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親父、まだヒッピーなのかよ(偽らざる本音)。 「はじまりへの旅」

評価が高いところ済まないが。いい話に見えて、見方を変えれば毒親じゃないのか。これ。2016年に公開されたアメリカのドラマ映画「はじまりへの旅」(Captain Fantastic)より。

物語は、ベンという名前の男性(演じるヴィゴ・モーテンセン)と彼の6人の子供たちが、アメリカの森の中で自給自足の生活を送っているところから始まる。ベンは子供たちに固定観念にとらわれず、知識や生存技術を教え、肉体的・知的に鍛え上げる教育を施している。
ある日、ベンの妻であり子供たちの母親であるレスリーが突然亡くなってしまったことを耳にする。ベンは子供たちとともに彼女の葬儀に参加するため、都会の現実世界に足を踏み入れることになる…。

現代社会に馴染めない父親ベン・キャッシュが6人の子供ごと山奥に立てこもり本拠としたのが、改造した大型バス。
母の葬式に立ち会うため、ラッパをかき鳴らし、この「アラモの砦」ごと出発いや出撃する冒頭シークエンスには、心踊る。

だが、彼ら7人に、権威や秩序に毒された現代社会を批判させるという監督の試みは、どうもうまくいっていない。
星の王子や異星人のようにユーモラスなわけでもなく、一行が行く先々で悪ふざけとしか思えない不快な(ときに犯罪すれすれな)行為を繰り返す。
抵抗と反抗とを履き違えている父親のせいだ。心技体の内、心を教えるのを忘れたに違いない。

都会の中で、ベンと子供たちは彼らが普段経験しないような状況に直面しまする。ベンの義理の両親や他の家族との軋轢、現代社会の価値観との当然衝突する7人。しかし彼らは、周囲の助言や警告を聞いているようで聞いておらず、何ら成長することなく「結局、自分たちが正しくて、世の中が間違っているのだ」と早合点して、悪ふざけの挙句、自由を取り違えたまま、山へと帰ってしまう。

葬式に立ち会うことを許されなかった(そりゃそうだ)一行は、山の中に帰り、自分たちの手だけで母の魂を弔う。
子供たちの手のひらから溢れゆく色とりどりの花びらをみるにつけ、文明批判をしたかったのか、現代の秩序からはみ出した者に居場所はないことを言い含めたかったのか、腑に落ちぬまま映画は終わる。


【スタッフ】
監督 マット・ロス
【キャスト】
ビゴ・モーテン センベン
フランク・ランジェラ ジャック
ジョージ・マッケイ ボウドヴァン(ボウ)
サマンサ・アイラー キーラー
アナリース・バッソ ヴェスパー

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