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作家ホイットリー・ストリーバーについて(1)

以下の文章は以前に投稿した記事を手直しして再掲したものです。

1987年1月にニューヨークで出版され、その年だけで300万部を売り上げるベストセラーとなった「コミュニオン」(邦訳『コミュニオン―異星人遭遇全記録』扶桑社、1994年)は、まさに衝撃作と呼ぶに相応しい作品であった。

その衝撃の理由は、第一に、内容がエイリアン(作中では「ビジター」と呼ばれる)と遭遇した体験をノンフィクション(実話)と銘打って公表したものであったこと、第二に、著者のホイットリー・ストリーバー(Strieber, Whitley)は既に十作に及ぶ長編小説を書き、そのいずれもがベストテン入りするような押しも押されもせぬ人気作家であったことである(処女作「ウルフェン」、第二作「ハンガー」はいずれも一流キャストで映画化)。

彼はこの作品がフィクションではなくあくまでも自分の実体験であることを強調し、具体的な日付や接触の状況を詳細に記述し、さらに精神異常による幻覚ではないことの医師による証明書と嘘発見器(ポリグラフ鑑定)の結果まで付属資料として作品に掲載する念の入れようを示した。

彼はその後も「トランスフォーメーション」(邦題「宇宙からの啓示」扶桑社、1995年)「ブレイクスルー」(邦題「遭遇を超えて」翔泳社、1996年)というノンフィクションを続編として出版、その後もさまざまな作品を書き続け、未だに影響力のある作家として活躍を続けている。

2023年8月に、あのユリ・ゲラーが「友人のホイットリー・ストリーバーから提供を受けたもの」として、メキシコで撮影されたというエイリアン(グレイ)の写真をSNSに投稿したのも記憶に新しいところである。

ストリーバーが接触した、彼が「ビジター」と呼ぶ存在がいわゆる「グレイ」の特徴と一致することは明らかである。

この「コミュニオン」の表紙の絵を描いたTed Seth Jacobsはこう語っている。

「この作品は、ニューヨーク市イースト 83 番街にある私の小さなアパートで描かれました。ホイットリーは、エイリアンの絵を描くために最初に私と一緒に座りました。私がスケッチしている間、彼は、見たものとより一致するように肖像画を修正しました。それは、警察のスケッチアーティストが使用したプロセスだったと思います。彼の指示に従って、あらゆる細部が修正されました。ある時点で、彼は、その画像は自分が見たものと正確に一致していると言いました。その後のセッションではホイットリーと一緒に、 私は準備された木製のパネルにイメージを描き始め、図面と同じプロセスを経て、最終的にホイットリーが正確なイメージであると言いました。」

https://en.wikipedia.org/wiki/Communion_(book)

ストリーバー自身はこの絵について、「コミュニオン」の中で

実物よりもやや人間くさくなっている。とりわけ、口は複雑ではあるもののただの裂け目以外の何ものでもなかった。唇は全然なかった。しかも頭蓋骨は、カバーの肖像画が感じするよりも、ずっと大きかった。顎は頑丈でとても尖っていたので、皮膚が板金みたいな骨格の上に貼り付いているような、漠然とした印象があった。この顔で断然目を引く特徴は、目だ。われわれ人間の目とはくらべものにならないほど大きかった。・・・

「コミュニオン」日本語文庫版240頁

と述べている。

ストリーバーの作品中の描写を読むと、明らかに人間とは異なる外観をもつ存在であることが強調されている。

そのいくつかを挙げると;

暗い両の目の穴と、丸い口の穴が見えた。仮面(マスク)を被っているような印象を受けた。

「コミュニオン」文庫版29頁

これまでに見かけたところでは、かれらは四通りのタイプに分かれていた。まず、寝室に押し入って来たロボットみたいな小柄なやつ。つづいて、ダークブルーのつなぎ服を着た、チビでずんぐりむっくりの大勢の連中。こいつらは顔がデカくて、照明の下ではダークグレーかダークブルーの肌色に見え、ギラギラ光る金壺眼(かなつぼまなこ)に獅子っ鼻、それに、どことなく人間じみた大きな口がついていた。人間とはとうてい思えないもう二種類の生き物には、連れ込まれた部屋で初めて出会った。そのうち特に興味がそそられたのは、身長1.5メートル前後の、とてもほっそり、なよなよした体つきで、高く飛び出した、引きずり込まれそうになるほど真っ黒な吊り目のやつだ。口と鼻は痕跡程度しかなかった。手術室内に縮こまるように座った連中は、もうちょっと小柄で、頭は同じような感じだったが、黒い目の方は大きなボタンみたいに真ん丸だった。

