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「サ終」はキャラクターの終わりなのか?【日経COMEMO】

最近、「サ終」という単語をしばしば目にするようになりました
「サ終」とは、オンラインゲームやソーシャルゲームで使われる
ゲームの「サービス終了」という意味です。
特にスマートフォンのアプリゲームはその人気により、海外も含めた新規参入が相次いでいます。

アプリゲームの場合、更新をストップするのみならず、アプリそのものが開けなくなってしまうものも多いです。
Twitterのトレンドに「サ終」が入ると、それとともに、ファンの「残念」「悲しい」というつぶやきが流れてきます。

熱心なファンがついている、アニメ化されるなど、知名度があるアプリゲームについても、「サービス終了」になることがしばしばあります。

■継続に運営費をかけつつ、開発費を回収

なぜ知名度が高く、ファンがついているゲームまで終了しなければならないのか?
それはアプリゲームが「開発」、そして「維持」に大きな費用がかかる性質を持っているためです。

サービス終了の理由についてはこちらの記事に詳しいです。

かかった開発費をユーザーの課金によって回収することがひとつのゴールだとして、その年数にたどり着くまでには運営費(サーバー維持費や人件費)といったコストがかかり続けます。
それゆえ、売上げが「運営費を上回る」だけではなく、「開発費をできるだけ短期で回収する」ことが求められます。

売りきりのコンシューマーゲーム等とは違い、運営費も継続して発生し続ける点が、オンライン、ソーシャルゲームの難しさだと言えます。

アプリゲームは、ヒットすればユーザーの課金に加え、版権のロイヤリティーも入ってくるので「儲かる」というイメージがあります。
けれども、アプリゲームへの期待値が上がり様々な企業が参入した結果、ユーザーの取り合いになるなど過当競争にもなってきています。

冒頭でお伝えした「知名度のある作品でもサ終してしまう」現象はなぜ起こるかというと、アプリゲームはかつて「ポチポチゲーム」と言われたものとは異なり、キャラクターデザイン、シナリオ、グラフィック等に人気クリエイターを起用し、美しさと動きの安定性も追求するようになったのです。
開発費が膨らむのはそのためです。

作品数が増えて過当競争になり、「さらにすごいものを出さないと、別のゲームにお客を奪われてしまう」危機感から開発費が増える。
けれど巨額の費用を投じることで、開発費の回収には年数がかかるようになる。すると、「見合った回収ができない」と判断された時点で“損切り”されてしまう。

結果、開発費に何億もかけたゲームがサービス終了になる……という現象が起きるようになりました。

■ユーザーは愛着を持ったキャラクターを失う

ここでお伝えしたいのは、アプリゲームを楽しんできたユーザーの心理と、ユーザーの心理を汲んだ企業の動きについてです。

「サービス終了」という時点で、キャラクターにはたくさんのファンがついています。一時期は様々なところで露出があった作品ならば、なおさらです。
「サ終」を「悲しい」と思うのは、費やしてきた時間やお金もあるでしょうが、何よりも、自分が愛着を持ったキャラクターや物語、世界観にアクセスできない点にあります。せっかく生まれた作品が、IPとしても活用されないままということにもなりかねません。

「せめてシナリオのテキストをサイトに残して欲しい…!」とファンが望んでも、ゲームの終了で出資会社(製作委員会的な座組み)が解散すると、それも望めないケースも多いのです。

「サ終はキャラクターの終わり」にもなりがちなアプリゲームですが、
サービス終了後も、キャラクターに愛着を持ったファンに物語を届けるケースも出てきました。

あんさんぶるガールズ!!~Memories~

“ゲームアプリ『あんさんぶるガールズ!!』で公開されていたストーリーを無料で読むことができるメモリアルアプリ『あんさんぶるガールズ!!~Memories~』に、リリース7周年を記念して親愛ストーリーの追加が決定!“

この『あんさんぶるガールズ!!』を送る企業Happy Elements通称「ハピエレ」は、女性向けアプリゲームでも高い人気を持つ『あんさんぶるスターズ!!』のゲーム会社です。

「“あんスタ”の売上げがあるから、そうしたことができるのだろう」という見方もありますが、
「人気作を持っていても、終わった作品にはお金をかけない」スタイルのほうが主流なのです。

■ユーザーに安心感を与えるブランディング

では企業がアプリゲームが終了したあとに、お金をかけてシナリオを追加するメリットはどこにあるのでしょうか?

アプリゲーム好きからは
「ハピエレはなかなかサ終しないから、安心して新しいゲームをインストールできる」という言葉を聞きます。
キャラクターを大事にする姿勢を見せることで、今後発信する自社コンテンツへの信頼度を高めるという長期戦略が見えてきます。

同じく「サ終しない」と言えば、ガンホーのオンラインゲーム『ラグナロクオンライン』も長く継続しています。

収益で言えば、のちにリリースされた同社の看板作品となるアプリゲーム『パズドラ(パズル&ドラゴンズ)』とは大きく差があります。

PC対応のみ(スマホ非対応)の『ラグナロクオンライン』は、なぜサービスを続けているのか?
実は本作は、00年代にキャラクターMMOの先駆けとなり大流行したゲームでもあります。遊んでいたプレイヤーには、マンガ家などのちにクリエイターになった人も多いです。

ガンホーには、「クリエイターが愛着を持つ」というブランド力を今後も活かし広げていくつもりで、オンラインゲームを維持しているだろうことが想像できます。
近年では、アプリゲーム『ラグナロクオリジン』などもリリースしています。

■ニッチtoニッチ 好きな人に深く届けるあり方

キャラクターや物語や世界観は「継続する」ことに意味があると思います。
アプリゲームの場合、現状では「ゼロか100か」を迫られる状況になりやすく、非常にもったいないと思わざるを得ません。

かといって、先ほどのガンホーのように「別のヒット作で出た利益を投入する」となると、できる企業は限られてきます。
メガヒット作を生み出すことができる=ばく大な初期投資ができる企業だけが生き残っていくのかというとそうではないと思いますし、そうあっては、今後クリエイターのモチベーションにも影響しそうです(自分が渾身の力で生み出したものが消えてしまうのは、やはり無念だと思います)。

「ゼロか100か」にならないようにするには、
「小規模サイズのものを長く続ける」
そんなあり方も今後は生まれてくるのではないかと思います。

アニメの話になりますが、オリジナルアニメ作品には、
「好きな人に的を絞ってその人たちに届ける」という手法で成功しているものもあります。
YouTube Original発のアニメ『OBSOLETE(オブソリート)』(虚淵 玄/ニトロプラス 原案・シリーズ構成)は、『装甲騎兵ボトムズ』(1983年)が好きなクリエイターたちが、同じ仲間に届けるつもりで制作したそうです。
日本のアニメの主流とは異なるテイストですが、結果は第1話で1270万再生を達成しています。

これには海外の「FPS(シューティングゲーム)」層に届けるという狙いもあったと思いますが、
日本のみならず「世界中のニッチ層が視聴した」と考えられます。

かつてはニッチな題材は届きにくいと言われていましたが、海外に強いプラットフォームによって、世界各地に散らばるニッチ層がアクセスした結果、可能になったことだと思います。

私は一コンテンツファンとして、100か0かを短期で問うあり方だけでなく、長く作品や企業ブランドを育てる手法が増えてくれれば良いなと思います。

「ニッチtoニッチ」は、今後のIP作りや、ファンのキャラクターや作品への愛着を剥がさないためのキーワードになっていくのではないかと思うのです。

【1/3訂正】『OBSOLETE(オブソリート)』はNetflixではなく、YouTube Originalでしたので、訂正いたしました。


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