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ぼくの苦手な行為

お芝居をしていると「客出し」という行為に遭遇する。

舞台の公演を行い、終演後に入り口のところに並び、「ありがとうございました」と送り出す行為のことだ。それは、やってもやらなくてもいいことで、劇場やプロデューサーによっては、「そういうのは控えて下さい」といわれたりもする。

ぼくのように田舎でお芝居をしている人間にとって、なんだかよくわからないお芝居のために時間をさいてくれる観客の皆様は文字通り「神様」なので、わざわざ遠くまで来ていただいた皆さんに、せめてお礼が言いたくて、客出しに出ることが多い。

しかし、この「客出し」がとにかく苦手だ。

まず、ぼくは、人の顔を覚えるのが苦手で、「お久しぶり」と声をかけてかけられても、なかなかお名前と顔が一致しない場合が多い。とくに若い女性などは、歳とともにどんどん形容が変わる。文字通り化けてしまわれる場合が多く、なんなら名乗られても「本当に〇〇さんなのか?」と最後まで心に疑念がのこる。

それは年齢の傾向なのか、個人的な能力の欠如なのか。とにかくお若い女性がみんな同じ顔に見える。AKB48のみなさんの顔なども、まったく判別できない。増えたり減ったりする大群女性グループなら尚更のことだ。もう、こちらはパニックになる。

「お疲れ様ナマです」と締めくくる有名ビールのCMをみながら娘に「この女優さん、とてもいい雰囲気だけど、最近有名な人なの?」ときくと、「父よ、ガッキーを知らぬのか?」と返答が返ってきた。「新垣結衣さん」が国民的な女優であることは知っている。しかし、他の女優さんとガッキーの見分けがつかない。

話は、お芝居の「客だし」のお話しに戻る。

コロナ禍はどの劇場でも感染症対策で、この「客だし」がNGとなった。これが苦手なぼくとしては、ちょっとホッとしていたところだ。しかし、今回の演目からは、しっかり客だし行為が戻ってきたため、終焉間近になるとなんとなく落ち着かない。

どうやらぼくは社交的に見えるらしいが、実は中学生まで「バイバイ」と他人に言うのが苦手だった。「さような」は言える。しかし、「バイバイ」というのは、なんだかこそばゆくって、その言葉を口にするのが恥ずかしかったのだ。こう見えて、意外とシャイなのだ。

時々、誰とも会いたくなくて、一日中家に閉じこもってる時もある。月一くらいで「誰にも会いたくないモード」になってしまう。そんな時は、家族以外の電話には出ないし、ピンポンが鳴ってもドアは開けない。断固として居留守を貫く。宅配便屋さんごめんなさい。

客出しの時もそんなこんなで、シャイモードが発動してしまう時が結構な頻度である。ありがたい事に、差し入れをいただいたり、わざわざ遠くから来ていただいた方にはご挨拶はしたい。しかし、なんとなく人の顔を見るのことに気がすすまない。こんな時はどうするべきなのか。何歳になってもなかなか改善されない。

困ったものた。

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