合評会議事録(二〇二三年一月二〇日)

 一月二十日に部室にて合評会が行われた。今回は六人が参加し、一人一篇ずつ詩を持ち寄って朗読、批評、議論を行った。ここでは、提出された詩の中から赤澤玉奈さんの詩「潜水」についての議論を報告する。以下に全文を引用する。

潜水

二人組をつくってください
体を包み込みながら揺蕩うものと温度を合わせても同じになることはないのだと
委ねることで耳を塞いだ
指先が白く腐食して
水を吸ったところから透明度が上がって
(だから君には見えないんですよね)
皮膚がほどける
ナンバリングされた四肢
腕を漕ぐと
透過する血管
深い無音
逆らいたい
* 口を重ねると 布目のほつれのようにほどかれる
のが嫌だった 引っ張られて伸びていく体がいつしか線になって 同じ色の水面をなぞる なにかを細くつぶやいたとき そのうち乾いて一つに戻る体のことを思った
全て元通りになる
溶けた体も
瞬く目元も
頭上から合図が降ると
休憩時間が終わって
君が入ってくる
25メートルの背骨をなぞって
言葉の先で頬を撫でる


 タイトル「潜水」の通り、水の中で泳ぐ作中主体と「君」の身体の感覚や心象が丁寧に描かれている詩だ。参加者からは次のような感想や質問があった。

・「二人組をつくってください」「25メートル」などの語彙から学校のプールの授業の様子を思い出した。

・水の温度と自分の体温が同じにはならないことや、皮膚がふやけて自分の境界線がほどかれていくこととそれに逆らいたいという気持ちが描かれていて、他の何かと溶け合ってしまうことへの憧れと拒否感を感じた。

・「ほどかれる」「引っ張られて伸びていく体がいつしか線になって」など体や水を描くときに「線」という言葉を使っていることが面白かった。水と空気の境界や身体の境界が線になっているというイメージが面白かった。

・「*」(アスタリスク)があることで言葉のレベルが変わっていて面白かった。「*」はどのような効果をもたらそうと思って使ったのか。

・作中主体と君の距離感が興味深いと思った。最後の「言葉の先で頬を撫でる」という表現が気になった。

 この他にもこの詩のおぼろげでしなやかな身体感覚や、二人の関係性、アスタリスクによる効果などについて話が多くなされていた。

 作者による解題では次のようなことが話されていた。

・「恋愛で文章を書くことは言葉に相手に触れることだ」という考えに影響されて書いた部分がある

・ぎくしゃくした関係の二人組として作中の人物を描いている。

・作中の二人はお互いに注釈をつけることに躍起になっている。

・詩の視点は「*」の部分以降では一人称的なものになっている。

 「*」の質問に対して「二人はお互いに注釈をつけることに躍起になっている」という話が出たのには驚いた。表記上の記号と実際の身体や感情と、「ほどかれていく体」「線」のような一種の図形的なイメージとが同じ詩の中で区別されることなく同居していることがこの詩の大きな魅力になっているといえるだろう。

 2023年最初の合評会だった。今回も個性的な詩が多く寄せられていて、とても刺激になった。今年も、合評会を創作を通じて互いに刺激し合い作品を鍛えていけるような場にしていきたい。

(文章:栫伸太郎)

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