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テン年代のエロゲを振り返る(2017年編)

2017年は大ヒット作というものがあまりなく、2016年に至るまで続いてきた変化が続いていくという印象のある一年である。強いて言うなら売り方・流行り方の現代化が進んだ一年といえるかもしれない。例えばこの年には紙風船秋葉原が閉店(https://akiba-souken.com/article/29839/)したりしている。パッケージでのエロゲー販売の衰退を象徴する出来事といえるだろう。一方で、Steamに展開されるノベルゲームの数は増えている。動画等でのマーケティングも進んでいった。

萌えゲーアワード2017の大賞は『ノラと皇女と野良猫ハート2』である。前作はこの年にアニメ化もしている。特に全編ヤギを写した第六話「世界平和」は伝説のヤギ回として知られている。

前作のVita版もアニメとの抱き合わせではあるもののー万本のセールスを達成している。話題作りも含めてうまく行っていたゲームであるだろう。

この年は続編モノが強く前作サブヒロインのルートを加えたファンディスク『ワガママハイスペックOC』であったり、人気ヒロイン有坂真白を中心に据えた『蒼の彼方のフォーリズム EXTRA1』なども人気である。(他には『グリザイア・ファントムトリガー』『タユタマ2 -After Stories-』や『真・恋姫†夢想 -革命- 蒼天の覇王』など)

完全新作では『景の海のアペイリア』『金色ラブリッチェ』などが注目を集めた。
『金色ラブリッチェ』はSAGA PLANETSの作品。SAGA PLANETSは新島夕が手掛けた四季シリーズ以降は原画家の人気も相まって萌えゲーブランドとして認知されていたようにも思える。特に本作は、当初は「ヒロインが全員金髪である」ことを前面に押し出し、コメディっぽさのある作品であるかのような広報がなされていた。しかし、さかき傘の手がけるお嬢様学校において平民出身の主人公が奮闘するという王道的ストーリーを丁寧に描いた点、理亜ルートにおける泣きゲー感が高く評価された。ちなみにOPがいい。

『景の海のアペイリア』はエロゲーらしい下ネタも交えつつもVR・人工知能・タイムリープなどのSF設定を盛り込んだ作品。主人公が戦闘中にオナニーを始める勇気に関して語るスクリーンショットで有名。やや既視感や使い古された手口を感じさせるものの、どんでん返しで強い衝撃を与えるストーリーが高く評価されている。

その他もとびぬけた評価を受けた作品は少ないものの、人によってはかなり高く評価している作品、ウェルメイドな作品というのも多い一年であった。

その典型として挙げ挙げられるのはPurpleSoftwareの『アオイトリ』だろうか。『アマツツミ』で描かれた伝奇的世界観を引き継ぎついだキャッチーな設定と、いつも通りクオリティの高いグラフィックでユーザーの指示を獲得した。『二人だけのカーテンコール』が名曲なので聴いて欲しい。(ちなみにErogameScapeに乗っている範囲では山口たこ(『ReAliZe』と『二人だけのカーテンコール』の編曲をこの年は担当)がエロゲ関連の曲に携わり始めたのも2017年である。)

比較的若いブランドの活躍も目立つ。『もののあはれは彩の頃。』は後に『アメイジング・グレイス』で有名になった冬茜トムの出世作。Lump of Sugar の姉妹ブランドQUINCE SOFTの処女作でもある。ちなみに『アメイジング・グレイス』のきゃべつそふとの第一作『星恋*ティンクル』もこの年に出ている。近年シナリオゲーブランドとして評価を高めているウグイスカグラ『水葬銀貨のイストリア』なども割と好評。

(OPしか知らない)

Laplacianの『ニュートンと林檎の樹』も広報をかなり頑張っていた記憶がある。下の動画が微妙にミーム化していた覚えがある。

Recetteの癒し系冬ゲー『しゅがてん!-sugarfull tempering-』などもプレイした人は多いかもしれない。可愛らしい絵柄に加えて、さかき傘によって描かれる平坦ながらも読み手を飽きさせないシナリオも一定の評価を得ている。原画家の出している同人誌、白髪の少女に対してお姉ちゃんを自称しようとするが子供っぽい茶髪のヒロインなどの要素のせいでなんとなく『ご注文はうさぎですか?』を想起させてしまうことで有名(?)な気もする。

