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企業のエイプリルフール発信、そろそろやめどきかもしれない

私は前からエイプリルフールがあまり好きではありません。

4月1日はSNSのタイムラインに嘘か本当かよくわからない情報があふれるので、なるべくSNSを見ずに過ごします。これは本当の情報か?といちいち判断が挟まるのが疲れるし、発信する側としても無駄に誤解されても嫌なので、何も発言しない日となります。企業PRにおいては、数年前から「4月1日は発表ごとをしてはいけない日」のような暗黙の了解があると思います。

企業がエイプリルフールに乗じて何かネタをやったりするけれど、たいてい滑っていて面白くない。それだけならまだいいにしても、中にはちょっと本当っぽい巧妙なネタもあって、騙されてしまう人がいたりする。ときにはふわっと騙されたまま翌日になってしまって嘘が回収できないままの事案もあったり。みんなそこまで一生懸命にSNSを追っていないから、あとから「嘘でした~!ジャジャーン!」と投稿しても見逃されてしまったり。それが後々リアルで話題に上がって「あれ嘘だったの?」と発覚したときの興ざめといったら。

「エイプリルフールなんて、もうやめたほうがいいよね?」と冷める人が年々増えていた気がするけど、2024年4月1日はさらに増えた気がしました。時代は移ろい、それに合わせてPRのトレンドも変わります。変化していかないとね。

エイプリルフールと企業発信

エイプリルフール(April Fool’s Day)の由来はそもそも何か?と調べてみると、その起源はよくわかっていないようです。発祥の国も諸説あります。

日本には江戸時代頃に中国から伝わった説が有力で、「四月馬鹿」「不義理の日」「万愚節」などといわれ、この日だけは嘘をついてもいいよ~と楽しまれるようになりました。どんな嘘をついてもいいわけではなく、lieというよりjokeといった軽い嘘のニュアンスです。

SNSの普及に伴って、企業発信としてエイプリルフールに面白ネタをプレスリリースにするのが流行りました。メディアが取り上げやすいトピックでもあるので、何か話題になることを仕掛けようと、広報PRが頭をひねった2010年代。自社のサービスやプロダクトと絡めて、凝ったクリエイティブを作ってまで盛り上げる事例もありました。

流行り病があって「嘘なんかついている場合ではない」ということで一旦落ち着き、2020年はエイプリルフールPRが控えめでした。というか、2020年にはプレスリリース配信サービス大手のPR TIMESが「嘘をつくのではなく叶えたい夢を語ろう」とApril Dreamという取り組みをはじめたのもあって、風潮が変わったかなと思います。

PR TIMESは、4月1日を「エイプリルフール=ウソをついても許される日」から、「April Dream(エイプリルドリーム)=叶えたい夢を語る日」に変えようと、2020年から新たな発信文化の創造に取り組んでいます。

企業が「叶えたい夢」を発信することで、企業の理念や想いをよりわかりやすく伝えられます。あらためて従業員に行動指針を示せるほか、「夢」に共感した仲間やビジネスパートナーが現れる可能性にもつながるのです。

──引用:https://prtimes.jp/magazine/april-dream/

ただの嘘やジョークなどではなく、今は実現していなくても見た人がハッピーになるような理想像や在りたい姿を語るという、ポジティブな風潮になってきました。さすが時代の空気感を捉えた施策だったなと思います。「こんなサービスあったらいいかも?」と架空のサービスやプランを発表し、反響を見てテストマーケティング的に使う企業も出てきましたね。

エイプリルフールに嘘として発表したサービスを、本当に形にしてしまった企業事例もあったようななかったような。覚えていないけど。

エイプリルフールのプレスリリースはもう寒い

PR TIMESが新しいトレンドを作ろうと動いている一方で、いまだにレベル低めなネタリリースを配信してしまう感度の高くない企業もありました。2020~2023年はそれを制止できるほどの大きなうねりにはなっておらず、玉石混交といった感じでした。

