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協力隊員が知っておくべき最新開発経済学

今年のノーベル経済学賞は、マイケル・クレーマー(米国・ハーバード大)、エステル・デュフロ(フランス・MIT)、アビジット・バナジー(インド・MIT)の3名が「貧困解消のための実験的なアプローチ」における貢献を評価され共同受賞した。
私は、デュフロとバナジーの著書『貧乏人の経済学』を協力隊の派遣全訓練施設である二本松訓練所の図書館で借りて読んだのが彼等とのはじめての出会いであった。

本研究は、青年海外協力隊員にとって具体的かつ実践的な示唆にあふれている。NewsPicks(11/16)の記事をもとに研究成果をまとめる。

・開発経済学の課題


開発経済学とは、新興国が抱える課題とその解決策を経済学の視点から分析する学問である。
貧困や飢餓、教育問題、HIVやマラリアに代表される衛生健康問題等ををその解決すべき課題とする。

これらの問題解決方法に関しては、専門家の意見は大きく「援助派」と「自立派」の二つに分かれていた。
「何はともあれ、まずは困っている人たちに援助の手を差し伸べるべき」という援助派と、「援助するだけでは、依存を生むだけで根本的な問題解決に繋がらないので援助をに頼らない自立を促進すべき」という自立派の議論対立が続いていた。
その間にも、様々な新興国における社会課題は蓄積され、災害などの支援効果がわかりやすい問題には資金が集まる一方、支援効果の見えにくい複雑な課題は放置される傾向にあるという「開発経済学の課題」が残されていた。

・開発経済学に対する社会実験

これら「開発経済学の課題」解決のため、施策とその効果の因果関係の実証的調査、社会実験の必要性が主張されるようになった。我々が住む社会は、様々なな要素が複雑に絡み合い因果関係を生み出している。
よって、ある施策が社会課題を解決したとして、本当にその施策の効果として結果での解決か、その他の様々な要因の影響によるものかは定かではない。これまで、援助派と自立派の対立に決着がつかなかったのも、どちらの施策が有効なのかを数値で比較・実証することが出来なかったためである。

施策の有効性を証明するには、施策とその効果の因果関係を実世界の社会実験が必要となる。しかし、この社会実験は社会科学と異なり新興国の人々の生活に介入することとなるため、様々な批判があった。
例えば、社会実験による比較のため任意に援助する対象としない対象を生むこととなる。それは、実証実験を行うことによって、不公平を生むこととなるではないか、という批判だ。


これらの批判を解決するために、「ランダム化比較試験(RCT)」という手法で彼らは社会実験を実行した。RCTは調査対象集団の無作為なランダム化とグループ分けをコンピューターが行うことによって、実験者のバイアスを排除する。これにより、上記の不公平は解消される。新興国で社会実験を行う場合、多額の資金という利害が絡むために実験者のアドバイスが入り込みやすい、という問題があったがRTCがこれを解決した。

・「エビデンス重視」の経済学

援助派と自立派の対立も、社会実験によってどちらが有効かを検証されてきた。
例えば、ケニアで行われたマラリアに関する社会実験の例がある。
マラリアの課題解決に対して、援助派は「マラリア根絶のため、蚊帳を無料配布すべき」と主張し、自立派は「無料配布は蚊帳の価値が理解されず、結局使われなくなり逆効果」と主張した。
これに対して、援助(蚊帳を無償配布)するグループとしない(蚊帳を有料販売する)グループで分けて検証した。


その結果、以下のことがわかった。
1.蚊帳は無料配布でも使用される
2.無料配布された人々は、良く年以降も蚊帳購入率が高まる
3.有料の蚊帳はあまり購入されず、割引しても効果が薄い
そして、蚊帳の無料配布は有効な施策でである、ということがわかった。

以下は彼らの実証実験により有効性が証明された社会課題に対する解決策である。

■ケニアの子供に十分な教育を与えるのに「奨学金」か「寄生虫駆除」のどちらが有効か?
⇒「寄生虫駆除」の方が有効。貧困対策にも寄与。
 ケニアでは、寄生虫による健康被害が、教育の継続(及びその後の収入)に大きく影響
 在学中に治療を受けた子供は、受けなかった子よりも2割多く稼ぐ

■ケニアの女子生徒のHIV感染率、低年齢での新進率を下げるには「従来の性教育を徹底」か「HIV感染の事実を周知」のどちらが有効か?
⇒「HIV感染の事実を周知」が有効
 「年上男性はHIV感染率が高い」という事実の周知により、
  当該男性層との性交渉を激減
 同年代との性交渉時にもコンドーム利用率が増加

■インドも子供にはしかワクチンを接種するため、予防センター順かいや褒美の提供は有効か?
(インドでは、無償でのワクチン提供でも接種率が6%に留まる)
⇒10%~30%以上の改善を期待可能
 毎月の巡回で17%に上昇
 さらに接種ごとに豆(1.8ドル相当)提供で、38%まで上昇

・協力隊員として実行すべきこと

上記の様な、先人の成果をただの知識として認識するだけでなく、具体的に活動レベルに落とし込んで実行していく必要があると思う。

そのため、これまでの活動をゼロベースに改め、上記の科学的に実証された施策を含め本当に成果が上がる施策を実行する。この時、これまでの偏見や実績、自分が実行して気持ち良いか、やりがいを感じられるか等自我を捨て、成果を優先する。

「知っている」と「知っていることを実践している」は全く異なると、改めて感じた。


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