和生吉音

和生吉音(わおきつね)です。 小説を書いています。 過去に書いたものを置いていきます…

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和生吉音(わおきつね)です。 小説を書いています。 過去に書いたものを置いていきます 第5回ブンゲイファイトクラブ本戦出場

最近の記事

テーマ「喜怒哀楽」でマイクロノベルなど

ブンゲイドンジャラ② 参加作品 お題:「喜怒哀楽」でマイクロノベル、俳句、短歌、短詩 《喜》 時は朝、 通勤路に歓びみちて、電柱雀もフライハイ。 染まった紅 洗えば薄桃、 憂きこと多きよのなかに あなたがくれた鮭の皮。 液晶画面が照らす顔列、 駅まで歩いて3000歩。 神社の御守り、みんなもげんき。 土産のアソート、会社で配る。 今日この善き日にダイブイン。 《怒》 殺すな 《哀》 近所のファミレスで働く猫とは時々言葉を交す間柄。安定した皿運びの蘊蓄から物理学に、

    • ハッピーセカンドライフプラン(古賀コン4/テーマ「記憶にございません」ルール:一時間で書く)

      ハッピーセカンドライフプラン                         和生吉音 「おふたりさぁぁん…そろそろお腹がすいたでしょ…あったかぁぁいトン汁とおにぎりが出来ましたよぉぉ…」 半地下になった倉庫室の、短い階段の上のドアが開いてか細い老女の声がする。室内にいる三人のうち、立っている二人が同時にそちらを見上げた。残りの一人は、雑然と物が積み置かれたコンクリート床の隅に身を縮めた格好で横たわっていて動かない。 「もうすぐ組長さんが戻ってらっしゃるでしょ…それまでに

      • ユニットで行く(KaguyaPlanet「気候危機SF」応募作品

         分かった分かった。分かったからそれ降ろし。うん、一応安全装置は外せてるみたいやけどそないな構えでは当たらへんて。もう、物騒やな。君そんなんどこで手に入れたん?しかもウチの今日の出航の事まで聞きつけてひとりでこんな湾岸倉庫裏まで来よるとはなぁ。極秘やってんけどなぁ。いやほんま相当な行動力やと思うよ、その歳で。ちょっと恐れ入ったわ。なんぼ?え、十九?明らかに嘘やん、サバ読みすぎやで君。うーんどうしようかなぁ。そんなんこっち向けて乗せてください言われても。脅しやん。良うないと思う

        • 曜日を守ってゴミ捨てを  (古賀コン応募作・一時間で書く・テーマ「完璧な日曜日」)

           『日曜日にゴミ出しをする人がいます。ルールを守ってください』 エレベーターホール横の掲示板に貼紙されても、相変わらずその何階何号室の不届者が出したか知れない不透明な白いビニール袋は、日曜日になるといつの間にか決まってマンションのゴミ集積場所に置かれているのだった。業を煮やした管理人は我々自治会役員を集めて審議に諮り、その結果みんなでゴミ袋を開けてみることに決まった。今週の袋は小さい。結び目を解いてみると、中に入っていたのは新品らしきLED電球が二つ。 「ちょうど二階と五階の

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        • ハッピーセカンドライフプラン(古賀コン4/テーマ「記憶にございません」ルール:一時間で書く)

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          聖夜に向かうアドベントカレンダー  12の窓

          聖夜に向かう アドベントカレンダー 12の窓 # 1 カプセルベッドの壁を隔てた個室から、誰かが羽を擦って奏でるジングルベルが聴こえてくる。それが止んで静寂が訪れ、しばらくすると微かな発射音が響いた。 どこかのカプセルが宙に向けて打ち出されたのだ。故郷でのクリスマスが来たのだろう。 目を瞑り、私は私の時を待つ。 # 2 飛び石を踏む毎に猫が出る。 一つ目、砂利を過ぎった。二つ目、生垣から覗いてひょいと飛びのく。三つ目、後方からこちらを越して走り去る。追って四つ、五つと踏

          聖夜に向かうアドベントカレンダー  12の窓

          歩み (BFC本戦出場作品)

           彼はテロリストだった。人類最後の生き残りでもある。大規模な感染症が蔓延し、大気が有害物質に満たされた世紀をただひとり生き延びられたのは彼に相応の準備があったからだ。致死性の高いウイルスのワクチンを先駆けて開発し、自らに打ったうえで空港に撒くより少し前から。或いは彼と連携したカルト部隊がエネルギー施設を世界各地で同時爆発させるよりもずっと以前のある時期から。密閉型シェルターにコールドスリープ用のカプセルを設置し、彼はこつこつと備えを始めていた。  そして地上で全てが終わり、か

          歩み (BFC本戦出場作品)

          たのしい儀式(某文学短編賞応募)

          たのしい儀式  砂色の日干し煉瓦でできた簡素な家屋と、砂埃に覆われて砂色になった貧相な木々と、砂を踏み固めただけの道。長旅の末にたどり着いたのは、まるで砂から勝手に生えて出来たような、地面と同じ色をした集落だった。入り口の両脇には石を積んだ低い垣が組まれていてその影になっている部分にだけなけなしの雑草が生えている。  何もかも伝説通りだ。石垣の手前にはバオバブに似たのっぺりと白い幹の高木が一本聳え立っており、砂漠に近い平面風景の中ではそれだけが遠くからでもよく見えていた。今

          たのしい儀式(某文学短編賞応募)

          氷砂糖の流れ星(コバルト ディストピア飯小説賞「もう一歩の作品」)

          氷砂糖の流れ星     シャトルから接続されたタラップを降りて、ぼくの足はついに再び地球の大地を踏んだ。同時に両腕を大きく広げる。何のためかって? もちろん、こちらに向かって駆け寄ってくる僕の可愛い妻を抱きとめるために決まってる。 「おかえりなさいマット!待ってた……ずっと待ってた!」 「僕だって」 柔らかい、サトミの感触。ああ、どんなにこれを待ちわびただろう。宇宙船の中のTV通話でたまに話せてはいたけれど、どれだけこうして直接君に触れたかったことか。サトミの首の辺りに顔

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