舞台『うっすら浮かぶ白い月の下で』 TOKYOハンバーグProduce Vol.33 @サンモールスタジオ

濃厚な人間ドラマを得意とするTOKYOハンバーグを主宰する大西弘記が、団体を旗揚げした16年前に書いたのが本作。つまり劇作家としての処女作だという。登場する6人の男女は全員が自殺願望を抱き、富士の樹海で練炭自殺を図るために車に乗り込んでくる。自殺の道行きを企画者で元は医者だったという“せんせい”が参加者たちが乗り込む度に“死”への覚悟を問い質すと、全員が当然覚悟の上だと語気を強める。しかし話が進むにつれて彼らの決心はほころび初め、“死”へ向かっていたはずの意識が迷走し始める。

 大西の初期作品と知ってしまったせいか、台詞に若干の青臭さやぎこちなさを感じなくもないが、そこは役者陣の技量でカバーしているのかさほど気にはならなかった。さらに度々やってくる沈黙を絶妙にコントロールすることでテンションを保っている。一見重そうだが、ともすれば安っぽくなってしまいかねないテーマを、上手く紡ぎ上げたというべきだろう。

 実は年末に母が亡くなった。それも病で療養中であるとか重大な疾患を抱えているとかの予兆があったわけではなく、いつも通りの毎日を過ごし、2週間後に予定されていた合唱の舞台のために練習に励んでいた彼女に突然訪れた“死”だった。もやは“理不尽な死”と言うべきだろう。そんなタイミングだったので、“死”という理不尽を自ら引き寄せようとする自殺志願者たちの姿はある意味滑稽にも思えた。大西の作品は毎回いろいろ考えさせられるが、本作はそんな自分の心境もあって、さらに色々な考えを巡らせることができた。観劇後のそうした時間もまた愉しく、次回作が楽しみになるのはそういった部分があるからだろう。新宿、サンモールスタジオにて。

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