わん太郎 -Wantaro-

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【ツボのなかのぼく】第3話『維持』

ぶたちゃんはマサルのロッカーの中で ひとりぼっちになった。 さてこれからどうしようか。 ちょっと考えてみたけど 考えても何も浮かばなかったから 考えることをやめた。 マサルは厨房で食器を洗っていた。 するとテツヤが声を荒げた。 「誰だよ、壺出しっぱなしじゃん!」 そういえばマサルはぶたちゃんのことが あって慌てて持ち場を離れたから それっきりお肉が入った壺を 放置していたのだ。 「すみません、今片付けます!」 マサルは壺の入ったトレーを 冷蔵庫に入れた。 「肉がダメになると

    • 【ツボのなかのぼく】第2話『記憶』

      「(僕はどうしてここにいるんだろ…)」 子ブタは未だに今の状況が理解できない。 覚えているのは… 僕にはいっぱい兄弟がいるんだ。 いつも人間が食べ物をくれるから 僕たちはそれを取り合いっこしてた。 すごくおいしくてさ、 ついつい食べすぎちゃうんだよね。 あるとき 、その人間が僕たちを 見たことの無い場所に連れてきて くれたんだ。 いつもいる場所では ほん少ししか見えなかった 青い色と白く光る暖かいものと ちょっと灰色っぽい白い もこもこしたものが その場所はどこまでも広がっ

      • 【ツボのなかのぼく】第1話『出会い』

        昼下がりのとある焼肉店。 今日も夜の開店に向けて店員さんが お肉の仕込みで大忙しだ。 「おいマサル、そこのタレ取ってくれ!」 フルーティーでいて にんにくや香辛料のパンチも効いた 醤油ベースのお店自慢のタレだ。 働き始めてまだ数ヶ月のマサルは 洗い場で調理器具を洗っていた。 「は…はーい、今行きます!」 泡だらけの手を急いで水で洗い流し 冷蔵庫に入っているタレを 店長の元に届けた。 「おお悪いな、ありがとな」 店長は笑顔でマサルに言った。 「いえ、では戻ります」 マサルは照れ

        • 昔の恋のエピソード⑥【距離】

          打ち上げられる花火の色や音が 駐車場の近くの建物を照らし その賑わいを伝えてくれる。 道路には家族連れや恋人が 楽しそうに会場に向かって 歩いていく姿が見える。 まいはどんな格好で 来てくれるかな? 来て欲しいな。 そんな気持ちもあって 夏の暑さも最初はこれといって 感じなかった。 しかし時間が過ぎるほどその暑さ も辛く感じ始めていた。 たまらず車に乗りこみ キーを回して車のエンジンを かけた。 エアコンをつけてウインドウを 閉めた時、 僕は完全に孤立した気がした。 音は遮ら

        【ツボのなかのぼく】第3話『維持』

          昔の恋のエピソード⑤【気持ち】

          まいが僕を避けるようになった と気付いたとき、 僕はどう接したら良いのか わからなくなっていた。 まいは僕のことが嫌いになったのかな。 他に好きな人ができたのかな。 僕が何か悪いことしてしまったのかな。 いろんな憶測を立てながらも それらを解決する方法が 思いつかない僕はただ黙っている ことしかできなかった。 まいに近づくことができたのは 仕事中にまいのミシンの前の工程を 僕が担当したときだった。 そしてそのとき気付いた。 まいの右手薬指にはめていた 指輪が無くなっていた。

          昔の恋のエピソード⑤【気持ち】

          昔の恋のエピソード④【夢】

          日曜日の午前、 唐揚げでも作って食べようと 近所のスーパーで鶏もも肉を 買って寮に戻った。 寮には調理場は無くて、会社の食堂 にある小さな給湯室を調理場として 利用していた。 鶏肉に下味をつけていたら 食堂の方からから足音がした。 まいだった。 お互い目が合ったとき 自然と笑みがこぼれた。 僕はもう完全にまいに恋をしていた。 僕はまいに唐揚げのレシピを 教えながら作り、揚げたての唐揚げを 味見をしたまいは 「美味しいです。」 と言ってくれた。 狭い空間でふたりきりの時間。 若

          昔の恋のエピソード④【夢】

          昔の恋のエピソード③【キス】

          僕とまいが働いていた職場は 裁断場とミシン場で建屋が異なり、 裁断場の最上階に男子寮があり ミシン場の最上階が女子寮と なっている。 僕が済む部屋は3階の窓際、 カーテンを開けるとミシン場がある 建屋が見えて4階が女子寮だ。 日曜日の朝、カーテンを開けると まいが洗濯物を干していた。 今日も可愛いな…そんなことを 思いながら見とれていたら まいがこちらに気付いた。 僕が手を振るとまいは周りを キョロキョロ見渡したあと 胸元で小さく手を振ってくれた。 建物の距離はあるものの

          昔の恋のエピソード③【キス】

          昔の恋のエピソード②【初めて】

          卒業を控えた僕と 高校一年生の女の子の恋愛が始まった。 僕の方が年上だけど、 これといって恋愛経験の無かった僕は 恋人ができたことに気持ちが 舞い上がっていた。 僕にあんな可愛い彼女がいるんだ。 部屋の鏡に映る僕は浮かれていた。 名前は『まい』。 彼女は小柄でショートカットの ボーイッシュな容姿。 小さな瞳がとてもキラキラした 女の子。 さあ、彼女ができたらどうしたら いいんだっけ?デートだな。 どこへ行こう。 映画に行きたい。 食事がしたい。 手を繋ぎたい。 キスがしたい。

          昔の恋のエピソード②【初めて】

          昔の恋のエピソード①【告白】

          「今日は寒いね。」 普段話しかけてくることが無い人が 僕に声をかけてきた。 「うん、寒いね。」 と言葉を返した。 何か用でもあるのかな?と待っていると 「今度カラオケに行きませんか?」 と急なお誘いを受けた。 「え?僕と?急にどうしたの?」 女の子からカラオケに誘われるなんて 滅多に無かった僕は流石に慌てた。 「友達に人を集めて欲しいって…」 ああ、僕と行きたいんじゃ 無かったんだと少しがっかりしながらも この子前から可愛いなって思っていた からどうせ暇だし行くことにした。

          昔の恋のエピソード①【告白】