基本的なモノサシは必要やと思うけど」
Tくんのマスク越しの目もとがすこし細くなった。

 そういうぼくは、苦手なヘルパーさんの連なるシフトが過ぎて、頭にひろがる澱みが薄らいでの説教くさい励ましだった。

 明日からも人間くさい暮らしがつづいてゆく。

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