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【ぶんぶくちゃいな】ダブル11の惨状に見る、今後の中国人インバウンド動向

中国の一大カーニバルといえる「双十一 W11」(以下、「ダブル11」)が終わった。「1」が4つ並ぶ11月11日が「単身者の日」から「ショッピングカーニバルの日」になってから今年で14回目、とうとうこの熱狂的な大騒ぎは曲がり角を迎えたようだ。

14年前、中国最大のECサイト「淘宝 Taobao」(以下、「タオバオ」)が始めた、11月11日限定の安売りキャンペーンは、この日のために値引きされた商品を、消費者はどれだけお得に買うか、そしてショップ側はこの日1日でどれだけ売り上げたかを楽しむゲーム気分の日として愛されてきた。

ご存知ない方に簡単に説明すると、タオバオとは日本で言えば楽天市場のような、個別の商店、企業、ときには個人がショップを開き、それぞれに商品を販売することができる、いわゆる「C2C」サイトである。

楽天市場と違う点としては、楽天では買い物とともに、商品価格の100分の1をベースとしたポイントを獲得することができるのが魅力だが、タオバオはサービスを運営する親会社「阿里巴巴 Alibaba」(以下、「アリババ」)が開発した第3者ペイメント「支付宝 Alipay」(以下、「アリペイ」)を使って支払いをする。楽天もオリジナルの支払いサービスや自社発行のクレジットカードの利用を推奨しているが、それはあくまでも「推奨」であり、利用率においてタオバオとアリペイの関係の強固さは楽天を大きく超えている。

というのも、アリペイ自体がもともとクレジットカードどころか銀行のATMカードですらまだ十分に普及していなかった2000年代初めに、オンラインショッピングを推進するために開発された支払いサービスだからだ。つまり、アリペイあってのオンラインショッピングであり、中国のクレジットカードはアリペイよりもずっと後に普及した。今でも中国では、クレジットカードは持っていなくてもアリペイや、アリババのライバル会社「騰訊 Tencent」(以下、テンセント)が開発した支払いサービス「微信支付 WeChatPay」(以下、WeChatペイ)を使っている人も少なくない。特に2020年のコロナ感染拡大以降、移動に必須となった健康コードがこれらの支払いアプリの機能の一部として組み込まれて以来、ほぼ強制的に「全員利用が前提」のサービスにアップグレードした。この2つの支払いサービスの強大さは、クレジットカードも含めてまだキャッシュレス群雄割拠状態の日本とは比べ物にならない。

14年前に大成功を収めたタオバオの「ダブル11」ショッピングキャンペーンは、その後またたく間にライバルのテンセント系ECサイト「京東 JD.com」(以下、JDドットコム)やその他独立系ECサイトも追従するようになった。そして、それぞれに工夫を凝らしてキャンペーンを始め、次々と利用者が拡大した。常連消費者はこの日を前に気になるショップのサイトを眺め回して欲しい商品を物色してバーチャル買い物かごに詰め込んでおき、日付が変わったと同時に「購入」ボタンをクリックするのが「ならわし」となった。

特にアリペイやWeChatペイがPC中心のオンラインサービスから重点をスマホへと移し始めた2015年ごろから、その利用を加速させるためにさまざまな手段を使ってスマホアプリダウンロードへと誘導した。それと同時に各ECサイトはダブル11を日頃のショップページで展開するだけではなく、特設サイトを準備してそこで企業トップが勢揃いして電光掲示板を使って刻々と変化する売上を報告するという番組ショーまで配信するようになった。

そこで注目されたのは、11月12日に日付が変わった瞬間に示される「最終売上高」だけではなく、10日から11日入りしたその瞬間、数分後、30分後、1時間後などの小刻みな初動売上だった。前述したように事前に商品を集めて11日午前0時を過ぎるとともに「購入」ボタンを押す――そんな消費者の期待をまるごと数値にしたような瞬時の売上は、丸1日続くカーニバルの熱気に文字通りガソリンを吹き込む役割を果たした。

だが、今年のダブル11では、開始1分後どころか最終的にこの日丸1日でいくら売り上げたのかがまったく公開されなかった。アリババは「昨年とほぼ同じ」と語り、JDドットコムも「新記録を作った」と昨年より伸びていることを「匂わせ」ただけだったのだ。

●ダブル11神話の減速

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