【めめも】夢から帰ったばかりの人にインタビューをする

夏になって眠りが浅くなると、みんなして夢の国とかいうしゃらくさい名前の国に通い始める。
かなりの回数通うくせに、感想をきいても毎回何も覚えていないことが多い。本当に行ってきたのだろうかとうたがってしまうほど、彼らは何も覚えていない。

時々覚えている人がいるが、帰国して空港で蕎麦か何かを一口食べた時点で、思い出はとっくに美化され整合性のとれたものになっている。
かといって、向こうに行っている間に話してもうわごとしかしゃべらないので打つ手がない。


苦肉の策として、帰ったばかりの、いわばまだ空港のゲートを出る直前の段階でインタビューをすることにした。

以下は録音した内容の書き起こしであり、ほとんど手は加えていないが、文中のカッコ書きは語られた内容ではなく補足説明であることにご留意いただきたい。
ところどころ解説を加えながら見ていきたいと思う。


高校の修学旅行みたいな感じの大人数で行くイベントで、自分のほか全員女子……。

冒頭からハーレム。

最後の、最後の日?大部屋にみんなで泊まったけど普通に寝られた……っていうのがあって、自分は、柔らかい、今のあの緑のカバーついた枕を自分で持ってってた。バスツアーだか何だかだと思うんだけど、それの間ずっと持ってた。
バスツアーで通る場所、自分たちの学校の近くとかも通るんだけど、それ小学校だか何学校だったかとかも覚えてないし、なんか高速みたいなとこかな、有料道路みたいなところ帰ってくるんだけど、あんまりどういう情景って覚えてない、わりと気分が良かったと思う。

「今のあの」が何を指しているかわからないが、枕を持ち込める修学旅行はめちゃくちゃ良いなと思う。
夜は良い枕の話で盛り上がりたいし、各々がカスタマイズした枕で戦略的な枕投げをしたい。

さっき「高校」の修学旅行と言っていたはずだが、高校の修学旅行だからと言って「自分たちの学校」が高校とは限らないようだ。
そういうものである。

で、有料道路みたいなところ通って帰ってくるっていうその、修学旅行的なパートがあって……。
途中でなんか、寄った施設でみんな横並びに座ってなにかするんだけど、
それは食事みたいな空気だったけど食事じゃなかった気がする。
自分は長机の左端だった。

あとから補足として聞いた話だが、長机は30人くらいが全員横並びで片側に座れるレベルの長机だったらしい。
対面がいないのは感染症対策なのだろうか。夢の国でも感染症が流行っているのだろうか。

団体旅行の道程に組み込まれた「特定施設での昼食」って、会議室みたいな長机に座らされたり全員同じメニューだったりで独特の「やっつけ感」があると思う。学校の給食っぽさがあるのであまり好きではない。

その時も自分は枕持ってたから、つれづれ……友達に柔らかさを、こう、アピールしたりとかして、「自分もその枕触ってみたい」と言われたいなあと思っていた。
その施設の座ってるとこの正面くらいに、赤っぽい色の、どの建物にもついてる設定の、その、あのー……裏側に、厨房じゃないんだけどうそういう裏側に行ける部屋があって、その部屋のことを考えながら友達が「使ってないけど用意してもらったお皿、片付けた方がいいかな」って言って、自分は「それは別にいいんじゃない」って言った。

「つれづれ」が寝起きの頭から出るとは思っていなかった。
つれづれなるままに、枕の柔らかさを(力こぶのかたさを自慢するかの如く)アピールする人間はとても不気味だ。

どの建物にもついてる設定の扉って何?

そのあと学校の中の、なんか、部屋の、よくわ……用途のわかんない部屋の片隅みたいなところで、
皿のこと訊いてきたその友達と一緒に話してたら、二人組の仲良し同士の女の子が寄ってきて、前に貸した、黒い硬い表紙のリングノートみたいなそこそこ自分が気に入ってるノートを返してきた。

その、ノートの中のレフィルは結構、特殊なやつで、なんか、漫画みたいなの描けるようになってた。
で、その子たちは、な(聞き取り不可能)……に、は、仲直りのために……仲直り?わかんない、思い出作りかも、のためにそれを貸してて、で、その子たちでは(その子たちは、の間違いか)最終ページまでそれをぎっしり書いてた。
それ書いてなんか、何かが良くなったみたいで、こう、感謝しながらそれを返してきた。
その中身を見ていいのかわからんかったけど、返してもらったし中身見たいなあって思ってた。

おそらくそのノートは実際に持っているノートの印象を反映したものだと思われる。
以前東京に遠征に行った折に太田美術館で買った、廃レコードを再利用したリングノートがあるそうだが、それではないかと思う。

そのあと友達と一緒に、最初に出てきた時お皿があると思ってた、その、ちょっと茶色っぽい赤茶色っぽい感じの扉、漢字三文字くらいで名前がついてたはずなんだけど、その扉の向こうに行ったら、体育館みたいなところがあった。

