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「圧の強さ」はマスにも負けない価値を持つ【連載22・オタク視点で見るアニメ】

【前編】の続きです。
「ファンの圧が強い」と呼ばれているコンテンツの特徴は何か? 
圧が強いファンがいるコンテンツの長所とは何か?

社長に「1000人が10回観たくなる作品です」と訴えた
――『キンプリ』西Pに訊く『KING OF PRISM by PrettyRhythm』
西浩子プロデューサーインタビュー(前編)(ASCII.jp/2016年03月21日)


女児向け作品のスピンオフという形で出発した本作品は、大人には知名度がない状態で大人向けに展開していくことになり、その際に重視したのは、最初からいた熱心な大人のファンだったというお話です。
ポイントは、
・「1000人が10回来てくれる」作品を目指した
・“リピーター獲得数”が勝負どころになる
というところ。

この『KING OF PRISM』が知られるようになったのは「映画館での応援上映」ですが、「アニメコンテンツビジネス」という軸で見た時のエポックは、「リピーターを視野に入れた」ことではないかと思います。

■圧が強いコンテンツの特徴

ここで圧が強いと言われるコンテンツとファン心理の特徴を上げてみます。

●代替が利かない唯一の要素がある(ただし人を選ぶ)
他の作品にはない要素があるというのは、熱心なファンを生みやすいです。
たとえば、『KING OF PRISM』では、登場人物が歌とダンスをするということで、見た目は「アイドルもの」に近いですが、物語は、競技ものであり、登場人物の家族にスポットが当たるなど、少年マンガとホームドラマのブレンドでやや“泥臭さ”もある作品になっています。
この“泥臭さ”という点が、他のアイドル作品に無い要素として、熱心なファンを生んでいます。

逆に言うと、この泥臭さが、キラキラしたアイドルものが好きな人たち全員に受けいれられるかというと、……そこは「人を選ぶ」ということになります。唯一の要素は、コアなユーザーを育てやすいです。

●ファンが公式に愛着を持ち、支える意識がある
ファンは、自分たちにとって唯一のコンテンツを存続させてくれる「公式」と作り手のスタッフを応援しようという気持ちになります。

一方で、ファン心理として、熱意は上がるほどに心配に変わったりもします。
「この唯一のコンテンツの展開が終わってしまったらどうしよう」。
「自分たちはとても楽しいけど、ご新規さんが入りにくいコア層向けに見えて作品の敷居を高くしていたらどうしよう」というのが、圧が強いファンの心配事で、
「このコンテンツは、自分たちが支えないと存続しないのではないか」と精いっぱい支えようという意識に繋がります。
マーケティング的に言えば、我々圧の強いファンは、エンゲージメントしっぱなし…なのかもしれません。

■圧の強さと消費行動の関係は?

圧が強いファンの消費行動は、少し独特です。

●リピート率が高い
唯一の要素があるために、ファンは、その唯一のものを体験するために行動します。映画館、ステージ、コラボショップに通ったり、グッズを集めたり、もちろん映像や楽曲の円盤(ソフト)も購入します。
映像や楽曲のソフトは、「繰り返し楽しむ」という消費行動と深く結びついています。

※キンプリ応援上映のため、大阪・梅田の映画館に遠征した話も良かったら読んでください。
https://note.com/watanabeyumiko/n/nf0ac45fc5293

●客単価が高め
唯一のものなので、ファンは売っている物を自分が可能な範囲でできるだけ多く購入しようと思います。買い逃したら、いつ買えるかわからないので、後悔したくないのです。

●母数より「のべ人数」
コンテンツの売り上げと人気の指標のひとつが「ライブの動員数」ですが、数万人のドームは難しくても、1万何千人のハコで昼夜2回公演をすれば、2万何千人になる。圧が強いファンは昼夜2回行く人も多く、「のべ人数」も動員数になります。
そもそもステージものは人間が演じている以上、毎回違う表現が出てくるので観たくなってしまうのです。

■圧の強いファンが多いコンテンツの最大の長所は?

「ニッチ要素」が入ることで圧が強いファンが生まれる。圧が強いコンテンツは、母数よりも回数カウントだと書いてきました。

こうしたコンテンツの最大の長所は、ロングテールであるということになると思います。

ファンは代替が利かないコンテンツに愛着を持ち、支えようと思うので、すぐに次の作品に目移りして“推し変”したりしません。

■膨大なコンテンツの中で「刺さる」は価値になる

前回記事『雑誌の「マス」、読者の「旬」はどこにあるのか【連載20・オタク視点で見るアニメ】』では、お客さんの「好みの細分化」が進み、マスが見つからないことを書きました。

現在は、好みの細分化が進んでいる上に、コンテンツの数が膨大でお客さんが追い切れないという課題があります。
アニメもマンガもゲームも、作品数が激増したために、すべてを追い切れない。目にとまらないうちに流れてしまったり、ブームになった作品でも第二期が作られることには勢いがひと段落してしまうケースもあります。

膨大なコンテンツの激流の中で、「刺さる」「愛着を持つ」ということがどれだけ貴重なことか。

圧の高いニッチコンテンツは、マスより劣っているのではなく、回数も含めた新しい活かし方と価値があると思うのです。

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