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[8]今もF1の中心地はイギリスだから、本気なら早く一度来た方が良い

F1エンジニアに憧れる人へ。実際に目指してきた経験を元に、F1に憧れる人へ連載を始めました。筆者は:日本の高校→イギリスの大学→英F1チームインターン(2017-18)等してました。
・収録マガジン:「F1で働く
・前回記事「[7]F1の求職・仕事情報の見つけ方や載ってる場所まとめ

こんにちは、わたぽんです。

僕はF1エンジニアを目指してイギリスの大学へ進学する道を選びました。理由は単純。

「イギリスがF1の中心地だったから。」

野球選手はメジャーリーグに憧れ、世界を目指す起業家がシリコンバレーに価値を見出す。あるいはサッカー選手がバロンドール獲得のために、まずはリーガ・エスパニョーラを目指そうというのと似ています。

F1なら、イギリス。
これは1970年代から変わらない事実。

だからF1を目指そうという人がいれば、「まずはイギリスへ来た方が良いよ」と言います。これは結構優しい言い方で、実際は、

「イギリスに来なきゃ、本気じゃないと見られても仕方ないね」

とも表現できます。真剣に。

今回はまず、F1を目指すのにイギリスへなるべく早く来るべき理由を洗い出します。それを踏まえ、F1チーム側(つまり雇う側)から見た「日本人を雇いにくい理由」を考えてみましょう。


F1目指すならイギリスへ今すぐ行くべき理由

大きく5つあります。

(1) F1チームのほとんどがイギリスにある

よく言われることですが、F1チームの多くがイギリスに本拠地を構えています。本拠地が別の場所にあっても、何かしらの形でイギリスに関わってる。逆にイギリスから距離を置いてるのは、フェラーリ(イタリア)とザウバー(スイス)だけ。

メルセデスはドイツの会社だけど、F1レースチームはイギリス。ルノーもフランスだが同上。ハースやトロロッソはチーム国籍は各々アメリカ、イタリアとなってるけど、イギリスにもオフィス・ファクトリーがあります。

チームがイギリスにあることがどう僕達にとって大事かと言うと、F1就職情報もイギリスに固まってるということ。イギリスばっかりです。ほんとに。

しかもザウバーだってイギリスの大学にリクルートメントに来るし、フェラーリも「イギリス帰りのイタリア人」を好んでる。

イギリス万歳です。


(2) ヨーロッパが中心のスポーツ

日本人からすると、F1はあくまでヨーロッパ中心のスポーツとして成り立ってきたことを忘れてはいけません。

19年にイギリスのシルバーストーンで初めてF1が行われて以来、ずっとヨーロッパが中心となってきた。それは地理的な問題にとどまらず、政治的な意味でも。

結局、日本からどやかく言ったところでF1としては聞く意味は少ないわけで、何か大きな変更がある時はいつも、欧州視点

だから、働く側としてもヨーロッパに取り入ってしまう方が早い。F1を変えたいだとか、F1でプレゼンスを示すというのも、正直、中に入ってしまってからの方がやりやすいし。

また、ヨーロッパの働き方、価値観を分かっていないと、正直F1に入りこむのは難しいと言えます。


(3) 大学でレースについて専門的に学べる(研究が進んでる)

特に大学(院)に限ると、イギリスに来るべき理由がさらに出てきます。

イギリスの大学には、レースを専門的に学べる学部・学科がたくさんあります。例えばサウサンプトン大学のパンフレットを見てみると良いでしょう。あちこちにF1の写真が出てきます。サウサンプトンの場合、マスター向けのコースで、"Race car aerodynamics"という講義もある。文字通り、「レースカーの空気力学について」。まさに、レースカー空力設計者を目指す人のためのコースです。

他の大学でも、Motorsport engineering学部・学科があったり、Formula Student(学生フォーミュラ)で強かったりします。あ、でもFormula Studentで強いのはドイツやわ。イギリスそんなに強くはない。笑

研究を始めれば、教授のレースに対する造詣の深さにも気づくでしょう。レースカーの研究に大きく貢献してきた、イギリスの大学。そこには業界の第一人者がいます。

同時に彼らは、F1チームの外部リクルーターの役割も果たします。大学教授が「あの学生は良いよ」と、繋がりのあるF1チームに評価をシェア。F1チームはその情報も手に、どの学生を取るかジャッジします。

言い換えれば、イギリスの大学でF1と繋がりのある教授に評価されれば、F1への道も切り開きやすいということです。


(4) 英語環境

同時に、言語的な問題もあります。

F1の公式言語は、フランス語と英語。まあ公式と言っても文書で使われる言語がそうってだけで、実際みんな話してるのは英語。一部イタリア語を好むチームもあるけれど、英語を理解してないってわけじゃない。

