(追記あり)感覚良好? ジャーナリズム精神なんかどこ吹く風の日本マスメディア

最初の報道はこちら。8月28日午前のフランスの通信社AFPによる配信記事でした。

8月10日早朝に香港メディアグループ「ネクストメディア」の設立者であり経営者のジミー・ライ氏と同グループの経営陣が逮捕、警察に連行され、その日午前には「ネクストメディア」本社社屋を200人の警察官が後ろ手にされたライ氏を伴って訪れて、家宅捜索を行ったという記事です。しかし、注目されたのはこの記述でした。

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ライ氏の逮捕と同じ日に、香港警察の捜査員3人が法廷が発行した正式な捜査令状を持って「日本経済新聞」の香港支局を訪れたと伝えています。令状が出ているわけですから、当然日経もその令状がなにを理由に発行されたかを知っているはずです。AFPが情報提供者から得た情報によると、昨年日経が掲載した、青年政党「香港衆志」(Demosisto、6月30日に解散)による香港のデモへの注目を呼びかける広告が理由とのこと。

当日すでに早朝にライ氏が逮捕されたことは大きく伝えられ、香港中が騒然となっていましたから、捜査員が差し出した令状からその捜査が香港国家安全維持法関連の容疑に関したものであることはジャーナリストならばピンとくるはずでした。そして、その日夜半には「香港衆志」の元メンバー、アグネス・チョウ(周庭)さんが逮捕されています。

ライ氏逮捕、「香港衆志」関連広告掲載に関するガサ入れ、チョウさん逮捕…とくれば、当然重要なニュース情報のはずでした。ですが、日経のこの日の逮捕劇の報道はこちら。

チョウさん逮捕直後にこの日の逮捕劇の一報を香港支局から出していますが、な・ん・と・一言も「香港衆志」広告に関して起きている事象には触れていません。捜査を受けた時点ではまだその関連性に気付いていなかったとしても、普通のジャーナリストなら周庭さん逮捕の一報でその意味に気づくはずです。その大事なネタを、日経は握りつぶしてしまった。そして、28日にAFPがすっぱ抜くまで、日経は口を閉ざして来たわけです。

AFPの報道以降、香港メディアは大騒ぎでこのことを報道しています。AFPと提携している時事通信も。

毎日新聞はもうちょっと詳しく。

でも、どちらにも書かれていない重大な問題があります。

それは、日経が自分たちの支局にネギ背負ってやってきたこのネタを即時に伝えれば、当然「昨年の広告が捜査の対象になっている」ということを世に知らしめる事ができたはずだったということ。この日夜半に逮捕されたチョウさんは、「なんの予兆もなくて、捜査員は突然やってきた」と言っています。日経が即時に起こったことをジャーナリスト意識を持って報道していれば、社会にもきちんと警告が行われたはずでした。

だいたい、香港国家安全維持法(以下、国家安全法)の施行以降、香港メディア、そして香港を見つめるメディアは政府と警察の一挙一動に細かく注意を払ってきています。前代未聞の出来事が続き、人々の緊張感が高まっている中、庶民がクラウドファンディングで世界主要国の主要メディアに掲載した「香港に注目と支援を!」の広告もその捜査対象になっているという事実は非常に重要な「ニュースネタ」でした。それを報道しなかった。

さらに深刻なのは、もしAFPが報道しなければ、この話を日経は握りつぶしていたことになります。毎日新聞の取材申込みに対しても「ノーコメント」です。これがジャーナリストの姿勢なのでしょうか?

…呆れてものも言えません。

マスメディアの皆さん、あなたがたはSNSに流れる、一般の庶民の「マスメディアは信じられない」「マスメディアがウソを言っているに違いない」といった声を頭から陰謀論だと決めつけているようですが、実際にこうした握りつぶしをあなた方の同業者が堂々としているわけです。こういう事実が実際に存在し、またそれを見せつけられ、さらには同業者であるあなた方がその非を問う姿勢を見せなければ、蚊帳の外に置かれた庶民はあなた方に疑念の目を向け続けるでしょう。

わたしは日経は、政権と日本の大企業御用達の通知板だとしか思っていませんけどね。ジャーナリズムって言葉の意味とか知らないんじゃないの?

【200903 追記】「悪い報道」のお手本みたいになってきた日経新聞

周庭さんが警察に出頭したことをきっかけに、日経新聞から続報出ました。

この記事、読みどころ満載。ニュース報道の反面教師的お手本になるような記事。さて、みなさんはいくつ「正解」を見つけられるでしょうか? 

筋悪なのは、周庭さんが日経広告の件に触れた件を最初に持ってきて「ばかげている」と代理発言してくれたことを最初に取り上げていること。タイトルは「周庭氏出頭」なのに、その出頭の具体的な話はたったの2行。後は全部、自分たちが捜索を受けたことを報道しなかったことへの釈明に変えています。

釈明としてもさらに筋悪なのは、次に《香港紙・明報などの報道によれば、香港警察は日本経済新聞社の香港現地法人を訪問したとされる件について》と、自分たちは知らぬ存ぜぬの姿勢を貫いて、「香港メディアはこう言ってるよん」と代弁させていること。敢えて付け加えるが、日経はこの記事以前の報道では自分たちが捜索を受けたことにはまったく触れていないし、AFP報道すら伝えていません。日経だけ読んでいる読者にとってはちんぷんかんぷんこの上ありません。

さらに、《「裁判所が出した資料提出命令を8月に執行した。捜索はしておらず(命令に)取材関係の資料は含まれていない」と回答》という、香港メディア報道にある香港警察のコメントをそのまま引用。「権力の監視役」のはずの日経新聞は、いつから警察に自分たちの立場を代弁するスポークスマンになってもらったのだろう?

また、続けて《日経広報室は「法的な理由でコメントを差し控える」としている》と、自分の広報室なのに、まるで第三者のような報道をしている。もし日経の広報が新聞とは別会社であればまだしも、自社の部署なのだ。こんな他人事みたいな報道して本当に大丈夫だと思ってるんでしょうか?

そして超ポイントなのが、この記事の署名が「香港支局」としか書かれていないこと。自分たちが家宅捜索を受けたことを一言も書かなかった、8月12日付の周庭さん逮捕報道にはしっかり記者名が入っている。明らかに今回の記事は「誰が書いたのか、敢えてわからないようにしている」記事になっています。

もうマジおかしすぎて腹の皮がよじれそう。それにしても、こんな捻じくれた記事は、中国メディアでもお目にかかれないほど貴重な、ジャーナリズムにおける見事な反面教師レベルの1本であることはここで改めて指摘しておきたい。


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