体育館って言っても舞台とかあったかどうかは全然覚えてない。
まあ、ああいうサイズ感の広さ、小学校の体育館ぐらいの広さだった。

扉というのは「食事っぽい空気だったが食事ではなかった何か」を行った建物にもあった、「どの建物にもついてる設定の扉」のことだろうか。
本当にどの建物にもついているのかもしれない。妙なところだけ整合性をとるな。

で、えーっとー、そこの中にネオンで、壁に、短辺の方の壁に……どうだろ、どのくらいの大きさかわかんないけど、せいぜい手のひら大くらいの数字が唐突に張り付けてあって、「56」だか「57」だか、書いてあって、ごーごーなんとか(「55?(最後一文字は思い出せなかったらしい)」)っていう数字もあって、その「5」の字が、二つともちょっと書き方が違ったりしてた。

で…………………う、なんだっけ?
(長い沈黙)

「表」みたいなのの最後の斜め棒が取れたやつ、の、下がふるとりの上のチョンがないやつになった、みたいな漢字があって、でもそれは実際知ってる漢字だった。
「家」……「家」っていう字にもちょっと印象が似てた気がする。

で、反対側の壁にはすごい綺麗にネオンみたいなちょっと青っぽいフラスコとかが並んでるところがあって、試験管みたいなのが並んでる印象があって、でフラスコの中にネオンで……ええっと……「57」?「27」?「07」だったかな、あれ、わかんない、数字が……、「07」だったかな?
数字が入ってて、それを写真に撮った。

一番説明が難しいシーンらしく、沈黙がかなり増えた。
「なんだっけ?」の後の沈黙に関してはほとんど眠りかけている。

夢で見た文字というのは正確に思い出せないことが多いものだ。写真に撮っておけばわかりやすいのだが、あそこ大体撮影禁止なんですよね。
それにしたって見たことのない漢字だな。

ちなみにネオンの数字ってのは、ネオンと思ったからネオンって言ったけど、どっちかというと白熱蛍光灯みたいな暖かめの色で、体育館の壁も茶色だったから、そのあたりはもやっとした感じだった。

青いいろんなものが並んでるきれいな壁の方以外は、全体的にオレンジの間接照明の色っぽい感じの色……っていう雰囲気の色だった。
友達がその壁際の壁一面のキレイないろんな類を写真に撮るのを、カメラ傾けておしゃれ目に写真を撮った。

人いないと思ってたんだけど、途中で男の人、なんかわかんない、先生みたいな怖い感じの人の赤い人が後ろから来て、やばいと思ったけど別に怒られなかった。

「ちなみに」なんて言葉を使い始めたらそろそろ正気に戻り始めている証拠だ。整合性がむりやりつくられ始めてしまう。
ただ「オレンジの間接照明の色っぽい感じの色……っていう雰囲気の色」という一文に3回「色」が出てくるあたり、ほどよく朦朧としていてまだこのあたりは期待が持てる。

赤い人、怖い「感じ」どころじゃない。怖い。

この夢の不思議なところは、なんかその、写真撮ってるときにスマホみたいなので撮ってるんだけど、スマホはちょっと複雑なだけのクリアケースみたいなもので、中に何らかの目的で水の袋みたいなの入れてて、写真撮るときは本体から透けて見える部分がそのまま画角なわけね。
画角の中の半透明のシャッターボタン押すと、焦点合わせたはずのところの水が濁っちゃって撮れなくなったりとかして、で、一回水袋抜いて撮るかと思ってその薄い水袋みたいなのを抜いて撮ったらなんとかカシャッて撮れた。
そのシャッターの「もったり」感に対して凄い違和感を覚えて、夢の中って大体写真がすごい撮りづらいから、これもしかして夢なんじゃないかなとは思ったんだけど、「覚えておきたいしこの写真ほしいから夢だったら嫌だな」と思った。

いらなすぎる水のパウチ。

夢の中は撮影禁止のまじないでもかかってんのかというくらい、いつも写真が撮れない。
ただ数か月前まではデジカメのシャッターボタンが「もったり」していて押せないというものだったのが、スマホのカメラになっているのが時代の流れを感じる。
10年遅れだけど。


夢だった時のために、覚えていられるようにゆっくり起きようと思って、目をつぶったままその記憶を反芻しながら、じわじわと、こう、起きて行った。
で、「あ、そうだ、今自分は学生でもなんでもなくて、この向きで●●●の●●●市(個人情報のため伏字)の家にこうやって寝てんだな」っていうのを思い出したから多分その時に目が覚めたんだけど、目開けなかったおかげである程度保持したまま、えーっと、起きることができました。

ちょうど九時半に起きました。

(25歳 会社員 K.T)

起きる時間といい、ずいぶん器用な事をするな。

最後丁寧語になったあたり、「今帰りました」感が出ていて素晴らしい締めだと思う。


以上、『祝日休みはウキウキウォッチング!Youは何しに現実へ?~お盆休み返上予定嘆きの会社員スペシャル~』でした。

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