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舞台『ナビゲーション』@サンモールスタジオ


人間にはどうもひねくれたところがあって、世の中を拗ねるとすぐに自分を孤独なのだと思い込みたがる。しかしながら世の中それほど捨てたものでも無く、どこかで誰かしらが想ってくれているものだ。

『ごくせん』『ナースのお仕事』などで知られる人気脚本家、江頭美智留による新作舞台『ナビゲーション』を観ていてそんなことを考えた。ACTOR'S TRIBE ZIPANGを主宰する鳳恵弥が職場で急死した先輩を故郷の山形まで車で運搬することになった後輩を。俳優としてだけでなく人気声優としても知られる松本梨香がその車にどさくさに紛れて乗り込んでくる謎の女性を演じて、珍道中が展開されていく。不本意ながらこの道行きに巻き込まれることになった女(鳳)は世話になった先輩だとはいえ、遺体を運ぶのだから気が進まないのは当然。でもその行動が何を意味するのかに徐々に気が付いていく。そんな気持ちの変化を鳳は見事に表現していたと思うが、さらに惹きつけられたのは松本の軽妙な演技だった。遺体運搬という紛れもない犯罪に関わりながら、ずっと脳天気に笑っている不思議な女性。その正体は最後に明かされるのだけど、明かした瞬間、そこまでの彼女の振る舞いがスッと腑に落ちた。

もう一つの話題はこの舞台のためにオリジナル曲を爆風スランプのギタリスト、パッパラー河合が提供し、それだけではなく河合も役者として登場することだった。本格的な舞台は初めてだといっていた河合だが、これがなかなかのはまり役で、リアルに居そうな社長役に思わず見入ってしまった。

鳳とパッパラー河合(左)

さて、山形に着くまでにいくつもの物語が絡み合い、最終盤にはあっと驚く仕掛が仕込まれた脚本。そしてこの3人の好演。さらには本物の車を舞台に上げるという大胆な舞台装置など文句の付け所はないはずなのだけど、周りを固める役者陣が力みがちだったように感じたのは残念だった。小さな劇場だからこその引き算があるべきだと思うがどうだろう。新宿サンモールスタジオ 1月16日まで


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