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ブシロードに見る”攻めと覚悟の経営”【日経COMEMO】

コンテンツIP(知的財産)の長期運用、「版権ビジネス」の重要性が増しています。
ひとつの作品タイトルについて、
アニメ、ゲーム、ライブ(舞台)ステージ等を多面的に展開し、
“キャラクタービジネス”全体で利益を上げようという方向性に向かっています。

アニメとゲームという分野に関して多面展開が増えた背景には、1タイトルについての制作費の上昇、一分野のみでのマネタイズ効率の悪さ、作品の増加により、ユーザーが認知するためのハードルが上がった等の要因があります。

タイトルを立ち上げた段階で各分野の展開が始まっていれば、作品の認知度が上がります。また、アニメ(ライブ)の準備期間で新規コンテンツが出せないときも、ファンにゲームなどの別分野を楽しんでもらい、作品への興味を持ち続けてもらうことができます。

ファンとアニメの関係で言えば、かつては1クール(3ヶ月)作品でついたファンが、「第2期」の制作発表がないために、作品から離れてしまうことがしばしばありました。もしその時にゲームやライブなど、アニメ以外の新規展開があれば、ファンはそれを楽しみつつ、お金を投じることができたはずです。
“ひとつのタイトルを長く活かす”という業界の動きは、ファンのニーズでもあるのです。

■自社IPを多面的に展開する

キャラクタービジネスと長期展開という点で、注目したい企業に「ブシロード」があります。
ブシロードは07年創業。トレーディングカードゲームの制作・販売からスタートした企業で、現在はカードゲーム『ヴァイスシュヴァルツ』のほか、『BanG Dream!(バンドリ!)』『D4DJ』等の自社タイトルについて、アニメ、ゲーム、ライブ等、多面的に展開。2019年には東証マザーズに上場しています。新日本プロレスのオーナー企業でもあります。

ブシロードは、ひとつのタイトル(作品)について、アニメ、ゲーム、ライブを同時期に展開して、ファンの認知度を上げ、自社ブランドになるまで育てるという手法を取っています。

『BanG Dream!(バンドリ!)』を例に、アニメ、ゲーム、ライブ展開についてみていきます。
『バンドリ!』は2014年にスタートし、2020年には年間売上高100億円を超えたというブシロードの代表作のひとつです。

まずは「ライブ」について。リアルステージを重視するブシロードの独自色が最も強く出ている分野です。
『バンドリ!』は、ガールズバンドを組む少女たちの物語です。そのそれぞれのユニットごとにカラーがあり、アニメ、ゲーム、ライブ展開をしています。アニメやゲームで声優を務めるキャストが、そのままライブでもパフォーマンスを披露します。そこは『ラブライブ!!』や『アイドルマスター』シリーズと同様です。

『バンドリ!』の独自色としては、キャストが実際にバンドとして楽器演奏する点があげられます。近年、声優がステージで歌を歌うことは珍しくありませんが、楽器演奏までをキャストが担うことはまれです。

声優が一から楽器演奏をスタートするとなると負担も伴いますが、ここは、元々楽器演奏が得意なキャストがアニメ・ゲームの声優を務めたり、ブシロードの声優事務所・響に所属するキャストが、『バンドリ!』の活動をメインに据える等でクリアしています。

キャラクターコンテンツの多面展開において、ステージ重視のキャスティングというのは、ひとつのポイントだと言えるでしょう。

■自社IPの認知度を高めるために費用をかける

ブシロードのコンテンツ企業としての特徴を挙げてみました。

・自社IPを持ち、タイトルの展開は自社主導で行う
・ヒットが未知数の新規オリジナル作品でも、アニメ、ゲーム、ライブを一斉にスタートさせる
・各タイトルの個性や方向性は、会長の木谷高明氏が決める

ブシロードは、タイトルを新規に立ち上げる際、アニメとゲームとライブを同時期にスタートさせます。CMや駅公告などの宣伝広告も多く、「お客さんの認知度を高めるために」資金を投じます。

《木谷 一見「これはダウンロードにつながるの?」とか「インカム(売り上げ)につながるの?」「ラッピング走らせたからってCD売れるの?」って、考えると思うんですけど。繰り返し潜在意識に刷り込んでいくことによって、いつかはCD購入やダウンロードにつながるはずなので。広告は、積み重ねだと思っています。》

IP企業としてノウハウを蓄積したブシロードは、21年に「IPディベロッパー」という事業戦略を掲げ、『D4DJ』『ARGONAVIS from BanG Dream!』『アサルトリリィ』という新規タイトルを出していきました。

