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2023年3月21日の尹錫悦大統領の対日発言部分

これは、第12回国務会議の冒頭発言である
3月16日に訪日し、岸田首相と会談したことが伝えられたが、その直後、韓国国会で次のように日本との関係について言及している。発言の7〜8割が日本との関係を改善することの重要性を訴えたもので、韓国大統領としてはかなり踏み込んだものになっている。すでにニュースでも一部が伝えられたものではあるが、私は全体をみて「ここまで言っていたのか!」と驚きを感じたため、対日言及部分を全訳した。

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「もしわれわれが現在と過去を競争させたなら、必ず未来を逃すことになるだろう」

自由に対する強い熱望と不屈のリーダーシップで第2次大戦を勝利に導いた英国首相ウィンストン・チャーチルの言葉です。

過去は直視して記憶しなければなりません。
しかし過去に足首をつかまれてはいけません。

これまでの韓日関係は悪化一路を歩んできました。

両国政府間の対話が断絶し、韓日関係は破局の一歩直前で放置されました。

2011年12月の最後の韓日頂上(首脳)会談が開かれた後、2015年の慰安婦合意によって日本政府が2016年に出捐した「和解・治癒財団」もわずか2年で解体されました。

2018年の大法院の強制徴用事件の判決は、2019年の日本の半導体素材の輸出規制、ホワイトリスト韓国排除など経済報復につながり、われわれも日本をWTO(世界貿易機関=原注)に提訴し、われわれのホワイトリストから日本を排除するなど歴史の葛藤が経済の葛藤へと拡散しました。

また、われわれは日本と2016年にGSOMIAを締結しましたが2019年8月、GSOMIAの終了を発表し、3か月後に再びこれを保留するなど韓日安保協力にまで異常をきたしました。

私は昨年5月の大統領就任後、存在まで不透明になってしまった韓日関係の正常化法案について悩んできました。まるで出口のない迷路の中に閉じ込められた気分でした。

しかし手をこまねいてただ見守っているだけではいられませんでした。

日増しに熾烈になる米中戦略競争、グローバル供給網(サプライチェーン)の危機、北核威嚇の高度化など、われわれを巡る複合危機の中で韓日協力の必要性は一層大きくなったからです。

韓日両国は歴史的にも文化的にも最も親しく交流してきた宿命の隣人関係です。

ドイツとフランスも2回の世界大戦を通じて数多くの人命を犠牲にし、敵として対抗しましたが戦後に電撃的に和解し、いまや欧州で最も親しく協力する隣人となりました。

韓日関係もいまや過去を越えなければなりません。

友人関係において隔たりが生じても関係を断絶せず、何度も会って疎通し話をすれば、誤解が解けて関係が復元されるように、韓日関係も同様です。

時には意見の違いが生じても、韓日両国はしばしば会って疎通しつつ問題を解決し、協力方案を見出していなければなりません。

韓日関係は一方がより多く得れば、他の一方がそれだけ失う、ゼロサムの関係ではありません。韓日関係は共に努力して共にさらに多く得るウィン・ウィン関係になり得ますし、また必ずそうならなければなりません。

しかし前任政府は泥沼に陥った韓日関係をそのまま放置しました。
その余波で両国国民と在日朝鮮人同胞らが被害を受け、両国の経済と安保は深い反目に陥ってしまいました。

私もまた目の前の政治的利益のための楽な道を選択し、歴代最悪の韓日関係を放置する大統領になることもできました。

しかし昨今の厳重な国際情勢に背を向け、私まで敵対的民族主義と反日感情を刺激して国内の政治に活用しようとしたならば、大統領としての責任を放棄することだと考えました。

今回の訪日についてまず、韓日両国の経済界が積極的に歓迎し、この間に委縮した両国の経済交流が再開されるものとの期待感を持ち始めました。

私が今回日本に行って出会った在日同胞らも、これまでの韓日関係の行き詰まりによって経験した困難と苦痛を一気に払いのけるという期待感で同胞社会がお祭りの雰囲気だと言いました。

