見出し画像

2023年11月 おかげ参り3

←前
 三越のライオン像前を過ぎ(松阪は三越の創業者、三井高利の出身地でもある。越後屋ですね。そんな縁で、ライオン像が町の広場に鎮座してた)、続いて向かったのは旧長谷川治郎兵衛家。こちらも木綿問屋として江戸・日本橋で成功を収めた豪商です。特にガイドさんの案内もなく、勝手に見て回ります。広大な家屋に、神社まである庭園。うむ。先ほどの小津家と比べるとすんなり終えたけれど、まぁ時間にそこまで余裕があるわけではないので。
 道を行くと地元のお弁当屋。丁度、働く方々が買い求めているところでした。お弁当。これから松坂城跡行くし、お城の上には座るとこもあるかもだし悪くない、と思うものの、風が結構強くて少し寒さも感じる。まぁ、うん、よしとこうか。というわけで、城に向かってずんずん行けば、丁度昔ながらの定食屋。城攻めは腹ごしらえのあとにしましょうかと暖簾をくぐれば、ほぼ満席。あぁ、じゃあ、城攻めのあとにしようかと松阪城跡へ。整然とした石垣が尊く。基本的には石垣の上を歩く感じで、見晴らしもそこまでいいわけでなく、ただとっても空が広くて、枯れ木の向こうに白い雲が流れていたので、白い木みたいなトリック写真を撮っておりました。さて! そろそろ飯屋の混雑は解消されたか! と再び暖簾をくぐれば、さほど変わりなく。ただ、今日営業しているお店はあまりなく、加えてお店の昔ながらの佇まいが嬉しく、何より「人手が足りませんので、お茶やお水はセルフでしていただけると助かります。早く提供できるよう頑張ります。」といった感じの紙がででんと貼られていて、あぁ、この店いいなぁ、と。とりあえず壁に貼られているメニューはどれも魅力的で(大体500円ちょいだからほんと安い)結構迷ったけれど、ラーメン半チャーハン(800円)。周囲の方々は時間を気にしては苦笑いを浮かべていたけれど、まぁこちらは謎解きマップとにらめっこしながらのんびり待つとします。書く物がないので、スマホのメモアプリにこれまで集めた手がかりを打ち込んでいって、そしたら一つの言葉が浮かび上がって、そんでもってその言葉を念頭に置いてもう一度謎解きマップを見返してみたら……ちょっと子供向けかなぁ、と思っていたけれど大いに唸りました。今までノイズかと思っていた情報が最後の最後で役に立つとは。で、体感そこまで待つことなく、料理が供される。ラーメンの上に置かれたハム半切れ。ハム。やっぱり何だかこの店に来て良かったなぁ、と。味はラーメン、チャーハンともにもうちっと濃くてもいいかなとは思ったけれど、いやでもこの感じが美味しいのです。ごちそうさまでした。
 その後、御城番屋敷やら原田次郎旧宅などを見て回り、鄙びた町並みの中でいきなり現代的なミュージアムに出くわしてびっくりしつつ、観光交流センターへ。受付の方に、謎解きマップの合い言葉を伝える。認定証をいただけた。子供向けかなと思ってたら、割と難しくてかなり楽しかったです、なんてこともお伝えする。なお、謎解き後にwebアンケートに参加すると松阪牛を含む賞品が抽選で当たるとのこと(〆切りが11月末で、家でゆっくりやろうと思ってたらキャンペーンが終了してたよ……)。といわけで堪能しました松阪。謎解きも含めて思った以上に長時間散策しました。ありがとうございました。

 そうして列車に乗り込み、やはりうとうとしながら名古屋へ戻ります。そんでもって名鉄本線に乗り換えて、三度目の有松へ。今までの名古屋系の旅日記でも触れてきたけれど、KONMASAさんのビルへ。KONMASAビルは999日間=来年2月で営業を終えるので、そのラスト展示、KONMASAさんの個展を見にやってきました(これまでの作品の経緯を綴ったKONMASA本の文章編集を渡辺が行ったので、ついでに自分の仕事を確認しにきたという意味合いもあります)。KONMASAさんご本人に茶を入れてもらい(基本、本人がお店に立ってます)、少し雑談をしてからギャラリーへ。自分が以前にらめっこしていた文章が、映像に合わせて朗読されていきます。やはり文字と声では、受ける印象に少し差があるなぁと。明らかにこの言葉付け加えました感が出ていたり、逆に文章だと少し違和感あるかもと思ってたとこが、すんなりと響いたり。3Fでは真剣に5分くらい瞑想体験をしてみたけれど、いや自分の意識がうるさいことうるさいこと。4Fでは最新の作品を眺めて(名古屋のナナちゃん人形に着せてた巨大タンクトップもあった)、最後は屋上に向かう階段に飾られた日本地図を見て終わる──。ここも、自分にとってはおかげ参りの地でありました。
 その後、有松でご飯を食べ、夜10時前に名古屋・栄の新しめなホテルにチェックイン。だいぶ遅くなったし、大浴場で温まってから早々に眠りましょう。おやすみなさいませ。

