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電信柱は道祖神の夢を見る:0136



 青々とした一面の田んぼ、といえば夏の風物詩だろう。
 ただ、田舎暮らしの僕にはだいぶ飽き飽きした光景だ。

 地平線が見えるほどの広い空。
 ざわざわ波立つ緑の草むら。
 都会から帰省して見るくらいなら、郷愁に浸ることもできるだろうが、ここは田んぼしかない。車で畦道を延々と走ってると、どれくらい走ったか分からなくなる。目に刺激が欲しい。

 そんな暮らしをしているうちに、転々と侘びしく立っている電信柱の方に親しみを覚えるようになった。

 畦下の泥の中、うっすら傾いた電信柱を横切る。
 景観を損なうとか、写真では疎まれがちな存在だが、田舎ではどこか堂々とした様子だ。

 無骨な人工物の癖に、道と旅を見守る道祖神のような面持ちで僕を見ている。

 ふっと会釈して横切ると、電線がそよいで揺れた。


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