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がん患者におけるVTEの予防と治療:ASCOガイドラインアップデート2023

J Clin Oncol. 2023;41:3063-3071.

がん治療をやっているとVTE(venous thromboembolism: 静脈血栓塞栓症)は良く遭遇するイベントである。特に進行がんの患者がある日突然PEやトルーソー症候群などを発症し、治療半ばで亡くなる場面を見てきた。最初からリスクが分かっていれば予防も検討しうるのだが予測が難しい。かといって下手に抗凝固療法を行えば今度は出血のリスクに悩まされ、治療に支障を来したりする。無症状で発見されたVTEはDOACが登場してから比較的管理しやすくなっているが、まだまだevidenceが足りず状態に応じて手探りでやっているのが現状である。

最近エドキサバン(リクシアナ)の12ヵ月投与 vs 3ヶ月投与の論文を目にしたので、その前に現在のガイドラインに目を通しておこうと思い読んでみた。open accessなので内容については誰でも見られるようになっている。下記に自分用に簡単にまとめたものを載せておく。


CQ. 1 担癌患者が入院したら予防的抗凝固療法を行うべきか?

急性期病態や体動低下を認める担癌患者が入院したら、出血や禁忌が無い限り薬物血栓予防を行うべき。特に追加リスクのない場合にも検討しうる。ただし小処置、化学療法、骨髄移植などの入院においてルーチンに予防投与を行うことはしない。

CQ. 2  外来化学療法中の患者に予防的抗凝固を行うべきか?

全ての外来がん患者にルーチンの予防投与は不要。ただしハイリスク (治療前Khoranaスコア≧2 ※下記参照)の場合、患者と利益・害・費用・治療期間などをよく相談の上アピキサバン・リバーロキサバン・LMWH(低分子ヘパリン)による予防を検討して良いかも知れない。サリドマイド or レナリドミド使用中の多発性骨髄腫患者で、化学療法やDEX併用の場合、低リスクであればアスピリンやLMWH、高リスクであればLMWHでの予防を行うべき。

CQ. 3 外科手術を行うがん患者に周術期VTE予防は必要か?

出血等のリスクがない限り、大手術を行う全てのがん患者にUFH (未分画ヘパリン) or LMWHによる予防を行うべき。UFH, LMWHは術前より投与し、さらに理学的療法併用も検討して良い。しかし理学的療法単独は推奨されない。併用療法は特にリスクの高い患者に有効な可能性がある。
血栓予防薬は少なくとも術後7-10日投与する。腹部や骨盤腔の開腹 or 腹腔鏡手術で高リスク因子(体動困難, 肥満, VTE既往など)を持つ患者は、それ以降~術後4週まで投与延長可。低リスクの場合はケースバイケースで検討する。投与延長の対象となる患者はLWMHの投与を検討するが、一定期間使用後はリバーロキサバン・アピキサバンに切り替えても良い。(ただしそれを支持するエビデンスは限定的)

CQ. 4 VTE発症がん患者で、再発を予防する最適な治療は?

初期治療はLWMH, UFH, フォンダパリヌクス, リバーロキサバン, アピキサバン。非経口投与のみで初回VTE発症例の場合はLMWHを5-10日使用する。(Ccr≧30ml/minを確認する)
長期予防においてはLMWH, エドキサバン, リバーロキサバン, アピキサバンを少なくとも6ヶ月使用する。LMWHやDOACが使用出来ない場合はVKAs (ビタミンK拮抗薬: ワーファリン)を使用する。LMWHに比べDOACは血栓再発予防効果があるが、小出血のリスクも増加させる。消化管や泌尿生殖器がんの場合は粘膜出血に注意する。DOAC使用前に薬物相互作用を確認すること。
化学療法継続中の転移再発がん患者などにおいては6か月を超える投与も検討する。その場合risk-benefitについて断続的に評価する。

大静脈フィルターの挿入は、確立した血栓症や診断から4週間以上経過した慢性血栓症、術前患者などに行うべきでない。PEやDVTの予防目的での長期留置も行わない。抗凝固療法に絶対禁忌のある急性期治療において、血栓が大きく生命を脅かす場合などに一時的に挿入を行うことは検討可能。
最適な抗凝固療法にもかかわらず血栓症の進行が認められる場合、抗凝固療法の補助としてフィルター留置を行うことは検討しうるが、生存の改善を示すevidenceは無く、短期的な有益性は限定的、長期的にはVTEリスクが増加することに留意する。

偶発的に診断された無症候性PE, VTEも症候性VTEと同じ臨床経過を示すため、症候性と同様に治療する。孤立性の亜分枝PEや脾静脈血栓、内臓静脈血栓の治療はケースバイケースで検討する。

CQ. 5 生存率向上を目的に、VTEがはっきりしないがん患者にも抗凝固薬を行うべき?

VTEを認めない症例に生存延長を目的とした抗凝固薬投与は行わない。

CQ. 6 VTEのリスク予測や早期発見に有用な方法は?

VTEのリスクは症例によって異なるので定期的に評価すべきである。biomarkerやがんの部位だけでハイリスク症例の特定は難しい。外来化学療法を受けた固形がん患者においてはKhoranaスコアが有用。
Oncologistやメディカルスタッフは、大手術・入院・全身化学療法などの場面において、患者にVTE教育を行うべきである。

Khoranaスコアについて。臨床支援ツールHOKUTO HPより引用

以上、思ったより長くなってしまったが一応まとめ。
VTEを予測するスコアとしては、Khoranaスコア以外にもViennaスコアPROTECHTスコア, CONKOスコア, ONKOTEVスコアなどが提言されているが、汎用性と簡便さからKhoranaスコアがガイドラインに採用されたようだ。

しかし例えば、私が担当する化学療法分野では消化管がんが多いのだが、Khoranaスコアを用いると結構な人に予防を検討することになってしまう。しかも胃がん+2点となると、むしろ出血のリスクの方が懸念される……。VTEの予防については今後細かいケースに応じたエビデンスが形成されていくことを期待したい。そもそもKhoranaスコアが日本人に適応できるのかという臨床研究も進んでいるようである。

がん領域で現在主流となっているDOACはリバーロキサバン(イグザレルト)、アピキサバン(エリキュース)、エドキサバン(リクシアナ)の3種類だが、これらの使いわけについては正直不勉強で良くわかっていない。私はとりあえず1日1回の利便性と、体重で調整というのが分かりやすいのでエドキサバンを何となく使っているが、時間の余裕があればこのあたりも整理しておきたいところだ……。

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