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弱者がファンベースのビジネスを目指すべき理由

大きな資本を持たない者、優れた経営資源が手元に無い者も強者の戦略を知らなければならない。また、弱者ほど全体をよく観察し、マスの構造を理解しなければならない。なぜなら、強者の戦略やマスの構造を知らなければ、その隙間を狙うことはできないからだ。ということで、まずは強者の戦略やマスの構造を探っていく。

最初に強者の戦略で挙げられるのは価格競争だ。スケールメリットが利く分野、例えば工業製品や農作物では、基本的に資金力や技術力の勝負となる。弱者は、そもそも生産コストで勝ち目がない。それに加えて、強いものはより利益をあげる事ができ、それを次の投資に回すことができるため、差は広がるばかりだ。

次に挙げられる強者の戦略は、皆が良いと思うものを作ること、分かりやすいモノサシで測る事のできるものを作ることだ。皆が良いと思うものは、既に世間で注目を集め、ある程度普及しているという事だ。普及とは陳腐化を意味する。こういった「みんな大好き」なものに寄せていけるのは、強者、すなわち経営資源に恵まれているものだけであり、薄利多売の戦略を取れる相手の前では、「多売」ができない弱者は「薄利」のしわ寄せだけを受けることになる。またモノサシを明確にして売るのは、横綱相撲を続けられる強者に限られる。なぜなら、比較可能なスペックを提示するということは、そのくくりの中で選び倒されるということであり、激しい競争に突っ込むことを意味するからだ。つまり、安易な差別化は弱者が目指すべき戦略ではない。

以上の事を考慮した上で、弱者の戦略を考える。結論として、一言で弱者の戦略を表すならば、それは宗教だ。信心というのはある意味でスペックとは真逆のものであり、なぜ惹かれるのかを定義したり、他人と共有できない最たるものである。つまり、他と比較されにくい良さを醸成してファンを獲得し、「うまく言えないけど好き!」「この商品(サービス)のファンなんです」という形に持っていく事を目指すべきだと言える。「何が売りなんですか?」と聞かれて、簡単に答えられるような商品(サービス)は誰でも真似できてしまう。そうではなく、10回質問されたら、10回違う答えが出てくるような掴みどころのない売り方こそ、弱者が目指すべき戦略となる。

では弱者の戦略を実現するためにはどうしたら良いのか。それは、自分にあった適切な規模の選択と偏る勇気を持つことだ。自分のビジネスにあったコアなファンを集めるという事は、当然有象無象を集めるよりも手間がかかる。時間をかけてじっくり爪を研ぎ、牙を磨き、他に気がつかれないように足場を固めるためには、まずは勝つことを考えるのではなく、「負けない」規模を逸脱しないことが大切になる。そして、もう一つ大切な事は「偏る勇気」を持つという事だ。弱者にはバランス良く全方位に戦うだけの戦力はない。無理に360度意識すれば、どの方位も中途半端になる。つまり、勝てるかもしれない方向性を見極め、そこに全戦力を投入する事こそ、最も合理的な選択なのだ。最後にもう一つ。この全戦力を投入する核となる部分は戦略的(計画的)に作るのは難しい。多くの成功者と呼ばれるような人たちは、自分の好きなことを貫いた結果、核となるものが出来上がっているケースが多い。つまるところ、自分の興味があること、好きなこと、没頭できることを持続可能な範囲で継続する事こそが、弱者の最適な戦略ではないだろうか。

生産・販売プロセスの合理化と独自のブランディングを行なっている「久松農園」代表の久松達央さんが書かれた「農家はもっと減っていい」を元に構成しました。


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