今年最後の診察に行ってきました。３月から2か月ネパールに滞在して帰国後検査で癌再発が分かってから7か月。外出は病院、近所のスーパーへの買い物、愛犬との公園散歩のみ。これだけでもできている今の状態、ありがたく思っています。

歩くのもずいぶん楽になったので病院までの道を最寄り駅から歩いてみました。通っている病院は最寄り駅から15分くらいかかるので調子の悪い時はバスを利用していました。普段ならなんてことない距離にバスを使うのが嫌（いわゆるケチ）な私。久しぶりに大好きなポッドキャストを聞きながら歩くのは気分良いものでした。

道の途中懐かしい匂いにふと視線を上げると、赤い看板と国旗からネパール人経営のカレー店に気づきました。店内をちらりと覗くと昼食時間を過ぎているからか無人。ヘルメットを被った男性がキュッと持ち手をしばられた白い簡素なプラスチック袋を片手に店頭に止められたバイクに乗り込むところでした。

デリバリーサービスが日常化した今ではこんな光景はどこにでもある風景ですが、ネパール料理店を経営していた身としてはつい気になります。一瞬にしてこの店の経営とか必要以上に安い値段でデリバリーメニューを提供して無いかなど。通りすがりの老婆心。

診療が終わって帰り路。同じ道を今度は駅に向かって歩いている時。前方から赤いセーターと同系色の大判の暖かそうなスカーフをした年配の女性と、一目でそれと分かるネパールの帽子「ダカトピ」を被った女性の夫と思われる男性がゆっくり歩いてきました。

もしかしたら、行きに見たネパール料理店の人の父母かもしれないと思いました。息子夫婦に日本旅行に呼んでもらったが、息子達は仕事で忙しく休みは週1回。その日が来るまで老夫婦は2人で日がな一日時間を潰さなくてはいけません。テレビもチンプンカンプンだし、近所の友人が訪ねてくるはずもなく、自分達だけで電車に乗って観光できる程の能力なく、ただぼんやり家にこもっているのも辛い。そこで近所の散歩に出るのです。

家で過ごすのが退屈に感じる午後３時ごろ。今年の12月は例年にないくらいの暖かさ。手ぶらで両手を後ろに組んで歩く彼ら。足腰は丈夫そうです。息子達が住むアパート周辺をひとしきり歩いて回ってまたアパートに戻っていくでしょう。その後慣れない日本式の台所で夕食の支度をし、嫁が保育園から連れ帰る日本語しか話さない孫の面倒を見て過ごすんではなかろうか…。

そんな妄想と同時に、日本のこの街角で純日本人の私がいきなりネパール語でこの老夫婦に話しかけたらどうなるかな、などと考えていました。そんなこと出来やしないのに。これはいつものパターン。自分でもバカバカしくなりますが。

広い意味で「出来やしない」事なんて無かった頃の思い出をすれ違ったネパール人老夫婦から感じ取っていたのかもしれません。毎日忙しく働きながら子育てをし義母をネパールから呼んで休日にはあちこち出かけたあの頃。若さゆえの愚かさから日本滞在中に嫌な思いをさせてしまった事を思い出してごめんねと思ったり。

そんな大昔のこと諸々思い出した今年最後の診療日。最後の診療日も私の主治医は親身で丁寧でした。これもまたありがたい事です。来年初めの診療日もまたあの道を歩いてみよう。