私はわが政府がいま正しい方向へと進んでいると確信します。

両国間の不幸な過去の痛みを乗り越え、日本と新たな志向点を導出しようとした努力は今回が初めてではありません。

1965年、朴正煕大統領は韓日間共同の利益と共同の安全、そして共同の繁栄を模索する新たな時代に入ったとし、韓日国交正常化を推進しました。

当時、屈辱的で売国的な外交だと激烈な反対世論が沸き立ちましたが、朴大統領は被害意識と劣等感にとらわれ、日本であれば無条件で恐れることのほうがまさに屈辱的姿勢だと指摘しました。

そして韓日国交正常化がどのような結果へと帰結するかはわれわれの姿勢と覚悟にかかっているとし、ついに韓日国交正常化という課題を完遂しました。

朴大統領の決断のおかげでサムソン、現代、LG、ポスコのような企業が世界的な競争力を備えた企業として成長することができ、これは韓国経済のまばゆい発展を可能にする原動力になりました。

その後、浮き沈みを繰り返していた韓日関係の新たな地平を開いたのは1998年の金大中大統領でした。金大統領は小渕日本総理と頂上会談を通じて「21世紀の新たな韓日パートナーシップ」を宣言しました。

金大中大統領は日本訪問演説で、歴史的に韓国と日本の関係が不幸だったのは日本が韓国を侵略した7年間と植民支配35年間だった、とし、50年にもならない不幸な歴史のせいで1500年にわたる交流と協力の歴史を無意味にすることは実に愚かなことだと話しました。

合わせて、金大中大統領は1965年の韓日国交正常化以後、飛躍的に拡大した両国の交流と協力を通じて必要不可欠な同伴者関係に発展した韓日関係を、未来志向的な関係にするべき時だ、とし、両国頂上(首脳)の宣言が韓日政府間の過去史認識問題にかたをつけ、平和と繁栄に向かう共同の未来を開拓するための礎石になるだろう、と述べました。

1965年の韓日基本条約と韓日請求権協定は、韓国政府が国民の個人請求権を一括代理して日本の支援金を受領する、となっています。

このような基調の下、歴代政府は強制徴用被害者の方々の痛みを治癒し、適切な補償がなされるよう努力してきました。

1974年に特別法を制定して、83519件に対して日本から受けた請求権資金3億ドルの9.7%に該当する92億ウォンを、2007年に再び特別法を制定して78000人余りに対して約6500億ウォンをそれぞれ政府が財政によって補償しました。

われわれの政府は1965年の国交正常化当時の合意と2018年大法院の判決を同時に充足する折衷案として第3次弁済案を推進していくことになります。

政府は強制徴用被害者の方々と遺族の痛みが治癒されるよう最善を尽くします。

われわれの社会には排他的民族主義と反日を叫びながら政治的利益を得ようとする勢力が厳然と存在します。

日本はすでに数十回にわたってわれわれに過去史問題について反省と謝罪を表してきました。

そのうち最も代表的なものが、日本が韓国植民支配を別途特定して痛切な反省と心からの謝罪表明をした1998年の「金大中・小渕宣言」と2010年の「管直人談話」です。

今回の韓日会談で日本政府は「金大中・小渕宣言」をはじめ、歴史認識に関する歴代政府の立場を全体的に継承するという立場を明らかにしました。

中国の周恩来総理は1972年、日本と発表した国交正常化北京共同声明で中日両国人民の友好のため、日本に対する戦争賠償要求を放棄するとしました。

中国人30万人あまりが犠牲となった1937年の南京大虐殺の記憶を忘れてそうしたのではありません。

当時、周恩来総理は「戦争責任は一部の軍国主義勢力にあるため、彼らと一般国民を区別しなければならない。そのため、一般の日本国民に負担を負わせてはならず、さらに次世代に賠償責任の苦痛を賦課したくない」と言いました。