最終日

 朝食はお洒落なバゲットサンド。昨晩のうちに挟む具材はコンビーフを選んでおきました。付け合わせがサラダにピクルスに、まさかのポテチだったけれど、美味しかったです。ごちそうさまでした。
 その後、顔を洗うついでに大浴場に浸かり(露天風呂では、近隣工事の音がガガガガ)、今日も時間ぎりぎりにチェックアウト。名古屋を発つのはお昼だけれど、それまでどこを見て回ろう。名古屋城は以前巡ったし……てなわけで久屋大通公園を抜けて、北へ。何か良く分からないまま三の丸庭園をぐるりとして、近くにあった迎賓館の国際交流展示室を何これと思いつつ見に行く。名古屋市と友好都市といった感じの提携を結んだ6都市から贈られた品々が展示されている。受付も「ご用の方はお電話を」と受話器があるだけで、他には誰もいない空間。とりあえず展示品を覗いていく。ロサンゼルスとかからはかなり厳めしい鍵を贈られているんだけれど、これは本当にどこかの鍵なんだろうか。それとも友好都市関係を結んだ際によく見られる定番の贈り物なんだろうか。あとはメキシコの暦やら、トラロック神の小さな像を眺めたり(ゲームで知ってる)。こういう友好都市の関係って、もし万が一戦争が始まったときには「あそこの市とは友好都市を締結していて、我が国の文化価値の高い物品を贈っているから、あそこの市を爆撃するのはやめよう」とかそういうことになるんだろか、てなことを思う。
 さて展示を見終え、少しばかり北に歩を向けると、国会議事堂っぽい見た目の煉瓦壁の瀟洒な建物。名古屋市市政資料館、を兼ねている旧裁判所であります。今日はここを見学しようかと。なんだけれど、入り口でフォトウェディングの撮影が行われていて入れない……と思ったら、どうぞ入ってくださいとスタッフの方が声をかけてくださる。それではお邪魔して、新郎新婦の後ろを通過し館内へ。そしたら中央階段のある大広間でも別のフォトウェディング。まぁ確かに古き良き映えスポットでさあ。とりあえず一階から見て回る。まず向かったのは留置場。殺風景な独居房、ただ真四角なだけの雑居房があって、ここでもフォトウェディングの撮影が、あるわけねぇだろ。そもそもこの旧裁判所に行こうと思ったのは、ホテル周辺のマップをぐりぐり動かしていて、この留置場の写真を見かけたからでした。おもしろそ。いってみよ。てな感じで。で、留置場。裁判所なのだから留置場くらいあるでしょ、みたいに思ってたけれど、案内板を読み込むと、留置場は本来警察にあるのであって、裁判所にあるのは不思議、どういう使われ方をしていたのか謎、みたいなことが書かれている。確かに。その後フォトウェディングを避けながら、検事やら弁護士やらの部屋を見て回る。というか部屋の銘板がどれも「士護辯」といった感じで、旧字体やら右読みやらで時代を感じます。で、ここでも謎解き企画をやっているようだったので、時間もあったし事務室で冊子をもらって参加してみることにした(同じ冊子を手に館内を歩いてる方が結構いた)。ついでに水曜の11時からはガイドツアーも催しているようなので、タイミングもいいのでそれにも申し込んでみた。で、ツアーが始まる20分。ちょっぱやでクリアしてやらぁ、と謎解きに挑戦したが、三問目で行き詰まる。で、集合時間となり、あえなく撤退であります。
 さてガイドツアー。定刻に自分より年配の女性がやってこられ、他に参加者もいないので、マンツーマンでガイド開始である。最初は休憩室に対面で座って、この旧裁判所の歴史を座学である。近代監獄の父、山下啓次郎による建築。日本最古の控訴院(今で言う高等裁判所)建築。ここの裁判所では手狭になってきたので移転となり、今の建物は取り壊しなりかけたが、近隣住民から保存して欲しいと嘆願があり、国はそれを了承したが、管理は名古屋市で行ってね、という経緯やらを伺う。これずっと座学かな、だったら謎解きやりたかったなぁ(謎解きを作ったのも目の前にいる方)、と思っていたが、ようやく立ち上がりまずは外へと出る。途中、恒例のフォトウェディングの光景に出くわし「1日に10組くらいの撮影がある」といった話が出てくる。「こうやって人気が出たのなら、取り壊さなかったのは良かったのかもしれませんね」とお伝え。「私もそう思います」といった返事にガイドの方のこの建物への思いを感じる。
 さて外。建物を振り返り、「何か気づくことはありませんか?」と出し抜けに問われ、無茶ぶりやと思いつつ「とりあえず正面のエンブレムが目に付きますね」とバイオハザードみたいな着眼点を披露する。正解は「左右対称」とのことだったが、金色のエンブレムにももちろん意味はあり、象られているのは「二本の剣と、あれは……」鏡。正確には「神剣神鏡」とのこと。剣と鏡。思いつくのは──。「何だか熱田神宮っぽいデザインですね」「そうなんです。控訴院のレリーフはすべてデザインが異なっていて、熱田神宮がある名古屋だからこその神剣神鏡なのかもしれません」てな感じで(日本神話における三種の神器、剣は熱田神宮、鏡は伊勢神宮、勾玉は皇居に安置されている)。一対一のガイドツアーで、説明する前にそのことに触れる。これはまさしく。「何だかブラタモリみたいですね」とお伝えしたら、毎回少人数開催になっているとのことで。その他にも煉瓦造りは地震の多い国には向かないなんて話も出て、言われてみれば新しい煉瓦建築なんて見ないな、と唸る。なお、建物の中央上部には小さなドームがあって、それがいいデザインなのだけれど、中には木組みがあるだけとのことで、機能的役割ではなく、外観的な意味合いでの建築なのだとか(中に入る道筋も、外からじゃないとないとか)。
 再び館内へ。荘厳で豪勢な感じの階段。フォトウェディングが行われてなかったので、ここぞとばかりに写真を撮る。天井のステンドグラスは日輪、階段を上がりきったところのステンドグラスは天秤をモチーフにしているとのこと。手すりの下の格子は他では見ない意匠なのだけれど、鉄製とのことで戦時中に回収されたので一時は木製だったが、今は復元している。柱の上部と下部で、表面に絵付けをしたフェイクと本物の大理石に分かれていたり。その中でも自分が一番注目したのは館内の窓ガラス。割れる直前の薄氷のような細かな模様がびっしりと入っていて、こんなガラスみたことないぞ、何だこれと思っていたら、結霜(けっそう)ガラスと呼ばれる、ガラスの表面に膠(にかわ)を塗りつけて乾く際に表面に出来る模様を利用した珍しいガラスなのだとか。ほほう。その他、巨大な絨毯(中国天津より再現輸入)を敷き詰めた貴族っぽい印象の会議室やらを見て回り、ガイドツアーは終了である。いや、思いがけず、本当に楽しかった。ありがとうございました。そしてさていい頃合い。ご飯にしましょ。

