見出し画像

組換え遺伝子を導入された生物たち

自身の遺伝子とは別の外来の遺伝子が導入され、その組換え遺伝子が体内で発現するようになった生物をトランスジェニック生物と呼んでいます。そこで本記事ではトランスジェニック植物とトランスジェニック動物を紹介していこうと思います。

<植物への遺伝子導入>

植物への遺伝子導入ではアグロバクテリウムと呼ばれる細菌がよく使われています。まずはこの聞き慣れないアグロバクテリウムについて解説していきます。アグロバクテリウムは植物に感染する細菌でプラスミドと呼ばれるものをもっています。プラスミドは環状(輪っかのような形)のDNAで核様体(原核細胞のDNAが偏在している領域)のDNAとは独立して増殖しており、通常の生命活動に必要な遺伝子はもっていません。しかし、細菌が高温や乾燥、高塩分などの特殊な状況に置かれた場合や病原性を発揮する場合などにプラスミドが独自に働きます。そして、アグロバクテリウムの場合は植物に感染すると自身のプラスミドに含まれる遺伝子を宿主である植物のDNAに組み込んで寄生します。

次にアグロバクテリウムを利用した具体的な遺伝子導入の方法を紹介します。まずはアグロバクテリウムからプラスミドを取り出し、DNAの切断・連結といった遺伝子組換え操作によって目的の遺伝子をプラスミドに組み込みます。その後、プラスミドをアグロバクテリウムに戻して植物に感染させます。すると一部の植物細胞では目的の遺伝子がプラスミドを介してDNAに組み込まれるのです。最後に目的の遺伝子をもった植物細胞を培養することでトランスジェニック植物を得ることができます。このような手法を使うことで除草剤に耐性のある植物などを作ることができます。ただしプラスミドによって運ばれた外来遺伝子がうまく導入されない事も多いため、一般的にはうまく遺伝子が導入された細胞を選別する必要があります。

<動物への遺伝子導入>

哺乳類の受精卵では卵の核と精子の核が融合して、その後活発な細胞分裂を始め、発生を開始します。しかし、受精後すぐに卵の核と精子の核が融合するわけではありません。これを利用して融合する前に精子の核に組換えDNAを微細な注射針を用いて直接注入し、そのまま発生を続けさせると外来遺伝子を組み込んだトランスジェニック動物を作ることができます。そして、外来遺伝子が生殖細胞でも保持されていれば子孫にも受け継がれていく事になります。動物への遺伝子導入方法としては他にウイルスのDNAに目的とする遺伝子を組み込み、そのウイルスを感染させることで動物細胞に外来遺伝子を導入する方法があります。

最後にこれまで作られてきた様々なトランスジェニック生物を紹介します。トランスジェニック動物では、ヒトの成長ホルモン遺伝子を組み込んで巨大化したマウスやGFP(緑色蛍光タンパク質)の遺伝子を組み込んだ全身が緑色に光るマウス、病気の仕組みを調べるために特定の遺伝子を取り入れたり、逆に破壊したマウスなどが実際に作られています。他にも病気の治療に有効なタンパク質を含む乳を出す羊も作られています。青いバラもパンジーが持つ青色色素を作る酵素の遺伝子を導入したトランスジェニック植物です。

参考文献:嶋田正和ほか22名,「生物」,数研出版,(2017).

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?