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【GITEX GLOBAL 2022】世界の「頭脳ハブ」UAEでのイベント参加。中東の地政学と光通信のマッチングとは?

“Get bold. RISE UP TO THE PHENOMENON”
 「大胆になれ。お前が立ち上がるその場所こそが台風の目だ。」とでも訳すべき痺れるキャッチフレーズとともに、中東を中心とした世界最大かつ最も包括的なテック&スタートアップイベントGITEX GLOBAL 2022が10月16-20日、UAEの首都ドバイで開催されました。GITEX GLOBALは、イノベーションによってビジネス、経済、社会、文化を発展させることを目的としており、宇宙開発に限らない、人類の生活に革命を起こしうる最新鋭のテクノロジーの見本市になります。
 UAEを形成する7つの首長国がそれぞれブースを出展しており、最先端のテクノロジーが行政、政治にどのように活かせるかが議論される一方で、事業者間でコラボレーションが出来ないかといった商談や、投資家とスタートアップのマッチングなども活発に行われており、幅広いバックグラウンドを持つステークホルダーが縦横無尽に行き交う、まさに技術の祭典とも言うべきイベントです。参加者は10万人を超えるほどの規模であり、ドバイの中心では交通機関がマヒするほどであったといいます。
 GITEX GLOBAL 2022では独立行政法人 日本貿易振興機構(JETRO)がJAPANブースを設置し国内のスタートアップを振興しており、ワープスペースからはCMOの高橋が現地にて参加しました。

GITEX GLOBAL 2022ホームページより。5000人以上のブース展示者と1400人以上のスピーカー、1000を超えるスタートアップ企業が参集しました。全体では180を超える国々から10万人を超える人々が参加しました。

UAEでの出資・協業に向けた布石

 高橋がUAEへ訪れた目的として、まず一つには海外の投資環境を把握するというものがあります。これまでワープスペースは日本国内で資金調達を行ってきましたが、海外からの投資も検討していく段階にあり、GITEXにて中東をはじめとした海外の投資家とコンタクトを取る必要がありました。
 またもう一つの目的として、UAEが進める各種の宇宙開発プロジェクトと今後コラボレーションができないか、ドバイ郊外のモハメド・ビン・ラシード宇宙センター(MBRSC)のオフィスへ話に赴くというものがあります。UAEの宇宙機関であるMBRSCは、11月後半に民間初の月探査計画「HAKUTO-R」とともに打ち上げられる予定の月探査ローバー「Rashid 1」や、2020年にH2-Bロケットにより打ち上がった火星探査機HOPEの開発も行っており、一方で2024年には合成開口レーダー(SAR)搭載衛星のコンステレーションによる地球観測システムの構築を計画している非常に勢いのある組織です。
 さらにUAEという国自体を見ても、スペースデブリや宇宙資源の扱いを定めた宇宙法を制定したりと、国際的に見ても新しい取り組みに積極的な姿勢を見せています。こうした背景を踏まえて、法律・技術の両面で国際宇宙探査の分野でまばゆい存在感を放っているUAEの宇宙開発プロジェクトに対し、現在熱視線を浴びている革新的な宇宙インフラである光通信を提案するというのが高橋のUAEでのミッションになります。
 高橋の提案に対するMBRSC関係者の反応は、「想定以上に良かった。」と高橋は答えます。MBRSCもこれまで光通信を利用する検討は行っていたようで、ワープスペースの光通信のネットワークに対しては大きな興味を示していました。また高橋はUAEの経済大臣、AI大臣との懇親会に参加しましたが、その場でのAI大臣による、
「今後も国際的な宇宙プロジェクトに関わっていく中で、UAEの宇宙機関の発足は2006年であり世界有数の機関と比べるとまだまだ新しく、自分達が若くて経験が浅い分、先進的な技術は他国から学ばせてもらいたい。」
という言葉が印象的であったと述べます。複雑な国際情勢の中でUAEがうまく経済をピボットし、存在感を日に日に増している理由の一端が垣間見える発言です。