そんな中で働きたいなら、やっぱり英語を使う環境に身を置いておくのが手っ取り早い。

習うより慣れよ、です。


(5) 就労ビザ

結構厄介なのが、就労ビザの問題。日本人がイギリスのチームで働くには、ビザが必要です。

この就労ビザなんですが、普通に取るよりも少しだけ簡単な方法があります。それが、学生ビザからの切り替え

イギリスの大学(院)を卒業してからイギリスで就職となると、学生ビザから就労ビザへの切り替えができます。その過程でビザによって、卒業後もイギリスに残って職探しをすることが数か月間認められています。

もう一つの大きな大きな利点が、給料面です。
就労ビザの規定の中には、最低賃金が定められています。おかげで、日本のなーんにもイギリスと関係ない人が就労ビザを取ろうとすると、最低賃金に届かなくて仕事に手が届かない、ということにもなります。だから、結構な経験者でないと、ビザ的にイギリスに手が届かない。

それが、学生ビザからの切り替えだと「Graduate(新卒)」扱いとなります。ビザに求められる最低賃金が、通常より低くなる。それでも十分高いんですが…。

(おまけで付け足すと、ビザ規定の最低賃金は、その業界・職種の平均賃金によって定められている、と政府は言ってます。で、F1のエアロダイナミシストは、自動車業界に割り振られてしまう。だから、アストンマーティンとかジャガーとかが、平均に含まれる。もちろん、F1チームと比べると基本給料高いです…汗)



F1チーム側の事情 - なぜ日本にいる人を取りたがらないか

「F1を目指すならイギリスへ」というのは職探しをしてる側の目線。F1を本気で目指すなら、「なぜF1チーム側は日本にいる人を取りたがらないか?」も考えるべきです。なぜだと思いますか?


率直に書くと、「日本にいる人とか訳わからない」のです。イギリスのF1チーム側からしたら。

就職事情、就労環境、文化、言語、経験…

どれを取っても、情報が限られてる。それはインタネットが発達した今でもそうです。彼らからしたら、よく分からない東洋人を取るより、知ってる人を取りたい。その方が確実性は高い。

特にF1は村社会なところがあって、「知ってること」が大きな鍵にもなります。


そして、またまたビザの問題もあります。

イギリスのビザ規定では、海外からの就労者を受け入れる企業側も、金銭的負担・リスクを背負う形になっています。

イギリス人やEU圏内(執筆時はまだEU脱退してません)の人なら保証とか気にしなくて良いものの、ビザを必要とする海外からの人を取るなら、色々と面倒なことも起こる。そこまでして取る理由ってなんだ?

そう考えると、わざわざ海外の人を取る必要性って少なかったりします。言い換えれば、その必要性を生み出す"何か"が求められる。

同時に、各チームがビザを必要とする人を雇える数は、イギリスのビザ雇用ルールで定まっています。なので、どうでもいい人に貴重なビザ必要枠を使いたくない、というのが本音。海外からでもとびきり優秀な人を呼び寄せるために、できればその枠を使いたい。

そこで最初の部分に戻ります。
でも日本にいる人とか、よく分かんねーや、と。


その点、F1を目指し、なるべくF1に近いところへと、まずはフランスに渡ることにした神野エンジニアの判断は凄かったです。

「フランスでの仕事経験はたったの6ヶ月ではあったものの、転職活動再開から3ヶ月で面接に呼ばれた回数はなんと3回もありました。」と書かれています。

ちなみに神野さんのブログ内でトロロッソからの引き抜き事案が出てきていますが、僕にも連絡が来ていました。実は他の日本人でF1目指してイギリス来てる人にも連絡が来てたようで、「ホンダと組むけど日本のことさっぱり分からないから、とりあえず日本人でイギリスにいる人に一斉送信しとこう」となってたみたいです。利用媒体はLinkedIn。

これもつまり、当時イギリスでF1を目指していたらチャンスだったかもしれないということです。



実はイギリスと並んで興味深い国:アメリカ

ここまでイギリスに行こう! と煽るようにさえ書いてきたのですが、最後にちょっと僕が気になってることを。

アメリカってどうなのかなって。

インディーカーやNASCAR等、アメリカには独自のレース文化があります。しかも結構巨大な。それに加え、F1の運営母体がアメリカのリバティメディアになった。これまでの欧州市場主義から、もしかしたら変わっていくかもしれません。

実際今までも、F1至上最強のエンジニアと呼ばれるエイドリアン・ニューウェイ氏が、キャリア初期にインディーカーをやっていたこともあります。

正直この点については僕も予測できないのですが、今後もF1含め、モータースポーツの中心がどう遷移していくのか興味深いところ。それにはレースを見るだけじゃなく、幅広い視点で考えていく必要がありますね。


F1を目指す人へのTips

基本は、F1目指すなら今は(今も)イギリスがベストだ!!! ということです。

昔こんな記事も書いた↓

一つ付け足すとすれば、イギリスにはやっぱり、F1好きな人、分かる人が多いってことかな。一緒に頑張る仲間がいると、自然とやる気もみなぎってきます!

ちゃんちゃん。

次週もお楽しみに!


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