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シメジシミュレーションを読んで

つくみず先生の『シメジシミュレーション』を2巻まで読みましたので思ったことを書き留めておきます。

まず、とても面白かったです。テンポよく話が進むのでページをめくる手が止まりませんでした。また『少女終末旅行』を読んだ直後でしたので、少し涙腺にきました。

この作品のメインキャラクターは、頭にしめじが生えたしじまと、目玉焼きを乗せたまじめ。合わせてしめじめ。私には不可解ですが、どうやらこの世界では少し変、程度の個性のようです。2人のビジュアルは先生の前作、『少女終末旅行』のチトとユーリを彷彿とさせます。しかし、奔放で楽観的なユーリと賢明でどこか悲観的なチトという明確なキャラクターの対比は存在せず、しめじまはボケとツッコミを入れ替えながら掛け合います。彼女達の造形や会話は現実と虚構の境界の近くを揺れ動いているように感じます。それは潮の満ち干きのようで、突然虚構の世界に引き戻されたりします。

しじまは冒頭でヘミングウェイの『老人と海』を読んでいます。これはおじいさんがカジキと3日間の死闘の末に勝利するという内容だったと思うのですが、彼女は「カジキ食べられちゃった…」とカジキ側に感情移入しています。私はこのシーンで一気にシメジの世界に引き込まれました。現実に存在する本を読んで自分とは全く違う感想を抱いているしじまには、はっきりとしたリアリティと親近感を覚えます。

メインの2人だけでなく、2人を取り囲む他のキャラクター達も魅力的です。特にしじまのお姉さんや、「7 さんぽ」で出会った少女が登場することで、この世界の不可解な部分が鮮明に見えてくる気がします。現実から遠ざけようとする2人には、何か世界の根幹に触れさせてくれるのではないかという期待を覚えます。

ちなみに私はもがわ先生がとても好きです。お酒好き仲間として、先生には幸せに生きて欲しいですね。

四コマの形式を頻繁にとっていますが、四コマ漫画ではないのではないというのもこの作品の魅力です。四コマの外側に背景が描かれていたり、四コマの縁に電柱が立っていたりといったふうに、四コマから逸脱した場面がより効果的に映ります。私はつくみず先生の画に魅せられて先生の作品を購読していますので、とても満足です。では先生の画集が一番見たいのかというとそうではなくて、(もちろんつくみずらくがき画集は見たいですが)私はつくみず先生の漫画が読みたいです。

キャラクターが織り成す物語を味わうだけなら、むしろ読者の想像力が活かされる小説の方が適任と言えるかもしれません。しかし、この『シメジシミュレーション』では我々読者の想像力では補えない世界が存在すると思います。つくみず先生の描く背景や小道具が舞台装置の役割を果たし、読者が先生の思い描く世界を"シミュレーション"出来るのです。それ他の漫画でも同じじゃんと言われればその通りですが、私はこの作品でそれを強く感じました。

特にそれがよく現れてるのが各巻の終盤です。もし文章で同じ場面を読んだとして、私たちはこの画を想像出来たでしょうか。画の魅力は上手い下手に限らないということを痛感します。ストーリー、表現ともにつくみず先生のワールド全開で、これからの展開が楽しみでなりません。

つくみず先生の世界をもっと味わいたい。というのが一番の感想です。間違いを直すとは一体なんのことなのでしょう。世界の全容が知りたいという感情と、私にもっと想像させて欲しいという感情が6:4ほどのブレンドです。無粋かもしれませんが、もし『少女終末旅行』を読んだ方で本作が未読の方、ぜひ読むことをおすすめ致します。


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