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窒素の循環と赤潮

大気中には体積で約80%もの窒素が含まれています。そして、窒素はタンパク質・核酸(DNAやRNA)・ATPなどに含まれている必要不可欠な元素です。それにも関わらず多くの生物は大気中の窒素を直接利用することができません。

ではどのようにして生物は窒素を取り込んでいるのでしょうか?そこでまず活躍するのが植物(生産者)です。植物は土壌中にある硝酸イオンアンモニウムイオンを根から吸収しアミノ酸をつくり、さらにタンパク質や核酸などの有機窒素化合物をつくっています。このような働きを窒素同化といいます。そして動物(消費者)は窒素同化を行うことができないので、植物が合成した有機窒素化合物を直接もしくは間接的に取り込みます。また、動植物の死骸や排出物中の有機窒素化合物(タンパク質など)は菌類・細菌といった分解者によってアンモニウムイオンに分解され、さらに硝化菌によって硝酸イオンに変えられます。こうしてつくられたイオンが再び植物に吸収されることによって閉鎖的な窒素循環が成り立っています。ただし、根粒菌や一部の細菌・バクテリアは大気中の窒素からアンモニウムイオンを作ることができます(窒素固定)。また、土壌中の硝酸イオンや亜硝酸イオンのごく一部が脱窒素細菌の働きで窒素に変えられ、大気中に戻ります(脱窒)

近年までは利用できる窒素の量は限定されていたために農産物の生産量は限界がありました。しかし、1906年に開発されたハーバー・ボッシュ法によって限界が打ち破られました。ハーバー・ボッシュ法とは鉄を主体とした触媒上で水素と窒素を超臨界流体状態で直接反応させることによってアンモニアを生産する手法です。つまり、大気中から窒素を化学肥料として利用できる形で取り出すことに成功したのです。この出来事によって農作物の収穫量は大幅に増え、人口の増加にも繋がりました。同時に窒素などが河川や海洋に流れ出ることで富栄養化を引き起こしました。富栄養化とは栄養塩類(窒素やリンなど)が湖や海洋などに蓄積してその濃度が高くなることです。富栄養化が進行した湖では水面の近くで植物プランクトンが異常に繁殖し、水中に届く光が少なくなってしまいます。その結果、水生植物が生育できなくなってしまいます。また、東京湾や瀬戸内海などの内湾・内海では河川から窒素やリンが流入して富栄養化が進み、プランクトンが異常に繁殖して赤潮が発生することがあります。一見、プランクトンが増えると魚類の餌が増えて好ましいのではないかと思ってしまいますが、増殖したプランクトンの遺体の分解には多量の酸素が消費されるため、水中の酸素が欠乏し、生物の大量死を招く場合があるのです。

参考文献:嶋田正和ほか14名,「生物基礎」,数研出版,(2016).

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