CRYSTALiAの『絆きらめく恋いろは』は「めくいろシリーズ」としてシリーズ化するなどの人気作。

SAMOYED SMILEによる『夜巡る、ボクらの迷子教室』の楽曲がBUMP OF CHICKENを彷彿とさせるということで注目を集めるといった事件もあった。実際に作曲者KITAKENさんはBUMP OF CHICKENの楽曲を研究するブログを書いており、この楽曲にもその知見が応用されているのだろう。ゲームの方も夜間定時制高校を舞台にしたやや社会派な部分もある一作として評価されている。

SukeraSparo『ことのはアムリラート』はエスペラントをベースにした異世界語を本格的に扱った百合ゲー。一週目では日本語が解放されず、結構まじめにエスペラントを学ばないと読めない本格的な語学学習ゲームであることが話題を呼んだ。

1999年発売のBALDR HEAD以来数多くの名作を生み出してきたBALDRシリーズ最終章の『BALDR BRINGER』の発売も2017年である。従来シリーズから大幅に操作性が変わったことで、好評とは言い難かったが、慣れればそれなりに遊べるゲーム性、シリーズ全体を総括する世界描写を評価する声も一定数あった。なお同梱の戯画LIVEの先行申し込みチケットのせいでゲームに興味がないが買った人も多い一作である。併せて12月にはBALDRシリーズを総括する『BALDR MASTER PIECE CHRONICLE』も発売。そもそもの値段が高いこともあるが、レアなエロゲーとして、ソフマップや駿河屋のショーケースに飾られていることも多い一作である。全作品のサウンドトラックに加え、『BALDR FORCE』などの古い作品が現代のOSでプレイできる形で収録されている歴史的なアーカイブである。もっとも最近はDMMでダウンロード版が販売しているので『BALDR FORCE』目当てで買うにはやや高い一作となっている。

個人的には『ぱらだいすお~しゃん』でave;new feat 佐倉紗織による久々のエロゲソングが聞けたことが嬉しかった覚えがある。

他には『petit bonheur』が好きなので紹介しておきたい。本年は音楽にはかなり恵まれた年であったと思う。

この年はエロゲ関連ライブが結構あったように思える。特にこの年には『まどソフトライブ』『tone work's ライブ』『sprite LIVE 2017」などの若手メーカーによるライブが多かった。老舗でも『櫻ノ詩』や『空気力学少女と少年の詩』などの名曲を持つケロQ&枕による「ケロQ&枕LIVE2017」、グリザイアシリーズで勢いを増したFrontWingによる『FrontWing Live』などのライブがあったりした。

ライブはそれなりに盛り上がっている一方で、CDは売れないのか、毎年発売していたエロゲソングコンピレーションアルバムGWAVEがこの年突如発売を辞めてしまった。例年ならば2017年の夏ごろに2016年の曲のコンピレーションアルバム第二弾「GWAVE 2016 2nd」が出ていたのだが、特にアナウンスもなく2022年に至るまで新盤は出ていない。

2016年11月にはSpotifyが日本でサービスを開始しており、CDの売れなさに拍車をかけていくこととなっていく。2017年以降もCDはどんどん売れなくなっていっているはずだが、再生数が命のサブスクではマイナージャンルのエロゲは儲からないこともあってか、あまりサブスクに積極的なメーカーは見かけない。(AQUAPLUS、Alicesoft、Frontwing、なんかは割と積極的かもしれない。Clear Rave系列についても多少は配信を行っている。)

ソーシャルゲーム

AUGUST、Keyという業界を支えてきた大手ブランドがソーシャルゲームをリリースしたことは良くも悪くも転換期にある業界を象徴していたように思える。

AUGUSTは2017年12月より『あいりすミスティリア!』のサービスを開始した。育成によって戦闘傾向が異なるAIが成長し、AIを用いて自動戦闘するという独特のシステムを採用していたが、これが不評だったためか、戦闘システムを全面改修すべく、サービス開始後3か月で長期メンテナンスに突入してしまった。長期メンテナンス後は普通のコマンド選択型RPGとなったが、とりあえずのところ好評のようで2022年現在もサービスを継続している。

Keyブランドを保持しているVisual Art'sもRewriteのソーシャルゲーム『Rewrite Ignis memoria』をリリースした。こちらはボードゲームを参考にした戦闘システムや、スタミナ管理の方法などに多少の工夫がみられ、一定の評価を得ていたように思えるが、そもそも『Rewrite』の人気自体の薄さからか9か月で早々にサービス終了してしまった。