UAEの経済大臣/AI大臣との懇親会の様子。高橋(右)は光通信が人工衛星ビジネスにどのような未来を提供するか語ります。

UAEの国づくり戦略とは

 そもそも、UAEの国づくりの戦略はどのようなものなのでしょうか。UAEの国土は比較的小さく、東はイラン、西はサウジアラビアという大国に抱きかかえられるように挟まれています。そうした地理的環境で自国を守るためには、やはりお金が必須。UAEでは幸いにも石油が豊富に産出され、石油などが輸送されるシーレーンの重要な立地にあることを有効活用した貿易によって巨万の富を集めることに成功しました。
 しかし、「石油はいずれ枯渇する」と考えたドバイ首長は、20年ほど前から、早くも新たな経済システムへの転換を試みています。アジアの小国でありながら巨万の富を集めることに成功したシンガポールのように、貿易で得た資金を運用する金融ハブのスタイルへの転換、そして更には、そうして集めた資金をもとに最先端の技術、施設、機関を集め、UAEを「頭脳ハブ」化していく構想です。そうして集めた技術をネットワーク化して、そこでまた新たなイノベーションをUAEから生み出します。そしてそれをまた海外に売り込んでいく。GITEX GLOBALという技術の祭典は、まさにこうした連鎖が起こる爆心地なのです。
 以下のグラフに示されたUAEの国家予算を見てみると、科学技術振興(教育)に潤沢な予算が当てられている反面、国防にはあまり予算を割いていないように見えます。これについて高橋は、
「頭脳、技術シードさえあれば、表立って安全保障に取り組まずとも、ヨーロッパ、アメリカ、中国など、どこが相手でも交渉ができるはず。現にGITEXは世界各国の安全保障関係者も出入りしており、UAEは技術商人のようだ。」
「聞くところによると、UAEという国自体が、昔はソ連などの大国に振り回された歴史があるため、表向きは仲良くしつつ、肝となる部分では自分達がコアとなる技術を所有することで手綱を握りたいのではないか。」
と分析します。GITEX GLOBALの現地では、こうしたUAEの国づくり戦略がありありと見えてくるようです。

The UAE Federal Budget 2022を参照すると、UAEの年間予算のうち3割強が社会開発(Social development)に当てられており、そのうちの半分以上が教育に割り当てられています。

中東の地政学的な要求と光通信のマッチング

 一方でGITEX GLOBAL2022でのワープスペースのブース展示で話した方々は、投資家に加え、各国行政機関の関係者や通信系の企業の関係者など、一部宇宙系の技術に関わる方はいたものの宇宙の技術に関して分からない人が多かったと高橋は語ります。そのため会場では光通信そのものに加え、それ以前の地球観測データとは、その利用方法とは、といった基礎的な事象から話すこととなりました。地球観測データに関しては、その利用によって砂漠地帯の国境警備を効率的に行える可能性や、水を吸収できる土壌がない砂漠での水害対策など、中東諸国ならではの様々な応用の可能性が議論されました。
 一方で、光通信に関して高橋は、
「特に安全保障や災害救助などに役立つデータの質と量をグレードアップすることができる技術、商品、アプリケーションとしての価値に興味を持ってもらえた。」
と述べ、手応えを隠しません。
 それに加えて、光通信技術のドローンへの転用や、空を飛ぶ車に光通信端末を搭載する可能性などといった先進的な技術とのコラボレーションの提案もあり、まさに先述のGITEX GLOBALの狙い通りの技術革新の連鎖を感じさせます。

GITEX GLOBAL 2022にて高橋が参加したパネルの様子。日本の宇宙スタートアップが中東に対してどのように貢献できるか、中東に期待することとは、について話しました。

 また高橋は、UAEでのサイバーセキュリティに対する関心の高さが非常に印象的だったと語ります。これには、地政学的な理由も大きく関連していると高橋は考察します。日本ではまだまだ身近な脅威として広く認識されていないように感じられますが、現代ではウクライナ情勢に加え、大国により一般人に影響が及ぶレベルでも世界各地でサイバー攻撃が起きています。
 それに加え先述のように複雑な情勢の中にある中東では、各国が、自国の経済の情報等の国家機密が漏洩してしまうリスクを非常に警戒しています。そこで、電波による通信にはないセキュリティの高さを持つ光通信は、彼らにとっても非常に魅力的に映るようです。そのためGITEX GLOBAL 2022では、ワープスペースの今後の展開としては、やはりセキュリティの高さを売り出すことが重要となる、と改めて認識することが出来ました。

UAEという台風の目

 UAEの人口の2割は首長国の出身者であり、残りの8割は外国からの出稼ぎ労働者が占めます。このように多くの移民を受け入れているがゆえか、UAEでは、レバノン料理やペルシャ料理、インド料理がご馳走とされているようです。特にレバノンはフランスが旧宗主国であり、そこに中東のスパイスやハーブが加えられた、かつてのヘレニズム文化を思わせる独特な由来を持つ料理です。こうした料理一つにも、この国の歴史をなぞるような曰くがあり、世界から技術を集めて新たな技術を生み出すGITEX GLOBALの中心がここUAEであることにも不思議と納得させられます。
 高橋が今回意見交換を行ったUAEの経済大臣/AI大臣はいずれも30代。このような土地に立ち上がりつつある若き台風の目に楔を打ち込めたことは、今後のワープスペースの海外展開の大きな礎になるはずです。

(執筆:中澤淳一郎)

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