「コミュニオン」文庫版36頁

精密に吟味してみると、身体の表面は滑らかだが、皮膚の下には脂肪層はないようで、皮膚は骨にぴったりと貼り付いていた。膝と肘の関節の構造は、バッタやコオロギの膝関節を連想させた。手はひじょうに長く、動いていないときは先細りで、三本の指と向かい合わせになった親指がついていた。何かに押し付けると手が平べったくなるので、われわれの手よりも柔軟性があることを示していた。指には、人間の爪というよ鉤爪に似た短く黒い爪があった。
全体的には高度に発達した肉体とは思われず、むしろかなり単純な身体のように思えた。全体的に複雑な感じがないのは、骨も少なく、肉も余りついていないことを暗示していた。

「コミュニオン」文庫版242頁

この「とてもほっそり、なよなよした体つき」の生き物が、表紙になった「彼女」である。ストリーバーは直感的に女性だと認識したという。

「円形の小部屋」に連れ込まれたストリーバーは、恐怖のあまり気も狂わんばかりになって「ここは不潔極まる場所だ」とか「きみたちは高潔な魂を踏みにじるつもりか」などと叫び続けたという。

するとこの「女性」がこう言ったのでびっくりした。
「どうしたら叫ぶのをやめてくれますか?」
これはテレパシーで感じたというより、まぎれもなく聴覚として耳に聞こえた。かすかに電子的なトーンが感じられたが、アクセントは平板で、驚くほど中西部風の発音だった。

ストリーバーは、自分でも思いがけずこう口走った。
「君の匂いが嗅ぎたい」
すると彼女は(「いいわよ」と言ったように感じた)、ストリーバーの頭を抱え込んだ。
それはちょっぴり、ボール紙みたいな匂いをおびていた。
かすかではあるがはっきりと、有機物の臭いがして、まぎれもなく生き物の匂いだった。ほんのりとシナモンのような香りも混じっていた。

ストリーバーはその匂いを嗅いだことで少し気分を落ち着かせることができた。

手術台の上に乗せられて手術されそうになり、彼女から手術は安全だと元気づけられたが、「あんたたちにそんな権利はないぞ」と反抗した。
すると彼女は
「私たちには権利があるのです (We Do Have a Right)」
と言った。

この出来事があったのは1985年12月26日だった。

この衝撃的な体験の後、自分が精神を病んでいるのではないかと考えたストリーバーは、医師の元に通って催眠療法(記憶退行)を行った。

その結果、同じ年の10月4日にも接触体験があったことが明らかになったという。

* * *

「コミュニオン」の出版直後に「これはフィクションではないか」という議論が巻き起こったのは当然である。

しかし、彼の体験はその後ジョン・マックなどによって詳細に分析され報告されることになった「アブダクション・ストーリー」の典型ともいえるものであること(事実ジョン・マックの本にはストリーバーの言葉が数多く引用されている)から、今ではUFO研究者の間で一種の古典として評価の対象になっている。

だが、彼がいわゆる一般人ではなく商業作家であること、しかもSFホラーというジャンルの人気作家であることから、その作品がノンフィクションかどうか、仮にノンフィクションであるとしても、その記憶が劇的に脚色され、いわば「エンタメ化」されているのではないかという疑問も抱かせる。

一方で彼が異常な体験により激しく混乱し、医師に助けを求めたことも事実である。ストリーバーは自らの体験の意味を解釈することを重大なライフ・ワークとし続けて今に至っている。

彼は昨年のSOL財団のシンポジウムにも参加し、その内容を高く評価する一方で、実際の接触遭遇体験者の登壇がなかったことへの不満を表面している。

以下、私自身がストリーバーの初期の「接触遭遇」作品を読んでの個人的な感想を述べてみたい。

つづく

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