国民の皆さん、
いまや堂々と、自信を持って日本と向かい合うべきです。

世界に向かって最高の技術と経済力を発信し、われわれのデジタル力量と文化ソフトパワーを誇り、日本とも協力して善意の競争をするべきです。

いまや韓日両国政府は、それぞれ自身を顧みて韓日関係の正常化と発展を遮る障害をそれぞれ自ら除去していく努力を傾けなければなりません。

韓国が先に障害物を除去していけば、間違いなく日本も応じるでしょう。

私は今回の1泊2日の訪日中、岸田総理と内閣をはじめとして政界と民間の主要人物と経済界の主要企業人に多数会いました。

皆、両国関係の改善により、安保、経済、文化など多様な分野で協力のシナジーが極めて大きいだろうと期待していました。
野党も岸田内閣の韓日関係改善を積極的に支援すると約束しました。

慶応大学で出会った未来世代の学生らにも、韓日関係の改善に対する期待に膨らむ姿をみました。

12年ぶりに成し遂げられた今回の訪日頂上会談で私と岸田総理は、これまで凍り付いた両国関係によって両国国民が直接・間接的に被害を受けたという点に共感し、韓日関係を速やかに回復させていくことにしました。

また韓国と日本は自由、人権、法治の普遍的価値を共有し、安保、経済、グローバルアジェンダにおいて共同の利益を追求する最も近い隣人であり、協力すべきパートナーだということを確認しました。

両国の未来を共に準備しようという国民的共感に従って安保、経済、文化など多様な分野で協力を増進させるための議論を一層加速化します。

そのために外交、経済の当局間戦略対話をはじめ、両国の共同利益を議論する政府間協力体を速やかに復元し、NSC次元の「韓日経済安保対話」も直ちに出帆します。

われわれ大統領室と日本総理室間の経済安保対話は、革新技術協力や供給網など、主要イシューにおいて韓日両国の共同利益を増進し、協力を強化する契機になるでしょう。

また韓日経済界が共に造成することにした「韓日未来パートナーシップ基金」は両国の未来世代の相互交流を活性化する上で重要な架け橋的役割を果たすでしょう。

今回日本は半導体関連の3つの素材部品の輸出規制措置を解除し、韓国はWTO提訴を撤回することを発表しました。そして相互にホワイトリストの迅速な原状回復のために緊密な対話を続けていくことにしました。

私は先制的に、われわれの側の日本に対するホワイトリスト復元のために必要な法的手続きに着手するよう、今日、産業部長官に指示します。

韓日関係の改善によって、まず、半導体など先端産業分野で韓国企業の優れた製造技術と日本企業の素材、部品、装備の経済力が連携し、安定的な供給網を構築することになるでしょう。

両国企業間の供給網協力が可視化すれば、龍仁(韓国の市)に作られる予定の半導体クラスターに日本の技術力ある半導体素材・部品・装備業体を大挙誘致することにより、世界最高の半導体先端革新基地を成すことができます。

韓国と日本は世界1、2位のLNG(液化天然ガス)輸入国家です。

両国が「資源武器化」に共同対応すれば、エネルギー安保と価格安定に大きく寄与するでしょう。
LNG分野協力が深化すれば、日本の企業からLNG船舶受注も増加するでしょうし、未来親環境船舶、水素還元製鉄などに関する共同R&D(研究開発)プロジェクトを拡大、推進することにより、2050炭素中立移行など気候変化にも共に対応することができます。

特に韓日両国間の経済協力強化は、両国企業がグローバル受注市場において共同進出することのできる機会を大きく広げるでしょう。

1997年から2021年までの24年間、韓日両国の企業が推進してきた海外共同事業は46の国家で121件、約270兆ウォン規模と推算されます。

世界最高水準の製造・建設・設計力量を保有した両国企業がパートナーとして協力すれば、建設とエネルギーインフラ、スマートシティープロフェクトなどグローバル受注市場で最高の競争力を持って共同進出することができます。