しかし今年2024年は、ぐわんと潮の流れが変わったような感覚を抱きました。3年間もそうした中途半端な具合が続くと、さすがに空気も変わってくるみたいです。

「エイプリルフール寒いよね」「そろそろやめたほうがいいよね」

という感覚を今年抱いた人がいたとしたら、それはあなただけではなかったはず。少なくとも私は、なんとなく多くの人がこっちの流れに寄ってきた感じがしました。

余裕のある大企業はまだネタリリースをやっていたりもするけれど、真摯に事業とその先にいるお客さんに向き合う企業(特にスタートアップなど)ほど、エイプリルフールは無視して動いている気がします。ネタリリースを出す企業の数って、調べたら年々減っているんじゃないでしょうか。知らないけど。

エイプリルフールが時代遅れになった背景

いろいろな時代背景があると思いますが、思いつくことを挙げてみます。

フェイクニュースで「嘘」に疲れている

「フェイクニュース」という言葉が世に出てきたのは2019年か2020年くらいだったと思いますが、本当に騙されてしまう人もいたし、大きく社会問題になりました。ひと波落ち着いた昨今のところで、みんな本当に疲れてしまっている。それがポジティブでもネガティブでも、もう「嘘のニュース」なんて見たくない。許されるのは虚構新聞のみである。

単純にマンネリ化してきた

2013~2018年頃はいろんな企業がいろんな角度でネタリリースを出して面白く見ていられたのだけど、何年もやっていればだんだん飽きてきますね。これはどの業界でもそうで、お笑いのトレンドが変わっていくのと同じ原理。特別飛び抜けたネタも出てこないので、そろそろ飽きてしまったよね。

消費者たちの「本物志向」へのシフト

オーセンティシティや本物志向といった言葉が、この3年ほどに注目されるようになりました。InstagramやYouTubeはどんどんPR案件だらけになり、信頼に値する情報を選別する消費者としての能力は上がっています。本物を見極める目も養われました。生活者たちは「一次情報」を求めるようになり、メディアに取り上げられたニュース記事よりも先にプレスリリースを直接読んで情報収集する人も増えました。企業から発せられる一次情報くらい、嘘偽りない本物の情報であってほしいよね。

「面白さ」へのハードルが上がった

最近はもっともっと面白いものがたくさんあります。エンタメの品質は上がり、コンテンツはあちこちに分散して飽和状態。利害関係なく個人で動ける人たちが、面白いネタはいくらでも提供してくれています。企業が「面白さ」で勝とうとしても、全体が底上がってしまっているので勝ち目は薄い。というのは言いすぎだけど、企業の体力をフル活用するくらいじゃないと面白いものは作れない。こんなに面白さのハードルが上がった世界で、もう勝負かけなくてもいいんじゃないの。

「笑い」の価値観がずれてきた

お笑い界でも、容姿や体型をいじって自虐するネタが好まれなくなったり、平成には笑えていたことがどんどん笑えなくなってきたり、ウケるものの変化が激しく起きている昨今です。企業が流すネタリリースを「www」と受け止めて笑って許せる寛容度みたいなものが、日本国全体で下がってきたなと感じます。これを息苦しいと感じる人もいれば、理想的な社会に向かっていると感じる人もいるかも。私は後者ですけど。皆さんはどちら?

企業発信×エイプリルフールはそろそろ終了でいい

いち個人としては、「情報収集のコストが高いため情報を収集しなくなる」という新年度早々のロスの日なので、もういらないなーと思っています。

企業のPRをする立場としては、「情報発信のリスクが高いため情報を発信しなくなる」という新年度早々のロスの日なので、やっぱりもういらないなーと思います。

あまり誰も幸せにならない。そんなことしている暇があったら、もっと本質的に事業に向き合い、社会に受け入れられる良質なネタづくりに励みたい。

企業発信×エイプリルフールは2024年に置いていきましょう。という主張を放り込みたいだけの簡単な記事でした。よろしくお願いします。


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