 さっきのガイドさんと名古屋観光から昼飯の話になり、自分が鰻を食べるつもりだと話したら、すぐ近くに美味しいお店がありますよ、というわけで、最後にその店名を伺っておいたので、旧裁判所の目と鼻の先の鰻屋へ直行である。有名店のようだけれど、平日ということもあってか運良く席が空いていた。席へと通される途中に鼻を打ち付ける蒲焼きの匂い。たまりません。ただ、名古屋といえばのひつまぶしは、鰻本来の味を最後まで味わえないようにも思えるので鰻丼にしましょ。何だか今回の旅は食費が嵩んでいるような気がするので、竹で。しばし待つ、間に先ほど溶けなかった謎を。謎を解くには実際に旧裁判所に立つ必要のある設問もあったが、まぁ他の謎が解ければ、おのずと最終的な答えが見えてくるだろうてな具合で解いていく。といったところで、鰻丼である。うん、うまい。表面がかりっとしている。うまい。だが最高点ではない。やっぱ慣れということもあってか、自分はふわっと柔い鰻が好みのようで。とはいえ満足なご馳走でした。ごちそうさまでした。
 さてあとは帰るのみである。時間に大して余裕はないけれど、駅まで3kmちょい歩いて行きましょう。というわけで円頓寺商店街を抜け、10分前に新幹線のホームへ。伊勢は混雑していてあまり旅情を覚えることはなかったけれど、思いがけず松阪と名古屋の旧裁判所のガイドツアーが楽しく、何だかんだで旅を満喫できました(なお、裁判所の謎解きは新幹線内でしっかりと解明いたしました)。今回も長々とお付き合い下さりありがとうございました。おかげ参り、これにて完です。アイお世話!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?