合わせて日本は経済規模世界3位の市場です。

韓日関係の改善は、韓国産製品全般の日本市場進出拡大にも寄与するでしょう。

また、両国間文化交流が活発になり、日本国民の韓国訪問が増えれば内需回復と地域経済活性化にも大きな助けとなるでしょう。

政府は経済分野の期待成果が可視化され、われわれの国民が体感することができるよう企業間協力と国民交流を積極的に支援します。

産業、通商、科学技術、金融外換、文化、観光など関連分野で両国長官(閣僚)級後続会議を迅速に開催し、半導体、バイオなど核心協力分野の対話チャンネルの新設、両者宇宙バイオ共同支援、産学協同実証拠点の構築、R&Dとスタートアップ共同フォンドの造成、陸上と航空の物流協力などをスピード感を持って行っていくでしょう。

私と岸田総理は、日増しに高度化している北核、ミサイルの脅威に対応するために韓米日、韓日安保協調が極めて重要で、今後も積極的に協力していこうということで意見が一致しました。

木曜日(3月16日)、私が日本に発つ2時間半前に北朝鮮がICBMを発射しました。私は韓日間で北核とミサイルに関する完璧な情報共有が急を要すると判断し、韓日頂上会談で前提条件なく、先制的にGSOMIAを完全に正常化することを宣言しました。
それに従い、国防部と外交部でも必要な法的措置を施行しました。

2019年に韓国が取ったGSOMIA終了宣言と、その猶予による制度的不確実性を今回確実に除去することにより、韓米日、韓日の軍事情報協力を強化する足掛かりを整えました。

また、両国のインド太平洋戦略、すなわち韓国の「自由、平和、繁栄のインド太平洋戦略」と日本の「自由で開かれたインド太平洋」の推進過程でも両国が緊密に連帯し、協力していくことにしました。

さらに東北アジア域内対話と協力活性化のために韓日中3国正常会議再稼働のために共に努力することにしました。

今後も韓日の2首脳は形式にとらわれず、必要であれば随時会うシャトル外交を通じて積極的に疎通し、協力していくでしょう。

今回の歴訪を通じた韓日両国の関係改善の努力が具体的な成果と結実につながるよう、各部署は協力体系の構築と共に、後続措置に万全を期してくれるよう繰り返しお願いします。

現在われわれは歴史の新たな転換点に立っています。
私は賢明なわが国民を信じます。

韓日関係正常化は結局、われわれ国民に新たな誇りを呼び起こし、われわれ国民と企業に大きな恩恵として返ってくるでしょう。

そして何よりも未来世代の青年らに大きな希望と機会になることが明らかです。
(後略)

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「1965年の韓日基本条約と韓日請求権協定は、韓国政府が国民の個人請求権を一括代理して日本の支援金を受領する」となっていることは、これまでも韓国メディアで報道されたことがある。しかし、それはすぐに忘れられ、また数年後にひっそりと報道されては消えていく・・・という印象がある。それを大統領が発言したことは私にとっては大きな衝撃であった。

また、日本が韓国にこれまで何度も謝罪をしてきたことは日本人にとっては周知のことだろうが、韓国ではつい最近まで「日本は謝罪すらしたことがない!」と考えている人は決して少なくなかったのではないかと思う。もちろん、何度も謝罪をしたのでもう謝罪の気持ちを表示しなくてもいい、ということとは違うだろう。
しかし、少なくとも日本と韓国の現状認識がすり合わされたことについては歓迎したい。

よく知られているように、韓国では政権交代が起こると、前政権のやったことが否定され、ひっくり返されることがあるというのも事実である。親日と判断されやすい保守政権による今回の措置が、次の政権で引き継がれるかは不透明だ。
しかし、日本としてもこの機会を逃さずに両国間の交流を深化させ、それによる両国民の「利益」が具現化されることになれば、政権が変わったとしても再び根底からこれらをひっくり返すようなことは起きないのではないだろうか、という希望を持って見ているところである。

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