分割

2017年においては大手ブランドが新作を出す際には、プレイ時間が30時間を超えるような超大作を出すことがある種の標準となっていたように思える。

fengの「セイイキ」シリーズはそのような意味では画期的な分割手法をとって一定の成功を収めていた。このような売り方に追随したのかは不明だが、ぱれっとの「9-nine-」シリーズは全四部作の分割作品となった。そして2017年には第一作の『9-nine- ここのつここのかここのいろ』が発売された。第一作はかなり序章感のある作品であり賛否両論があったように思えるが、人気声優を起用したこと、大人気原画家和泉つばすの作品であったこともあってプレイヤーは少なくなかった。そしてシナリオが徐々に盛り上がりを見せていったことからシリーズを追うごとに勢いを増し、2020年に発売された最終章は大いに盛り上がった。

2017年当時の秋葉原での大規模な広告展開は印象的。

OPも名曲。もっともキャッチコピーである「この世界は、キミを「 」した物語だった――。」はファンの大半がよく分からずに完結した。

他にもFrontWingはグリザイアシリーズの続編『グリザイア:ファントムトリガー』や『コロナブラッサム』などの作品をロープライス+分割で売っている。こちらはエロゲーのフルプライス価格(8000円程度)で勝負するのが厳しいSteam等での展開を意識していたようだ。

クラウドファンディング

クラウドファンディング自体もかなり一般化して、新しい売り方を求めるメーカー、資金が思うように確保できないメーカーが使うようになってきた。

あっぷりけが新作『Cross Concerto』をクラウドファンディングによって制作することを決めたことが話題を呼んだ。3900万円を集め無事に成功した。

http://uneedzone.jp/info.php?type=items&id=I0000043

Keyからは2010年に発売された『リトルバスターズ!』のスピンオフ『クドわふた―』の劇場アニメ化プロジェクトをが行われた。開始2日で目標額の3000万円を集め、最終的には7800万円を集めた。海外においても900万円ほどを集め、総額8000万円を超える支援を受けた。7800万円は、2017年時点では、CAMPFIRE内の史上最高額であった。2022年1月10日現在はアニメ・漫画部門で第3位、全体では23位。クラウドファンディングの中でも先駆け的存在といえるかもしれない。Key作品の中でさして人気のある作品とは言い難い本作ではあるが、リトバス・Keyブランドの強さを見せつけたといえよう。その後は監督の交代、新型コロナウイルスなどトラブル続きではあったものの2021年に無事に劇場公開された。

なお2015年にクラウドファンディングを行い一億円近くを集めた『Dies irae』のアニメについても2017年放映である。あまり評価は芳しくない。余談だが『Dies irae』はアニメ化に際してギロチンのプレゼントキャンペーンを行ったことが話題になった。現在は巣鴨のかき氷屋に設置されている。

一方でクドわふた―の公開は延期に延期を繰り返すこととなったし、『Dies irae』のアニメは失敗に近い結果となった。調達額の華々しさとは対照的にクラウドファンディングは信用の切り売りに近い部分がある側面もこの時点では浮き彫りになってきていたように思える。

VR

2016年はVR元年と呼ばれることもあり、VR機器の普及が進んだ。ビデオデッキの普及にアダルトビデオが大きな役割を果たしたとの話もあってか、この新しいメディアに活路を見出そうとするメーカーも多かったようだ。

あかべぇそふとつぅの『新妻LOVELY×CATION』が発売に合わせてキャラクターとの結婚式をやったことが微妙に話題を呼んだ。「Henatai Japan」系のニュースは一定の需要があるようで、海外メディアも一部報道している。
ただしゲーム本体はバグの多さで炎上してしまった。

他にも有名どころだと『カスタムメイド』シリーズのVR対応である『カスタムメイド3D2 バケーションパック VR』が2017年夏に投入されたりした。

業界もブームに注目していたためか例えば『電撃萌王VR』が発売されたりしている。

このようにエロゲ業界次の一手のようにも思われていたVRだが2022年現在VRゲームは結局あまり盛り上がっていないように見える。3Dゲームということもあって3Dゲームをもともと展開していたメーカー以外にノウハウがなく、参入は難しいのかもしれない。

海外資本

ソーシャルゲームで中国系資本の存在感が見えるようになってきたのもこの年の特徴だろうか。例えば『アズールレーン』や『崩壊3rd』の日本におけるサービスインは2017年である。