そのひとつ、『D4DJ』の展開例を挙げます。

アニメの放送開始よりも先に、キャストのライブや動画公開、ゲーム(「D4DJ Groovy Mix(グルミク)」)がスタートしています。
アニメは、ひと通りコンテンツが出そろった後に仕掛ける“ファン層を大きく広げるための宣伝媒体”という位置づけです。
アニメを見て作品のファンになった人が、そのままゲームやキャストの動画を見に行き、アニメ終了後にもキャラクターの物語やキャストの動画を楽しめるという導線ができています。

費用をかけてでも作品の認知度を高めることを優先し、『バンドリ!』等、すでにヒットしたタイトルで補填しながら新規タイトルのファンを増やしていく、そんな“攻めの経営”が見えてきます。

■一社でアニメ、ゲーム、ステージを統括する

ひとつのIPを育てるためにアニメ、ゲーム、ライブを同時に展開する。そうした手法を取るケースは限られています。リスクが大きいからです。

コンテンツビジネスの特性として、“どのタイトルが当たるかが未知数”というリスクがあります。
よってスタンダードな手法としては、アニメ、ゲーム、ライブの展開には、(原作が大ヒットしている等の安心材料がない限りは)ある程度段階を踏みます。コミックスがヒットしたらアニメ化、アニメがヒットしたらゲーム化、制作期間はライブや舞台等のステージで繋ぐといった形です。
共同でIPを持つ製作委員会的な座組みの場合は、アニメ、ゲーム、音楽については各コンテンツ会社が自社の得意分野を担当し、それが負荷分散としても機能しています。

また、日本でアニメ、ゲーム、ライブ(ステージ)のすべてを自社主導で行う企業は、バンダイナムコグループと、アニプレックスのように限られています。
二社とブシロードとの企業規模を比較してみます。(※いずれも2020年3月決算記事による)
ざっくりとですが、バンダイナムコグループの売上高はゲーム+映像音楽+IPプロデュース部門で約3950億円。
アニプレックスはゲーム+映像+ライブ部門で1500億円です。

一方、ブシロードは売上高330億円です。
自社主導で各分野を統括するコンテンツ企業としては、サイズが大きいわけではありません(前述の二社が巨大という話もありますが)。

ブシロードでは、自社でコンテンツをハンドリングするために、「タイトル数を絞る」という手法を取っています。

ブシロード最大の特徴は、1タイトルに賭ける情熱というか、覚悟の大きさにあるのかもしれません。ブシロードは自社初のメディアミックス作品である『探偵オペラ ミルキィホームズ』についても、作品イベントを10年間、継続しました。「当たるか当たらないかではなく、当たるまでやる」という意気込みを感じます。それが攻めの経営と言われるブシロードの特徴的なところだと言えます。

■統括するひとりの「好み」を軸にして

タイトル数を絞り、1タイトルに資金を投入する。それを可能にしているのは、タイトルの個性や展開を決める判断が、ブシロード代表取締役会長の木谷高明氏にゆだねられているからです。

ブシロードの原動力は、木谷氏の発想力にあります。
驚いたのが、『D4DJ』について“DJもの”という、これまで見たことがないジャンルを立ち上げた経緯です。

先に挙げた「日経クロストレンド」記事内、木谷氏の発言です。

F1のシンガポールグランプリの会場で開催されたライブを見て、『みんなが知っている曲を流すとこんなに盛り上がるんだ』と驚いた。そこで、『次はDJだ』と思ったんです。DJならバンドよりも幅広い曲が扱えて、幅広い年齢層にアピールできる

未知数のジャンルについて、”社長の発案”でプロジェクトを立ち上げることができる。それは今のコンテンツを取り巻く状況の中では、強みになり得ると感じます。

今のコンテンツ事業は、関わる企業数も展開も、年々規模が大きくなっています。昔のような“大きな中小企業”的な意志決定の速さは持ちにくくなっているのです。

攻めの経営が見えるブシロードですが、これまでに大きな失敗はありません。そこには幾つか理由があります。
新規タイトル投資分を先行タイトルで補うことができる強みもありつつ、”社長の発想”という「ひとりの好みの軸」が1本通っているために、先行タイトルのファンにも興味を持ってもらいやすいのです。

『バンドリ!』と『D4DJ』もそのような関係に見えます。

ひとつのタイトルのファンが、次に来るブシロードの同系統の隣接タイトルも楽しみにしており、アニメが始まる前からゲームやライブに積極的に参加する、という循環があります。
“固定ファン”が見込める点も強みだと言えます。

【次回】はブシロードについて、ファンを増やしていく工夫について書いていきたいと思います。


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