【ぶんぶくちゃいな】「利用」されるネット暴力――母はなぜ死を選んだか?

中国では、6月1日は国際NGO「国際民主婦人連盟」(WIDF)が制定した「こどもの日」に合わせて、この日小学校が一斉に休みになり、子どもにまつわるさまざまなイベントが企画される。

とはいえ、働いている親たちは休みを取らない限り仕事は休みにならないので、今やどれだけの家庭で子どもの日が祝われるのかはあまりわからない。それでも学校を含めて子どもたちを取り巻く環境はお祝いムードに包まれるので、人々の心には「6月1日 子どもの日」はきちんと刻まれている。

だが、今年はその翌日の2日に悲しいニュースが伝えられた。

湖北省武漢市で30歳になる母親が、マンション24階にある自宅から飛び降りて自殺したのである。彼女の小学1年生だった一人息子は、その10日ほど前の5月23日に通っていた小学校の校庭で教師が運転する車に轢かれ、亡くなったばかりだった。

その事故は、あと15分ほどで昼休みが終わるというタイミングで起きた。

その小学校では敷地の別の場所に駐車場を設けており、自動車の乗り入れ範囲を制限していたらしい。だが、その教師は女性教師二人を研修に連れて行くために、乗り入れ制限区域にある教学楼の前に車を寄せた。その際に、教師は1人の生徒がそこで遊んでいるのを目にしていたが、危険だからどこか他の場所で遊ぶようにと声をかけたという。

そして、同行の女性教師らが乗ってから車を発進させた際に、その生徒が車の前にうずくまっていたことに気づかず、そのままその生徒を巻き込んでしまった。生徒を5メートルほど引きずった後で車は停まったが、生徒は頭を後輪で轢かれ、ほぼ即死状態だった。

ネットには、連絡を受けて病院にかけつけた生徒の両親が我が子の死を伝えられ、悲痛な声を上げている動画がアップされていた。そして、怒った父親が件の教師に飛びかかろうとするところを母親が止めるところが映っていた。

本当に気の毒な事件である。中国では大人の不注意から子どもが犠牲になる事故がよく起こっていて、日本とは違って怒り心頭の家族が加害者に殴りかかるシーンは珍しいことではない。正直、傍観者にとっても身につまされるし、そんな場での怒りに任せた暴力はその程度にもよるが、ほぼ社会的にも肯定的に受け止められている。だが、加害者の教師を蹴り上げようとした夫を悲嘆にくれながらも後ろから止めた、生徒の母親、楊さんの姿を、メディアは「感情をコントロールでき、冷静な判断ができる女性」と評価している。

その楊さんは息子の死後、学校側からの謝罪がないことに抗議して、その正門前で横断幕を広げ、支持者とともに学校の正式な謝罪を求めて座り込みを始めた。また、あまりにも悲惨な事故に武漢市民が次々と正門前を訪れ、花を手向ける姿もニュース映像になっていた。

●行動を起こした家族と「ネット暴力」

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