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「アホが地球を救うんや」

カッコいい車を売ってました。
アルファロメオ。フィアット。ランチアも。ごくたまにマセラティやフェラーリまでも。

世間一般に言うキザなイタリア車と言うやつです。大学時代、頭金ほぼなしの5年ローンを組んで手にしたフィアットパンダ96年式マニュアルミッションの二輪駆動。新車としてはそれが最後の販売となると聞いて、鬼の60回払いを決行。その後一瞬国産のディーラーに入るものの間髪入れずにそのお店で働くことになって。

以来11年。売る人として、かっこいいけどよく故障し高いのに質が悪いと言われる(日本人的にね)車を、狂ったように好きになり、狂ったように売ってました。

アピス神戸という、今は吸収され無くなった車屋があります。日本で、最も、左ハンドルの、マニュアルミッションの、赤色以外のアルファロメオを売るお店。規模は小さいのに常に販売台数ベスト3に入るお店。僕はそこにいました。西宮の閑静な住宅街。三ノ宮の国道前。そして神戸の西区という少し田舎。この3店舗で構成される会社に。

大好きな先輩、というか、全員大好きでした。
ミーティングでカーグラフィックという車好きのジャンプのような雑誌をいち早く読んで無いというだけで怒られる。
試乗で、まずセールスがアルファのポテンシャルを全部出すくらい山道を攻めないと怒られる。当時デビューした右ハンドルのオートマを打ってもなかったことにされる。営業の数字を追うミーティング中に、1960年代のアルファについての見識が甘いというだけで、会議が2時間延長になる。

要するに、最高の車屋さんでした。
アルファとキリストの違いがわからなくなってしまった元牧師。ラジオのDJ。実家が米農家。関学エスカレートしてすごい成績で卒業したのにここにくる新卒。自分のことをシチリア出身だと勘違いしている葉巻マニア。毎月15個くらいミニカーを買う40代。大事な展示会に、クラプトンの日本公演があるという理由で休む支店長。jazzとアルファとポルシェを話し出したら6時間の残業になりそうなくらいやばい統括。じゃりん子チエに出てきそう、いやカバチタレに出てきそうな四角くて苦虫潰してる顔で、毎朝儲かってますか?と聞く社長。要するに、最高の車屋さんでした。

その中で、実家が米農家の大川さんという、ほんの少しドリフターズの仲本工事に似た支店長がいました。その人が僕の心の師匠でした。とにかく、昭和のおっさんみたいなやりとなのにとにかくたくさん売る先輩。ある日、その人にあるお客様へのアクションで相談したときに、具体的なアドバイスではなくこう言われました。

「なぁ、べーすけ。お前は上の方とか、先の方とかばっかり見てへんか?それでもええかも知れん。でもそれは賢こ(賢い人)がやることや。べーすけ。お前はアホや。俺と一緒のアホや。目の前の事ばっかりやってたらええ。そうしたらな賢こが、もうちょっと先のこととか、上のこととか考えてくれる。賢こはな、アホがおらなあかん。アホもな、賢こがおるから生きていける。アホが賢この役回りせんでええんや。お互いに必要なんや。てことはな、アホが必要なんや。べーすけ、アホが地球を救うんや。目の前のことでええから、とにかくアホになってやったらええねん。悩むというのは、賢この仕事や。だからな、悩んだらあかん。ええか?わからんことはやってみて、わからん!ってなったらええんや。」

と言う内容(一語一句は覚えてないけど多分こんな感じ)を言われた。その時はほんまに何言うてはんねやろ??と思ったけど、最近やっとこさわかってきた。例えば、考えられるとか、アイデアを出すというのは頭がいいからできるとか、そういうとのではない。どちらかと言うとアホやから、こっちの方がええんちゃう?と出せるものかもしれん。

あの時、僕は賢この中の中くらいのやつだと自分のことを理解してた。だから、無駄なことはしたらあかん。先につながるものをせなあかん。上を目指さなあかん。そう思ってた。

アホが地球を救う?

違う。アホができない事を、賢こが変えていって世界を良くして、地球が良くなる。そう思ってた。

数年前、この人に出会った。

日下慶太。


街や商店街をポスター一枚で復活させるで電通所属の言葉の魔術師。文の里商店街という、絶対行かないだろう商店街に、僕はそのポスターを見たくて通った。
ポスター一枚が理由で、そこで買い物をした。

賢いなぁ。
すごいなぁ。
こんな人になりたいなぁ。

そう思ってた人だ。
当時から社内で制作物を作ってたので、こんなすごい人になりたい!とばかり思ってた。

ポスターを初めてみてから6,7年経って、小豆島でその人と初めて会った。

坂手港に迎えに行くことになった。

さすがやな。やっぱり、すごい人や。変な車選んではるわ。これまで、敬語混じりのまともなやりとり。これは冗談ではないと決めてかかった。

僕は必死でなにわナンバーの黒のロールスロイスを待った。

船は、もう出発してしまい、ロールスロイスは降りてこない。

少し離れた場所で、
カヤックを積んだバンが止まってた。

イベントが終わり、BBQをし、彼の書いた本を読んだ。


アホやん。

語弊があるかもしれんが、アホは本気でアホになると賢くなる。結果的に。そういう、なんというか剣を極めると剣がいらない。みたいな、なんというかそんな、アホ。

「アホはね、めっちゃやさしいんですよ。」

BBQしながら、そんな事を言ってた日下さん。

どこかで聞いた事あるなぁ。
肩をすくませて腕を組み、タバコを吸いながら語る仲本工事が思い出された。

「べーすけ、アホが地球を救うんや」

仲本工事は、今もあの場所で車を売ってる。
ポスターの人は、今もあの場所でいろんな街のポスターを作り、祭りを作り、UFOを呼ぶバンドをしている。

僕は賢い生き方を探して、生きてきた。
やってることはアホなことばかりやのに、これじゃない!って思って、ウロウロして生きてきた。

人生も半分を超えて、やっと、賢こになれない事を知った。アホなことしか出来へんのに、ずっと賢くなろうとしていたのに。

小豆島で初めて日下さんと出会って2年が経って、今またこの本を読み返してる。

すごい!とかじゃなく、生きてはるなぁ。って思った。一生懸命、うまくあしらわず。

アホが地球を救う。

めっちゃ長文になってしまった。

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