【ぶんぶくちゃいな】中国式リアリティ番組:固められたウソで歪められる現実

日本の「リアリティ番組」といえば、芸人たちの旅番組や芸能人をこっそり裏でひっかけたりする番組、あるいは芸能界を目指す若者たちの勝ち抜きショーのことだろうか。これにテレビ局が朝から晩まで手を変え品を変え、ニュースネタをタレントや著名人のコメンテーターに語らせるワイドショーも、ある意味リアリティ番組といえるかもしれない。

日本のお手軽なワイドショーばかりのテレビを眺めていてとても残念に思うのは、アメリカには目を見張るようなリアリティ番組が今たくさんあるのに、それらが日本であまり紹介されていないことだ。

たとえば、外部と遮断された土地で参加者たちがゲームをしながら勝ち残っていく「Survivor」や庶民が歌声を披露する「The Voice」(オリジナルはオランダ)、またさまざまなプロ級の特技を競う「America's Got Talent」などの長寿番組は、見ているだけで「世の中にこんな人がいて、こんな考え方があるんだ!」とワクワクする。

さらにはダンサーやモデル、シェフなどそれなりの技術を持つ人たちが、さまざまなテーマに技倆の限りを尽くして挑戦し、トップに立つまでを追う番組も見ごたえがある。リアリティ番組だから、美しい話ばかりではなく「人間の嫌らしさ」もある。でもそのすべてをひっくるめて、観ているだけで学びがある。人気番組の中には他の国でも版権を取得した上で自国版が作られているものもある。

でも、どれも日本とは無縁だ。朝も昼も夜も、著名人が与えられた「ネタ」に思いつきで素人コメントするというどれも似たようなワイドショーばかり。それに比べれば、リアリティ番組はずっとずっと夢も希望もあり、何よりも自分の知らない世界がどんなに広いかを知ることができる。

もしかしたら、人口1億数千万ではタレント(=才能)なんか限られている、とテレビ局はたかをくくっているのだろうか? 日本には「NHKのど自慢」がせいぜいだとでも? なんと夢のないことだろう。

少なくとも、若者世代では踊るのが大好きという人が増えている今の日本で、「So You Think You Can Dance」を観ることができれば、きっとあんなふうに踊ってみたい、とダンス魂に火がつく人がもっともっと現れるはずだろう。

かつて70年代から80年代にかけてタレント選抜番組「スター誕生」が大人気だった日本で、今なぜ視聴者の持つ情熱を刺激するような番組がなくなってしまったんだろうか。もちろん、ビジネス成功者の努力話も観る人を鼓舞してくれるけれども、もっともっと夢のある「体験談」があってもいいと思うのだが。

「リアリティ」な番組よりも「現実」を優先するムードはそのまんま、真面目一本槍の日本のイメージとだぶる。アニメで夢を見るのはいいけれど、もっともっと人間の持つ可能性を刺激してくれるような番組がないものだろうか。

一方で、今最も激情に燃えているのがいわずもがなの隣国、中国である。2000年代中頃に「超級女声」という、女性歌手の選抜番組が大ヒットし、女性であれば誰もが一般公募に参加できる「海選」(海の中から選ぶ)という言葉がもてはやされた。

「超級女声」ではさらに、視聴者が携帯電話で贔屓の出演者に投票するという形で参加できた。そうやって自分が応援する出演者が勝ち抜いていくのを見るのは、あるスポーツチームを応援するのに似ている。だが、それはつい最近まで自分と同じような「素人」だったという点が視聴者をもっと熱狂させた。

「超級女声」の成功はすぐにその男性版「超級男声」も生んだが、こちらはあっという間に放送中止に追い込まれた。その後も男性バージョンは手を変え品を変え現れたもののすぐに消えていった。その理由として、こうした番組に夢中になるのは主に女性視聴者だったため、女性の出演者に熱を上げるのはともかく、男性に熱狂するのは社会倫理上まずい、と当局が判断したと聞いている。わずか10年ほど前の話だ。

そうするうちに本家の「超級女声」も人気歌手を送り出した一方で、白熱する「海選」への警戒感や、また裏に出来レースがあったなどの噂も流れた結果、行政の勧告を受けて2006年を最後に制作が中止されている。

当局が恐れたのは、一般視聴者たちの「激情」が過剰に刺激されることだった。

●人々の情熱を刺激した「真人秀」

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