中国資本とは言えないかもしれないが、中国出身のイラストレーターさよりが代表を務めるギャルゲーブランドから、NEKO WORKs から有名エロマンガ家石恵氏を原画家に起用したゲームの発表がされていたりしている。翌年には最大月給100万円でグラフィッカーを募集していたことでも話題を呼んだ。
好条件を出せることの要因のひとつには『ネコぱら』の海外でのヒットが挙げられるであろう。10万本ヒットすれば超大ヒットと言われるエロゲ業界にありながら、『ネコぱら』は150万本以上売れているらしい。これはSteamで売り、翻訳版も出し、海外向けに展開したことが一つの大きな要因であるだろう。

因みにエロゲとはあまり関係ないが、アズールレーンを配信しているYostarの社長室にはWHITE ALBUM2のグッズが大量に並んでいたり、エロゲで日本語を覚えたことを公言していたり、アズールレーンのグッズセット『伝統と格式のアズレンセットVol.2』のパッケージがエロゲを模したものであることが話題を呼んだりもしている。

同人ゲーム

『親愛なる孤独と苦悩へ』は心理カウンセリングを題材にした一作。インターネット経由でカウンセリングを行う不思議なカウンセラーを巡った群像劇で、毒親、就職活動、創作活動などを舞台に心理カウンセリングの知識を踏まえつつ問題を乗り越えていく様が描かれる。

他には後年口コミで徐々に認知を広げていった、メタギャルゲー的な一作である『Doki Doki Literature Club!』も実はこの年の配信である。

動画マーケティング

ポケモン実況で知られる実況者ペリカンによる『恋愛強者による“ノラと皇女と野良猫ハート”実況プレイ part1』が公開され話題を呼んだ。この動画の公開時点では非公認だったようだが、10月にHARUKAZEから公式に依頼を受け『恋愛強者による"ノラと皇女と野良猫ハート2"実況プレイ』を公開した。ノベルゲームは実況動画がプレイ体験をほぼ代替しかねず、各社はかなり否定的なスタンスをとっていたように思えるので、大きな姿勢の変化のひとつにも思える。

2017年は「YouTuber」が流行語大賞にノミネートされるなど、YouTubeを使ったマーケティングがかなりマスに浸透してきた年であり、動画サイトによる広報効果を無視できなくなってきたという一例かもしれない。(尤もオタク業界ではニコニコ動画がより早い段階で広報ツールとして一般化していた感もある。)この年はキズナアイのチャンネル登録者数が100万人を突破、電脳少女シロが活動開始するなど、いまやオタク文化の一大勢力と化したVTuberの黎明期に当たる時期である。VTuber以降はオタク文化におけるYouTubeの重要性は一層増してきており、この年は一つの転換点であるだろう。

例えば権利的には怪しい「エロゲ切り抜き」をリコメンドされてエロゲを認知した若いプレイヤーは少なくないようだ。他にも先ほど挙げた『Doki Doki Literature Club!』は実況を中心に盛り上がって行った一作である。


その他

  • 地味にアニメの多かった一年かもしれない『Fate/stay night [Heaven's Feel]』の第一章が公開されたり、先述した『dies irae』『ノラと皇女と野良猫ハート』のアニメ化もあった。

  • この年には伝説のゲーム『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』がリメイクされたりしている。これを皮切りに『パルフェ』『同級生』などのリメイクが発生した気もしたが、『家族計画』やRanceシリーズも前々からリメイクをしているので気のせいかもしれない。

  • マブラヴオルタのコミックが完結したりした。20巻超の大作であり、原作では描かれなかった後日談も入った完成度の高いコミカライズ。

  • 『うまるちゃんR』が『オトメドメイン』のUIをパクる事件があったりした。

  • 『タンテイセブン』が未完成気味の発売で炎上していた。

  • HD版商法が増えていた時期でもある。『シンフォニック=レイン』『Dies irae ~Amantes amentes~ HD -Animation Anniversary-』

  • 『11eyes』などのゲームで有名なLassが倒産した。

  • コミケで先行販売した『Harmonia』が一般発売したことに合わせて、特典のみを販売する「ゲーム無し版」が発売したことが微妙に話題を集めた。

  • エロゲー雑誌『BugBug』が25周年。

ヘッダー画像はまいりん(@mai_rin_rin)さんに許可をいただき掲載させていただきました。

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